京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「Method of Modern Love」(さる作)
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それは・・何時もの様にラジオを聴きながら武器の手入れをしていた時の事だった―。

普段はちゃらちゃらしたラジオ等聴かない俺だが、夏美がどんな物に興味が有るのか知りたくて同じ時間にラジオを点ける癖がついていた。その日は“623の俺ラジオ”の後、何となく付けっ放しにしていた。喧しいだけの騒音がただ耳に入る・・“ふん・・どいつもくだらん・・”そう思い、ラジオを消そうとしたその時一曲の歌が俺の耳に飛び込んで来た。それは・・今までの騒音とは違い、甘いメロディーが奏でられている曲だった・・何時もの俺だったなら“女々しい”と言って消してしまっていたろう。だが・・その曲だけは武器の手入れする手を止め、又“聴きたい”と・・願ってしまう程魅了されてしまった。




その日、クルルは珍しく外出していた。何と無く・・気が向いての外出は久し振りだったクルルは、行き先を決めず街を飛び回っていた。“たまには外も良いじゃねぇか・・此れでオッサンがいれば直良いんだがな・・”そんな事を考えていた。気分良く丘の上にある大木の所まで来た時、眼下に見慣れた赤い姿を見つけた。大木の下、人待ち顔のギロロはクルルにまったく気付いていない様だった。

『・・あんな所で何してんだ?』

クルルは声を掛けようと近付いた時に、横からその声を奪われた。

『ギロロ〜、ゴメン。待たせたかな?』

馴染みの有るその声は、自分の相棒である睦実の物だった。手を振りながらギロロに近付いて行く睦実、照れくさそうに・・それでも待ち侘びた様に微笑むギロロ・・。

『何だよ・・此れ・・』

あんな待ち侘びた顔なんか俺の前でも滅多にしないくせに、何で睦実なんかにしてるんだよ・・胸がジリジリと焦がれる。声を掛けるタイミングを逃したせいか近寄りがたくなってしまったクルルは、其のまま彼等を見下ろしていた。睦実が鞄の中から何かを取り出してギロロに渡す・・小さな箱の様だ。それを嬉しそうに・・愛しそうに受け取るギロロ・・睦実がギロロに近付き、話し掛ける・・ギロロは顔を赤くさせて何かを呟くと微笑んだ。他愛無い、二人のやり取りが仲睦まじい恋人同士の様に見え益々胸が焦がれる・・。怒りにも似た物が頭を支配し、感情が抑えられなくなりそうなクルルは静かに二人の背後・・大木の影に降り立った。二人の会話が聞こえて来る・・。

『操作の方法とかは大丈夫?』

『あぁ、この書いて来て貰った物で充分だ。面倒を掛けたな・・。』

『此れ位軽い物だよ。・・それにしてもギロロにしては珍しい物を気に入ったんだね。最初に相談された時は本当に驚いたよ。』

『・・おかしいか・・?ま、まぁ俺らしくは無いか・・』

どうやら頼み事をしていたらしいが・・何なんだ・・この会話は・・!?どうして俺はこそこそ聞いてるんだ?何時もの様に行けば良いじゃねぇか・・どうして行けないんだ・・?自問自答している間も、会話は続いていた。

『・・じゃ、ギロロ、俺そろそろ行くね。』

『あぁ、本当に今日は有難う・・何か礼が出来れば良いんだか・・』

睦実の声が弾む・・

『良いよ、お礼なんて。』

『いや・・それでは示しがつかん。』

くそ真面目だな・・相変わらず・・二人の様子を覗き込む。馬鹿・・そいつ相手にあんまり無防備にしてんじゃねぇよ・・。俺の心配を知らないギロロは睦実に近付いて行く。そして俺の予感が的中した・・。

『大袈裟だなぁ・・気にしないで貰えるのが一番のお礼なんだけど?』

あどけなく笑う睦実・・困った顔のおっさん・・何で困るんだよ!気にしないでって言ってるんだから、気にすんなよ・・そんな無防備な顔を俺以外の奴に見せんじゃねぇよ・・。余りにも困っているギロロを見て、睦実が何かを思い付いた様に微笑む。そして少し屈むとギロロにこう言った。

『ん〜…じゃあ、此れはどうかなぁ・・ギロロ、耳貸してくれる?』

『? 何故だ?はっきり言えば良いだろう?』

『ちょっと恥ずかしいお願いなんだ・・。』

『? ・・じゃあ・・』

じゃあ・・じゃねぇ!?あの野郎、おっさんに何やらせる気だ?気を揉むクルルの眼に悪戯っぽく笑う睦実がギロロの頬にキスをするのが映った。

『!? な、な、な・・』

真っ赤な顔で狼狽えるギロロに悪怯れる事も無く甘い微笑みを見せる睦実は素早く後退り、手を振りながら言った。

『油断大敵ってね・・あんまり無防備にしてちゃ駄目だよ、ギロロ?・・じゃ、今のでチャラって事で良いよね?あ、それ返さなくて良いから・・又ね。』
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