京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「月光 - Solo Piano - 」(さる作)
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其れは最初の裁き・・・小さな月明かりが犯した最初の罪・・――――。


    月   光     


『ライト!そんなに離れちゃ駄目だ・・・危ないぞ!?』

『大丈夫だよ、お父さん。僕ちゃんと気を付けてるから・・・!』

其の日・・・ライトは幼稚園の父親参観日に尊敬する父、総一郎が訪れてくれた事を心から喜んでいた。何時もは仕事に追われ、自宅にいる事も少ない総一郎がライトの為にと忙しい中を縫って来てくれたのだ。今、関わっている事件の総指揮を執っている総一郎が息子の為だけに用意した僅かな時間・・・参観が終われば直ぐにでも本部に戻らなければならない事をライトは知っている。だからこそ今のこの時を大切にしたいと・・そう願っていた。利発で面倒見が良く、誰にでも好かれる良い息子・・・幼稚園内でも一目置かれる存在で、羨む声も多く聞かれた。

『夜神さんの所の息子さん・・・ライト君でしたっけ?あの子良い子ですねぇ〜。聞き分けも良いし、頭も良いでしょう?羨ましいわぁ・・。』

『ライト君のお陰で、クラスの子達の纏まりが良くなって助かります。』

普段遊んでやれない息子の、見る事が出来なかった現状・・・此れで少しは父親らしい事が出来ただろうかと、嬉しそうに前を走る息子を見ながら総一郎は思った。

『お父さぁん!早く、早くぅ!?お仕事に遅れちゃうよぉ!!』

駐車場に停められた車の前で大きく手を振りながら、ライトは父を呼んでいた。

『あぁ・・今行く、待っていなさい。』

家に着くまでの僅かな父との時間、粧裕もいなければ母もいない独り占め出来る時・・・どんな話をしようかライトは、自分の元に歩み寄る父の姿を見ながらそう考えていた。ワクワクする心でもう一度父の顔を見ると、何かに驚いた様な顔で自分の横を見ている。ライトは不思議に思い、自分の横に目をやった。すると其処には何時の間にか一人の男が佇んでいた。男は白いワイシャツにブル―のGパンを穿いていた。頬には大きな傷跡があり、其の目は何処か狂気を感じさせる光を宿していた。ライトは其の目で見据えられ、一瞬躊躇したが直ぐに後退り逃げようとした。

『ライト!?』

父の叫び声が耳の中に飛び込んで来る・・・其の声をライトは男の腕の中で聞いていた。逃げ様とした腕を掴まれ、抵抗する間も無く軽々と持ち上げられ其の首元には鋭いナイフがあてがわれていた。其の冷たさに恐怖し動く事も出来ない・・・。

『・・・・あんた・・・夜神だろ・・・?』

男が低く唸る様な声でそう父に問い掛ける。

『あぁ、そうだ・・・君は誰だ・・・息子を如何する気だ!?』

ライトは男の顔を見上げると、父を睨みながら不気味の微笑んでいた。男はなおも父に話し掛ける。

『さぁね・・・あんたが俺の要求さえ呑んでくれたなら、無事かも知れないけどな・・・』

首にあてられたナイフが僅かに動いた。

『痛っ・・・!』

ライトは小さく声を上げた・・細く白い首から一筋の赤が流れ地面に落ちた。

『ライト!?・・・止めろ、何が目的だ!!』

『あぁ・・・わりい・・・ちっと切れちまったなぁ・・・でも、ちっとだ・・大丈夫だよな?坊主・・』

男は腰に抱えているライトを、自分の顔の方へと持ち上げそう囁いた。ライトは其の男の顔から逃れ様と、思わず顔を背けた。生臭い・・・ねっとりとした息が顔の掛かる気持ち悪さ悪寒が走った。

『おとう・・さあん・・』

小さな呟きを男は嬉しそうに聞き、父に言い放った。

『おとうさぁん・・・かぁ?聞いたかよ、夜神・・・おとうさんだってよぉ・・・はっ、はははは・・!?』

狂気じみた其の笑いに、父総一郎は苛立ちを隠せなかった。しかし、短気を起こせば息子の命が危ない・・拳を握り締めながら男に要求を聞いた。

『如何すれば良い・・・?』

男は父の其の言葉に、より不気味な笑顔を浮かべこう言い放った。

『俺さぁ・・あんた達が探してる犯人・・・なんだよね・・・。』

『!? 何だって!!』

『早く捕まえて欲しくて、いいぃっぱい手がかり残して来てやったのにさぁ・・・何日待っても来ないじゃん?だからぁ・・・じれちゃってさぁ・・・こうして出て来たって訳・・・分かる?』

父は男の言葉に動揺した・・・自分が今追っている事件・・・其れは連続殺人だったからだ。
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