京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「HIGH CRIME」(さる作)
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ある日、唐突にリンダが言った。

『もう直ぐメロの誕生日だから、皆でパーティーしましょう。料理は女の子達に任せてね?男の子達は会場の用意をして頂戴・・二ア、貴方も参加するのよ!?』

此処ワイミーズは才能のある子供達を集め、“L”になる為の教育をしている特別な場所だ。場所はイギリスのド田舎・・見渡す限り草原と森しか見えない辺鄙な所だ。此処に来る子供の大半はスカウトだが、中には親に捨てられて来る奴も居る・・・俺も半ば追い出される様な形で此処に連れて来られた。本名は使用しない・・其れが俺を捨てて行った母親が望んだ事・・代わりに俺の今後は全て保障する事・・・俺は此処でマットと呼ばれる事になった。リンダも理由こそ聞かないが親に捨てられた口らしい・・皆の面倒を良く見る優しい女の子だ・・が、メロの誕生日を祝う?どっからそんな発想が出て来るんだ?大体、そんな事をしなくてもワイミーズの子供達の誕生会は毎月やってるじゃないか?

『マット・・何か言いたい事でも?面倒臭いとかは無しよ。』

『・・面倒臭いというか・・』

俺が“何故だ?”と聞く前に、リンダが目で合図して来た。皆の前では言い難い事らしい・・もしかして・・俺は何と無くだが予想をし、言葉を止めた。

『さぁ、皆準備に取り掛かりましょう。私はロジャーに調理室の使用許可を貰って来るから、皆は先に行ってて・・倉庫からケーキの材料を持って来ておいてね・・。』

その場に居た全員が出払ったのを見計らって、俺が話を切り出した。

『・・・又来やがったのか・・?』

リンダが項垂れて答える。

『えぇ・・メロのご両親・・・でも、もう来る事は無いわ・・二度とね。』

『!? 如何言う事だ!?』

『・・・彼はあの家にはもう戻れなくなった・・其れだけよ。』

俺は腸が煮えくり返るほどの怒りを感じた。今まで、“此処に預けたが帰して欲しい”だの“跡継ぎとして相応しい”だのと散々ロジャーにイチャモン付けといて・・・何か理由付けては会いに来てたくせに・・如何言う事だ!!

『・・・理由は・・?』

『貴方にも責任はあるのよ・・。最近、貴方達ロジャーの眼を盗んで夜の街に遊びに行っているでしょう?』

『? そんなの良くある事じゃないか・・まぁ、規則違反をしてたのは悪かったけど・・何の関係があるんだよ。』

『喧嘩騒ぎを起こした事・・あるんでしょ?』

俺の心臓がびくりと動いた。・・先月、俺とメロ・・後数人の男達でワイミーズを抜け出して、繁華街に遊びに行った。その時・・確かに街のゴロツキと喧嘩になり、メロがリーダーの男を殴り倒して・・でも警察が来る前に逃げて無事だった・・筈だ。俺はリンダの顔を見れなかった。

『其れが・・原因て言う訳?』

『・・したのね・・・良い事?殴った相手は上院議員の息子で、メロのお父様の上司にあたるの。愛人の子供の話を覚えてるなんて其の方も怖いけど、其の馬鹿息子の話を聞いてメロが犯人て断定したメロのお父様も怖いわ。本当は殺すって息巻いて来たんですもの・・。偶々、ロジャーの知人であるワタリと言う方がいて、止めて下さったから良い様な物の・・マット、貴方如何するの?』

答えられなかった・・・答え様にも言葉が頭の中を空回りするだけで口に出て来なかった。売られた喧嘩を買ったのは俺・・メロは止めてたのに・・黙りこくった俺に溜息を付き彼女が言った。

『・・・貴方が一番“L”に近いと言われながら候補としては3番目なのは・・そう言う無鉄砲な行動が多いからじゃないの?・・・私・・行くわね。』

『・・・メロは・・?』

『・・ロジャーと話してるわ。』

リンダは其れだけ言うと部屋を出て行った。俺は1人残り自分の愚かさを呪っていた・・。これじゃあ家を出された時と何も変わっていない!?自分勝手で、遣りたい様に生きてる我儘な自分・・・大嫌いな以前の俺と・・過去がフィールドバックする・・。




『兄さん、危ないよ!?止めようよ!』

豪華な家具に飾られた室内・・父親の猟銃を抱え格好を付ける俺・・セピア色の記憶の中で唯一色を持つ4歳下の弟・・俺は弟が止めるのも聞かず、危険な玩具を楽しげに振り回す。

『安全装置は付いてる、大丈夫さ!どうだ、格好良いだろぅ?お前もやれよ。』

金持ちの息子の遊び・・危険も何もかも手の中で操れると・・過信していた。事実、俺が父親の会社を運営していると言っても過言ではなかったし、今までこうしていても何も無かった・・この日までは・・・―。突然俺は後ろに吹き飛ばされた。両肩は脱臼し、動く事も儘ならない。耐え難い痛みの中、俺は弟に助けを求めた。
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