京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二
□「Scarborough Fair」(さる作)
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昔みた光景・・・小さな街の小さな祭り・・・小さかった私はワタリに手を引かれ、ゆっくりと見て歩いた・・。細やかで・・でも、素朴で幸せな光景を外側から見ている私は相容れない気持ちを抱いたのを覚えている―――。
『もう直ぐ夏祭りがあるんだけど、良かったら竜崎も一緒に行かないか?』
ある夏の昼下がり、急にそんな事をライト君が言い始めた。私は持っていたアイスティーのグラスを弄びながら、今彼が言った事に付いて考えていた。
『?・・如何したんだ竜崎?嫌なのか?』
ライト君が怪訝そうにそう言いながら私の顔を覗き見る・・・小首を傾げる仕草に愛らしさと違和感を感じた。黙り込んでしまった私を見詰めたまま答えを待つライト君に、私はグラスをテーブルの上に置きながら答えた。
『いえ・・・すみません。今貴方が言った事に付いて考えていました。』
『何だよ?そんな考える事でも無いだろう?』
若干戸惑い気味の私を見るのが楽しいのか、ライト君は笑いながら話を続けた。
『日本のお祭は初めてだろう?どうせなら大きい祭りを見に行きたいなぁと思って、色々調べたんだ。』
そう言うと徐に何枚かのパンフレットを差し出し、私に説明を始めた。
『今からだと大きい物は東北でやる物が多いんだ。で、仙台七夕なら大きいし、綺麗だし観光地もあって良いと思うんだけど如何かな?』
『如何と言われましても・・・私は・・別に・・』
別に行きたくない・・・そう言うつもりだった。だが何を勘違いをしたのかライト君はとても嬉しそうに微笑むと、急に立ち上がりドアへと向かって歩き出した。驚く私に爽やかな笑顔を向け、“手配は全部僕がやる。竜崎は此処で待っていれば良いよ。”と一言だけ告げると早々に部屋を後にした。
『・・・・ライト君が行きたいようですね・・・』
1人部屋に取り残された私は、そんな事を呟いてみる・・。如何してこんなにもお祭りに行く事に抵抗があるのか・・・不可思議で理解出来ない己の心に、僅かな苛立ちがつのる。
『きっと・・・ライト君となら楽しいです・・・』
何処か救いを求める様な言葉に、深く溜息し・・目を閉じた。
古い・・・遠い記憶の渦の中・・・小さな私が1人歩いている。廻りには賑やかな人々の騒めく声・・見知る人も無く、不安感に押し潰されそうになる私・・・泣きたいのか叫びたいのか分からない・・其の私に触れる大きな手の温かさに涙が出そうになる・・・・。
『・・・・崎・・・・竜崎!』
ライト君の声に、私は僅かな睡眠から現実へと引き戻される。眼を開くと目の前には小さな旅行カバンを持ったライト君が、私の顔を覗き込みながら困った顔をしていた。
『起きたか?もうじき仙台に到着するぞ。』
『・・・・そうですか。』
ボーッとしている私の頬に触れながら、ライト君が軽いキスを交わして来た。
『・・・折角ワタリさんが個室を取ってくれたのに、寝てばかりだったな。』
新幹線の個室・・・折角だから旅行という物を経験しなさいとワタリが取って来てくれた。色んな事を経験しなさいと・・・2人だけの旅行に(多分ワタリは何処かしらに隠れている筈だが・・)不安と幸福両方を感じる・・。
『もっと何かしたかったんですか?』
何と無くからかいたくて出た言葉に、顔を赤くし答えるライト君が可愛いと思った。
『な・・・!?ば、馬鹿!!そんなんじゃない!?・・・唯・・2人きりは本当に久し振りだから・・・・色々話だってしたいじゃないか!!』
『今夜の事とか?』
『〜〜〜〜もういい!?ほら、降りるぞ!!』
荷物を鷲掴みにし個室から飛び出す様に出て行くライト君を見ると、自然と顔が綻んで行く・・。
『今夜の宿の話・・・だったんですけどねぇ・・・』
ゆっくりとスピードを落とし始めた列車に、私自身も動き始める。彼とならこんな不安感も何時かは消えて無くなる様な気がした。