京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「New York City Serenade」(さる作)
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此の光景を見るのも今日で最後だな・・・

俺の其の呟きに応えるのは、何時もお前だけだった。煙草とゲームを手放せない、一見軽そうな此の男を俺は何時でも心の拠り所にしている・・・ニアに負けたくない一心でワイミーズを飛び出し、少しでもLに近付きたくて無茶だと言われる事もして来た。其の傍らには・・・マット・・・何時もお前の姿があった―――。

『此のネオンと街に暫くお別れだな?』

咥え煙草なままのお前が、俺に向かって微笑みながらそう告げる。

『・・・さあな・・・』

気のない俺の返事をマットは鼻で笑った。そして顔をちかづけながら自信満々に言う。

『さあな・・じゃねえよ。お前、ニアに勝つ為に日本に行くんだろ?それとも自信が無いとか?』

『そんな訳ねぇだろ!・・・唯・・相手は“キラ”だ。狡猾で油断ならない奴だからな・・少しくらい慎重になるさ・・。』

至近距離で見つめ合う俺達・・何時に無く真剣なまなざしで互いを瞳の中に刻み混む。僅かな時間無言だった・・・言葉は不要な気がした。マットの手が俺の髪に触れる・・くすぐったさに首を窄めると、急にニヤリと笑い俺の鼻先に噛み付きおでこをつついた。

『痛っ!?・・・・なにすんだよ!』

マットは踊る様なステップで俺から遠ざかり、からかう様に言い放った。

『馬鹿面してるからだよ、それともキスして欲しかったぁ?』

『・・!?・・バーカ!んな訳無いだろう!?』

『そうか?それにしちゃあ、随分とうっとりとしてたんじゃねぇの?』

その時・・・光り輝く大きな橋の灯と街のきらびやかなネオンの中に、マットが吸い込まれ消えて行く様に見えた。俺は咄嗟にマットの腕を掴み、自分の方に引き寄せた。
驚き眼を丸くするマットに、何も言葉をかける事が出来なかった・・・何故・・そんな事をしたのか分からなかった。理解出来ない感情が俺の中で蠢いている・・・手を放したら、消えてしまいそうだから・・そんな言葉等、言える訳が無かった。

『何だよ?・・どうしたんだ?』

『・・何でもねぇよ・・・俺が留守中の間、あの女の見張りは頼むからな・・。』

『?・・何だよ・・変な奴だな。あぁ、退屈だけど見ててやるよ。あ、でも逃がしちまったらご免な?』

『バーカ・・・真面目にやれよ?』

上辺だけの会話・・上辺だけの微笑み・・上辺だけの強気・・・俺の顔を見て微笑むお前の本当の笑顔・・俺はマットの眼を覗き込もうとした。けれど夜の闇とネオンの光が邪魔をして、今マットがどんな眼で俺を見詰めているのか分からなかった。見詰めていたい気持ちと、早く離れたい気持ちが鬩ぎ合う・・俺は掴んでいた手を放し、口元で笑った。

『・・・じゃあな・・・』

こんな言葉しか出てこない。

『おう、頑張れよ。』

お前の声は冷静だった。
俺はマットに背を向けて、そのまま二度と振り返らずに歩き出した・・・一歩・・・又一歩・・・遠くなる身体・・・“寂しさ”と言う感情に蓋をして、俺はマットと分かれて行った。
マットの感情を置き去りのままに―――。
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