京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「真夏の夜の夢」(さる作)
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満月のある夜・・・僕はケロロ君に誘われて2人きりで夜空に駆け出した。上空の空気は未だひんやりと冷たくて、照れくささで火照った身体には心地良く感じる。時折・・・後ろから追い掛ける僕を振り向き、無邪気な笑顔を見せる君は何を考えているの?ホンの少しの不安が僕の胸に過ぎるのは、君が定期健診から帰って来てから様子がおかしいからだろうか・・・?

『ドロロ〜、早く・・・こっちこっちぃ―!?』

そう言いながら君が手招きする場所は、人気の消えた綺麗な噴水のある公園だった。其処はタママ君がお世話になっている西澤家所有の公園だった。こんなに夜遅くだと言うのに、噴水が夜空に向けて水を高く吹き上げていた。其の水が月明かりに映えてキラキラと輝き、池に綺麗な模様を広げて行く。

『・・・うわぁぁぁ・・・綺麗だねぇ・・・ケロロ君・・』

降り立った僕が思わずそう呟くと、とても嬉しそうに微笑みながら近くにあるベンチに腰掛ける。

『よっ・・と・・喜んで貰えて良かったであります。ささ、ドロロもこっちに来るでありますよ。桃華殿がお月見用にお茶とお菓子を用意してくれたでありますから、早速頂くであります。』

そう言いながら用意されていたポットから、カップにお茶を注ぎ僕に差し出す・・僕は其れを受け取り、何と無く遠慮がちにケロロ君の横に腰掛けた。

『温かい・・・・』

お茶は僕の好きな日本茶で、甘味のあるふくよかな味とお茶の葉の良い香りが喉に温度を残しながら降って行く。ふとお茶の入ったカップに眼をやると、緑色の液体の中に蜂蜜色に輝く満月がポッカリと浮かんでいた。其れが妙に嬉しくて・・ケロロ君にも教えたくて彼のいる方に振り向くと、僕の顔を嬉しそうに眺めていたケロロ君と眼が合った。思わず高鳴る胸と染まる頬を隠し切れず目を逸らしてしまった僕は、心の中で“怒ったかな・・・”と思いながらも恥ずかしさから如何してもケロロ君の方を見る事が出来ないでいた。そんな僕をやはり嬉しそうに見詰め続けるケロロ君が、ようやく口を開いたのは僕がおずおずと上目がちに見詰め返した時だった。

『・・・・やっと我輩の方見てくれた・・・嬉しいでありますよ・・・。』

『あ・・・ご、御免・・見られてるとは思わなくて、つい・・・照れてしまって・・・・綺麗な月だね。』

『うん、喜んでくれて幸せでありますよ・・お菓子・・食べるでありますか?』

『うん、頂くね。』

用意して貰った綺麗な和菓子を選んでいた時、ケロロ君が其の内の一つを摘み上げた。其れは僕も選んでいた物だった。内心がっかりしていた物の、折角の時間を台無しにしたくなくて僕は黙っていた。するとケロロ君は徐に其のお菓子を僕の口元に持って来るとこう言って来た。

『はい、ドロロ・・・あ〜〜んしてぇ?』

『え・・ぇぇぇぇぇぇえ!?え・・ちょっ・・・駄目だよ・・・そんなぁ・・』

『何がぁ?・・はい!あ〜〜〜ん!?』

『えぇ・・・あ・・・あ〜ん・・・』

半ば強制に近い其の行為に、僕は恥ずかしさを感じながらも口を開かずにいられなかった。所謂練り切りと呼ばれる其のお菓子は、其の細工や色使い等見ていても飽きない・・・食べても其の甘さはくどさを感じない上品な物で、お茶の香りを引き立たせてくれる・・でも・・・今日のお菓子ははっきり言って味なんか分からない・・・そんなに見詰められると恥ずかしさで消えてしまいそうになる・・・。

『美味しいぃ〜?』

そんな僕の心を感じているのかいないのか・・・ケロロ君は無邪気にそう問い掛けて来た。

『・・・う・・うん、美味しい・・な。』

『あ、本当?じゃ、我輩も食べよぉっと!?・・・ん〜流石は西澤家、最高でありますなぁ!!』

ケロロ君は無邪気に青いお菓子を一つ、口に放り込むと美味しそうに食べている。僕は何と無くホッとすると一口お茶を口に含んだ。ケロロ君も同様にお茶を飲んでいる・・・思わず微笑んでしまう僕・・・。

『こうやって2人でのんびりするのも久し振りでありますなぁ・・・』

『そうだねぇ・・普段は皆と一緒に過ごしてるしね。僕は小雪殿と修行してるし・・・』

地球侵略の事がふと・・・頭を掠めた。そう・・・忘れていたけれど、僕達は侵略者・・・僕は地球側に付いてしまったけれど、ケロロ君達はきっと催促されたりしているのだろうと考えると申し訳が無かった。

『煩い赤ダルマもクルルに任せて来たし、タママには後で買い物に付き合う約束で今日一日大人しくしててくれるって約束させたし、モア殿も夏美殿と買い物に行って其の侭御泊りだし・・・なぁんにも邪魔は入らないであります!』
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