京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「月の裏で会ぃましょう」(さる作)
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『ライト君、今夜少し外出しませんか?』

とある月の綺麗な夜、僕は竜崎にそう誘われた。特に断る理由も無かったし、あまりにも見事な満月に僕は快く誘いに応じた。

『あぁ、良いよ。何処へ行こうか?』

其の答えを嬉しそうに微笑みながら手を差し伸べる。

『月に昇りましょうか?貴方と同じ名を持つあの星へ・・――!?』



****月の裏側で会いましょう****



そう言った竜崎が僕を連れて来たのは“L”ビルの屋上だった。ワタリに用意させたのか・・・二人分の軽食とレジャーシート、其の上に上質の毛布を広げて竜崎ははしゃいでいた。

『最近ずぅっと篭り切りでしたからね。近場で申し訳無いんですが、此処が一番月に近いですから・・・さ、用意が出来ました。ライト君・・此方にどうぞ?』

『・・・あぁ、有り難う・・・』

『おや?如何かしましたか?元気がありませんよ?』

不思議そうに話し掛ける竜崎に、少しだけ苛つく・・“出掛ける”と言うから、此のビルから出るのかと思っていたら屋上とはね・・・流石と言うか、余りにも竜崎らしくて喜んでしまった僕が馬鹿みたいじゃないか・・そんな風に考えていた。そんな僕の考えを読んだのか、竜崎は微笑みながら僕にこう言った。

『・・すみません、ライト君。本当は外へ行こうと考えていたのですが、ワタリから厳しく言われてしまいまして・・・仕方無く此処に変更したんです。やはり不満でしたか?』

『い・・いや、そんな事は無いさ。唯・・・竜崎が出掛け様なんて言うのが珍しかったから、驚いただけさ・・・どう言う風の吹き回しだい?』

『んん・・・何で・・・ですか?そうですね・・・何と無く疲れて、窓から外を仰いだら月が出ていて・・その月が余りにも綺麗で・・・そうしたら無性に出掛けたくなって・・・駄目でしたか?』

其の無邪気な問い掛けに、何と無く気恥ずかしさを感じた僕は思わず眼を逸らしながら答えた。

『・・・別に・・・駄目じゃないよ・・・』

『そうですか?良かったです。』

何故そんなにも無防備なんだ・・・仮にも宿敵“キラ”と疑っている僕に、何故そんなにも嬉しそうに微笑みかけるのか・・・?僕は月を仰ぎ見ながら嬉しそうに微笑む竜崎を見詰めた。黒髪に月の光が映え、浮かび上がる・・・白い肌とシャツに蜂蜜色の光が当たり密かに色を添える・・・この広い屋上には2人しかいなくて・・・温かい紅茶が湯気を上げながら大気の中に溶け込んで行く。日々の喧騒等感じる物等何も無く、都会の中とは思えない程の静けさが心を溶かして行く・・・遠くに聞こえて来る車のクラクションだけが、今此処が僕達の街である事を教えてくれる。春先の心地良い少し冷えた空気が、今目の前に有る月の光の温かさを肌に教える・・・。

『・・・如何です?気持ち良いでしょう?』

『・・・あぁ・・・そうだな。たまにはこんな事も良いな・・・。』

僕が満足げにそう言うと、殊更嬉しそうに微笑み毛布の上に寝転ぶ。

『今・・・私達が追っている“キラ”もこの月を見ているんですかね・・?』

唇に指を添えながら空を見据える竜崎は、呟く様にポツリとそう言った。僕は内心穏やかでは無かったが、何も答えない訳にもいかず差し障り無い答えを口した。

『如何だろうね・・・でも、もし見ていたとしたなら僕達と同じ様に穏やかな気持ちなんじゃないかな?』

『そうだと良いです・・・今日だけは静かにしていてくれる事を望みますね・・・折角の2人きりですしね。』

寝転んだままで僕を見る竜崎・・・手を僕の方に伸ばし触れようとする。其れを確認した僕は少し照れ臭さを感じながらも、其の伸ばした指先に触れる。ほんの少し冷たくなった指先から、竜崎の優しさが伝わり心が締め付けられる・・。不意に思う・・・もしも僕が竜崎の追っている“キラ”だと知っても、こんな風に笑ってくれるのだろうかと・・・?如何してこんな風に考え出してしまったのか・・・答え等分かっている筈なのに、あえて聞いてみたい衝動に駆られてしまう。

『如何しました・・・ライト君?』

黙ってしまった僕に優しい声で問い掛ける竜崎・・・絡み付く視線に引き寄せられる様に僕から竜崎に口付けた・・――。何の抵抗も無く受け入れてくれる竜崎は、其の侭僕を抱き締める。其の腕の温もりが嬉しくて・・・月の光が優しくて・・・僕は唇を離し竜崎に問い掛けた。
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