京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「雷電RYDEEN-SRATM REMIX」(さる作)
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その日ケロロはケロン星の総本部内を歩いていた。


『見ろよ・・・ケロロだぜ・・・』

『あいつが?嘘だろ、あんなに若い奴だったのか!?』

『大佐が3年かかって落ちなかった要塞を、たった1日で落としたって言う・・・』

『ガルル中尉じゃないのか?』

『ガルル中尉は他の任務で出払ってて、急遽あいつが地球から戻されたのさ。』

人々の囁きなどまるで気にしないように、ケロロは真っ直ぐに前を見たまま歩いて行った・・・その姿に何時ものおどけた所は無く、何処か冷酷な雰囲気を醸し出していた。

『・・・相変わらず煩いでありますな、此所は・・・』

溜息混じりにそう呟くと、ケロロは歩く速度を速めた。

賛辞も羨望も嫉妬も気にならない。
そんな物は欲しくは無い。
欲しい物は唯一つ・・・・

そんな考えが頭の中を巡るのは、あの世界で初めて手に入れた“安息”と“自由”のせいかも知れないなと苦笑いが浮かぶ。
もう少しで目的の部屋に辿り着く間際、ケロロの足を止める声が静かに館内に響いた。

『貴様が噂の軍曹か・・・?』

低い・・・くぐもった声の主はガッチリした体格の男だった。その男は顔に火傷の痕があるケロロより少し年上な感じだった。ケロロは訝しげに彼を見ると、少し考えてから小馬鹿にする様な微笑みを浮かべながら答えた。

『・・・そうでありますが?もしかして・・・ソルル大佐・・でありますか?』

歩みを緩めながらそう問い掛けるケロロの態度に、大佐は顔をしかめながら近付いて来た。

『噂に違わず無礼な奴だな・・・まぁ良い・・・貴様に聞きたい事がある。』

普通ならば上官の前であるならば姿勢を正し簡潔に答えなければならない場面で、ケロロはあくまでも態度を変えようとはしなかった。それどころか更に見下す様な話し方で答える。

『ほうほう・・・ソルル大佐とあろう御方が、一介の軍曹である我輩に何をお聞きになりたいと?』

鼻につく言い方に眉根を寄せる大佐は、それでも落ち着いた言い方で話を続けた。

『貴様、どうやって敵陣を崩した?』

『どうやって・・・でありますか?』

『そうだ!奴等の防衛術は鉄壁だ。我々選ばれた者が3年掛かっても落とせない程にな・・・なのに何故、貴様の様な男がたった1日で出来た!?どんな手を使った!!まさか貴様・・・仲間を引き連れて・・・・』

大佐がそこ迄言った時、急にケロロの態度が変わった。今迄のからかう様な態度から一変し、ケロロに纏い付く空気が凍り付く様な感じになった。それを見た大佐が言葉を失ったのを確認すると、ケロロは口元だけで微笑んで冷たい声で話し始めた。

『・・・・良く喋る口でありますなぁ・・・どうやって?鉄壁?選ばれた者?・・・・そんな事聞いているから、何時迄経っても大佐止まりなんでありますよ〜。』

『何!?・・・貴様、それが上官に向かって言う言葉か!!』

顔を赤くして怒りを顕にする大佐がケロロの胸倉に掴みかかった。だがケロロはその手を素早く掴み返し、強く握り締めた。驚き眼を見開く大佐を見据えながら、冷酷に言葉を突き付ける。

『上官・・・?誰が・・・?我輩が1日で落とした敵陣に3年も掛けた馬鹿な男の事でありますか?仲間を引き連れて・・・?馬鹿言って貰っちゃ困るでありますなぁ・・・皆を危険に晒すなんて真似、我輩しないであります。・・・・第一階級なんて無意味でありますよ。あんたみたいな無能が大佐まで行けるでありますし?』

『な・・・!?貴様!!』

ケロロは大佐の手を投げ捨てる様に放すと、上目遣いで微笑みながら言い放った。

『あんたなんか無用の産物でありますよ・・・二度と我輩に言葉を掛けないで欲しいでありますな。んじゃ、我輩急ぐんでこれで失礼するであります。』

踵を返し、背中を向け立ち去ろうとするケロロに大佐は銃で狙いをつけた。其れに気付いたケロロは一度だけ振り返った。そして大佐の行動を鼻で笑うと、再び背を向け歩き始めた。大佐はケロロの其の態度に激怒し、狙いを定め引き金を引こうとした。

『・・・・自身の軽口を悔やむのだな・・・』

小さくそう呟き、引き金の指に力を入れようとした其の時・・・大佐の背後から声を掛けた人物がいた。

『ソルル大佐!』

大佐は其の声に驚き、振り返った。大佐に声を掛け、其の場に立っていたのはガルルだった。ガルルは大佐の手に銃が握られているのを見て、眼光を鋭くしながら言葉を続けた。

『大佐ともあろうお方が背後から、しかも武器を持たぬ物に狙いを付けるとは感心しませんな・・・。』

大佐はガルルの其の言葉にバツが悪そうに顔を顰めると、何事も無かったかの様に銃を収めた。

『・・・ガルル中尉殿か・・・何・・躾の悪い部下を躾けるのも我々上官の務めと思ったんだが・・・・まぁ、確かに背後からと言うのは私も少々気が引ける所。この場は引いてやろう。・・・貴殿の弟は確かあの男の部下でしたな・・・では少し忠告してやるのも良いかも知れませんな・・・失礼する。』

其れだけ言うと大佐は足早に其の場から去って行った。ガルルは大佐の其の姿を見送りながら、呆れた様に呟いた。

『・・・ゲスが・・・あの男を見縊ると痛い目を見るのは己だと言う事を理解していない様だな・・・。忠告・・・?ギロロが傍にいる事を考えればできん話だ・・・・まぁ、危害は加えんだろうが利用はするだろうからな・・・。』

溜息混じりに俯くと、ケロロが消えた通路に眼をやり自身も其の場から立ち去って行った。
数分後・・・ケロロは提督の部屋にいた。相変わらず、其の態度を変える事無くケロロは憮然とした顔で立っていた。其のケロロに提督が声を掛ける。

『おお・・・ケロロか・・・待ち兼ねたぞ。今回の任務ご苦労であった・・・・』

低く威厳のある声に僅かにケロロが身を硬くする・・だが臆す事無く言葉を返した。其れはケロロの男としての意地でもあった。

『・・・あんな程度の敵に数年も掛けるとは、ケロンの軍人も地に堕ちたでありますな。』

ケロロの言葉に其の場にいた警護の者が騒ぎ出すが、提督は笑いながら話を続けた。

『ははははは・・・・・・・全く其の通りだな・・・階級ばかりにしがみ付く者がのさばり始めておる・・・そろそろ<掃除>の時期かも知れんな・・。さて・・・ケロロよ・・・約束通りに願いを一つ叶えてやろう。何でも言うが良い・・・』

ケロロは僅かに眉を顰めた。この目の前の“提督”と呼ばれる男は本当に嫌な奴だと心から感じた。何時も軍に<膿>が溜まり始めると、自分を呼び寄せ褒美を餌に<選別>をさせる・・・役に立つ者と役に立たない者を分け、不要な者は<任務>と称し過酷な戦場に送られ<掃除>される・・・。恨まれるのは自分・・・そんな嫌な事も承知で召集に準じるのは何もかも自分の望みの為・・・・。

『・・・では何時もの通りにして頂きたいであります。』

『何時もの・・・?あぁ・・<地球に配属されている自分を含めた小隊全員の自由>・・・だったな?』

『そうであります。緊急の任務・・・例えばケロン星に係わる事以外、我々の事は放っておく事・・・此れが望みであります。』

僅かに沈黙が訪れた・・・提督はケロロの事をじっと見詰めていた。

この男は実に面白い・・・一夜にして強固な敵陣を落とす力を持っていながらも、望む事は些細な事・・・敵に回せば恐ろしいが、手にある内は何処まで役に立つのか試してみたい・・・・

そんな事を考えていた。ケロロは提督の言葉を待った。待つしかなかった。自分だけならば兎も角、小隊全員の命はこの男に握られているからだ。“Yes”なら当分は何事も無くいられる・・・だが“No”なら・・・・ケロロの掌は汗でしっとりと濡れていた。

『・・・・・地球侵略は如何する?』

不意にそんな言葉が投げ掛けられた。不意に地球に残して来た仲間と冬樹達の顔が浮かんだケロロは一瞬の間を空け答えた。

『我輩の気が向くまでは・・・以前そう言った筈でありますが・・・?其れにあんな程度の星ならば、1日も掛からず落とせるでありますよ。何たって小隊全員いる訳ですし?・・・・今は未だ・・・他に話をつけておかなくちゃいけない部分もあるであります・・・・其れは本部と銀河連邦の間で話を進めて欲しいであります。』

『・・・良いだろう。何時の間にかあの星は中立星になっている・・・急に我々が手を出したとあれば星間戦争が始まるかも知れんしな。話し合いは進めておく様に進言しよう。下がるが良い。』

『・・・失礼するであります。』

ケロロは部屋を出て、帰還すべく宇宙艇ステーションへと急いだ。吐き気がするのは、此処の空気の悪さのせいだ・・・・嫉妬や羨望の眼差しや言葉が煩いせいだからだ・・・早く皆の顔が見たい・・・そんな事を考えていた。
ケロロがケロンから立ち去るのを部屋の窓から見送った提督に、周囲の者が進言した。

『提督閣下・・・あのままのさばらせて置いて良いので?』

提督は其の言葉を背中で聞きながら、飛び去って行く飛行艇から眼を放そうとはしなかった。そしてこう言い放った。

『・・・良い武器と言うのは、手入れ次第で凶器にもなる・・・あれは其れと同じだ・・・。使い方次第では脅威になる・・・・今は未だ放って置くが良い。』

そして口元に微笑を浮かべながら、声には出さない言葉を浮かべた。

<いざと言う時は、小隊全員の命を盾にこの手に納める事だしな・・・>         《完》

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