京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「誘惑-Because I LOVE U」(さる作)
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もう直ぐ其処まで来ている終焉の時、“L”が勝つのか“キラ”が勝つのか・・・何れにしろ僕“夜神月”としての人生は終わりを告げようとしている。“新世界の神”となるか、“敗者”になるかの例え様も無い緊張の中・・僕は“L”・・竜崎との時間を楽しんでいる。僕の中で何かが変わり始めているのを感じながら、僕が僕ではない“何か”に心惹かれるのを止める事が出来ない・・・何にも変え難いこの誘惑に僕は打ち勝つ事が出来るのだろうか・・・?



『竜崎、こっちのファイルの処理はもう終わったぞ。次は何をやれば良い?』

深夜の捜査本部・・父達が仮眠を取っているこの時間、僕と竜崎はPCの青白い灯りが灯るこの部屋に2人過ごしている。僕と竜崎の声・・機材の出す機械音以外他に音は無く、時折竜崎が叩くキーボードの音だけが沈黙から2人を救ってくれる。

『流石ライト君・・・早いですね。では、此方のデーターを17番ファイルに入力しておいて下さい。此れで明日、模木さんがデーター処理をスムーズにする事が出来る様になります。』

そう言いながら相変わらずの無表情で僕にCD-Rを手渡す。動く度に揺れる黒髪と、長く細い指が眼を惹き付ける・・。

『分かった・・・なぁ・・竜崎・・この作業は多分30分も掛からないで終わるから少し休憩しないか?僕が紅茶を入れて来るよ。』

僕の誘いに竜崎は首を大きく後ろに逸らせて時計を見る。

『・・・・・あぁ、もうこんな時間でしたか・・?熱中していて気が付きませんでした・・そうですね、そうしましょう。』

軽く伸びをしながら元の姿勢に戻る竜崎は、肩を回したり首を左右に振ったりと忙しない。多分・・・熱中している時は気付かない疲れをほぐそうとしているのだろう。正直、ああ言う所を見ると少しホッとする・・。普段は同じ姿勢で、微動だにせず作業に没頭する・・・それこそ何時間でも、だ。たまに動いたと思えば資料を手元に手繰り寄せたり、紅茶を啜ったりする位だ。其のたまに見せる動作は、機械仕掛けの人形さながらに滑らかで人の眼を引き付ける。

『・・・さぁ、お茶にしよう。今日はディンブラにしたよ。お茶菓子は母さんが持たせてくれたアルカディアで良いかな?』

『良いですね、頂きます。』

癖のある・・口元だけで笑う竜崎・・長い指先が小さめのクッキーを摘み上げ、薄い唇の中に放り込む。味わう様にゆっくりと租借し、紅茶と共に喉の奥へと送り込む・・・僕は其の一部始終を眺めていた。竜崎の動作全てが愛しく、全てが憎しみの対象になる・・。

『・・ライト君・・そんなに見詰めてばかりいないで、ライト君も食べたら如何ですか?』

照れた様に笑いながら言う竜崎の声に、ハッとする僕は思わず視線を外した。何を考えていたのか・・予想しているだろう竜崎のからかう様な視線が恥ずかしかった。

『あ、あぁ・・そうだな。』

同じ様にクッキーを取る僕の指に、竜崎の指が絡み付いて来る。触れ合った温もりに心が躍る・・・竜崎は僕の指先からクッキーを取ると自分の口に銜えると其の侭口移しをして来た。戸惑いながらも視線を絡め捕られ拒否する事も許されない状態に、僕は従うしかなかった。甘い・・ココナッツの香りと共に広がるこの気持ちは何なんだろうか・・・?

『・・如何です?美味しいでしょう?』

屈託なく言う竜崎に、従う様に頷き其れを飲み込む僕は誘惑に駆られていた―――其れはもっと触れる事―――自分の思う侭に求め、確かめ合う事―――だが、素直に其れに従う事は出来ない。僕が僕である限り、僕が“キラ”である限り、竜崎自身が求める事を追求し続ける限り僕達は挑発を・・・誘惑を繰り返して行く・・・。

『・・・あぁ・・・美味しいよ・・』

頬を染めながらも睨み返し、そう答える僕に苦笑し再び口付ける竜崎の首に手を回す。お互いの唇を啜りながら深く・・・軽くとキスを繰り返して行く。全てを喰らい尽くしたいと心から望むと、竜崎は其れを読み取る様に舌を絡め僕を熱くさせる・・・。

『ん・・・んん・・・・』

漏れる吐息さえも惜しいと想える程の高鳴りを、誰が想像出来ただろう・・・。自分の肌を弄る指も唇も何もかも手に入れたい、自分を高みに連れて行く囁きを閉じ込めたい、現実此処にいる竜崎の瞳に永遠に僕だけを映し続けたい・・・。竜崎の唇が音を立てながら脇や腹部に痕跡を残して行く。其の度に反応する僕の手に触れ、指先で擽る様に刺激を繰り返す。

『可愛いですね・・・好きですよ・・・』

心地良い声が胸の奥まで入り込み、支配を始めて行く。
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