京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「予期せぬ出来事」(さる作)
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ある日の午後・・僕の携帯が聞き覚えの有る音楽を奏でた。

『・・竜崎の奴・・また人の着信音変えたな?』

アイツは何時もそうだ。自分の気に入りの音を僕の携帯の・・自分からの着信音にしたがる。唯単に、自分からの電話だから必ず出ろ・・そう言いたいだけなのだろう。意外な事に奴は子供っぽい束縛を好んでやってくる。反応を見たいのか、それとも何か別な考えがあってやっているのか・・どちらにせよ僕には迷惑な事でしかならない。

『はい・・・やっぱりお前か・・?竜崎?』

仕方なく出た物の向こうからの声に力が無い。何時もならば今何処ですか?から始まって何時に戻って来れますかだの、何買って来てくれだの言いたい方題するのだが今日は気のせいか大人しい・・。

『・・・ライト君・・・今日は此方に来られますか・・?』

『え・・?あ、あぁ・・そうだな。遅くなるかもしれないが行こうと思ってるよ。・・・?竜崎、どうかしたのか?』

『・・・変ですか?』

変だから聞いてるとか思わないのか?そもそも自分で何を話してるのか分かってるんだろうか?

『変と言うか・・元気が無いと言うか・・具合でも悪いのか?』

沈黙・・本当に変だ。仕方ない、ミサとのデートは後回しにして様子を見に行こう。気になって仕方ないし、何故か胸騒ぎがする。

『竜崎、一旦電話を切るよ?又後で僕から掛けるから・・良いかい?』

『・・・ハイ・・』

電話を切った僕は上着を手に、夕暮れ迫る街に出て行った。“キラ”を追い求めるあいつが元気が無いなんて、捜査に躓いた時か甘い物が切れた時だ。単純にそう思った僕は竜崎の好きな店で、竜崎の一番のお気に入りのケーキを買い本部へと向かった。暗証番号と指紋、眼紋の照合をして中に入ると意外な事に誰も居なかった。本部のパソコン機器や室内の灯りが点けっぱなしな所を見ると、別室で会議でもしているのかも知れないなと単純に考えた。僕が此処に来るまでの間に始まってしまったのなら、竜崎もその中に居るんだろう。僕がケーキを片手に如何したら良いかと悩んでいると、慌てた様子のワタリが本部内に入って来た。誰も居ないと考えていたのか、僕の姿を見て少し驚いた様だった。何時もなら何があろうと動じない彼の慌て振りに僕も驚いたが、それ以上に竜崎の身に何かあったかも知れない事の方が心臓を跳ね上がらせる。

『ワタリさん、竜崎が如何かしたんですか?』

僕の不躾な質問に訝しげにするが、不思議な事に直ぐに優しげな表情になった。その顔はまるで父親の様に見え、僕がその顔を見て戸惑ってしまう位だった。彼は上着を取りながら僕に答える。

『少し体調が悪いと申されまして・・あぁ・・でも心配には及びません。時たま起こる事なんです・・来て頂いたばかりで申し訳無いのですが、私は薬の調達に少しの間留守にするのでその間竜崎を見ていて貰えませんでしょうか?・・・夜神さん達は階下で会議中ですから、此処には竜崎だけになってしまうんです。』

『其れは構いませんが・・“キラ”の仕業とかでは無いんですね?』

もしかしたら海紗が何かしたかも知れない・・そう思った僕は何も考えずにそう口にしていた。ワタリの動きが一瞬止まる。

『えぇ、違います・・何故そう思うんです?』

低い・・威嚇する様な声・・僕は自分の失態を取り繕う為に頭をフル回転させた。

『竜崎は“キラ”を追っているんですよ?昨日までは何とも無かった人間が急に具合が悪くなったなんて・・心配になるのは当たり前じゃないですか。胸が苦しいとか無いんですね?』

我ながらワザとらしいなと感じる台詞に彼も考えている様子だ。しかし、今回ばかりは本当に自分では無い。海紗だとすれば少し困った事になるが、其れは如何にでもするし・・いざとなれば・・黒い考えが浮かぶ。其れを知ってか知らずか・・ワタリは警戒する様に僕を見定め始める・・僕は臆さずに彼を見つめ返した。そして何を如何納得したのか・・ワタリは上着を羽織りながら僕に言った。

『・・・貴方を信用する事にしましょう。では、暫くの間、竜崎をお願い致します。』
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