京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「The Stranger - B.J. - 」(さる作)
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悪夢ってぇのは大概予期していない時に突然やって来る・・・俺に架せられた呪縛みてぇに、解き放ちたくとも解けない永遠の物だ・・・。センパイと過ごす様になってからはそいつ等とは縁が切れた筈だった。

ある日、俺はとある用事で普段は立ち寄らない酒場に来ていた。ブッチャケて言うなら正規ルートじゃ手に入り辛い物を、ヤバイ友人に依頼・・引き取りに来た訳だ。取り引き自体は何事も無く済み、帰ろうとした時・・俺は店のカウンターに見慣れた姿を確認した。正確に言えば“体色”に目を奪われた、だ。其の場な相応しくない程の紫苑・・・隣りには極上の女を侍らし、酒を味わっている。時折・・女が何かを耳打ちすると微かに笑う。

『へぇ・・・お偉いガルル中尉もたまには羽目を外すって・・か・・・?』

そう呟いた時、俺はガルルの隣りに座る女と目が合った。女は愛想笑いを振り撒き、赤い唇で誘った・・だか、俺はそんなセクシーな仕草には気付かずに別な事に気を取られていた。其れは女の顔だった・・・俺は其の顔には覚えがあった。いいや・・俺だけじゃねぇ・・・センパイやタママ、ゼロロには忘れる事の出来ねぇ顔だ。そして・・・奴・・ガルルにとっても・・・。俺は何故か胸糞悪さを感じ、ガルルに声を掛けた。

『よぉ・・・アンタがこんな場末に居るなんてどう言うこった?センパイは知ってんのか?』

俺の声に反応はする物の、一瞥しただけで何も返そうとはしない。むしろ放って置けと言いたげだった。

『何だい坊や?あたしの客取ろうって言うのかい!?』

ガルルの代わりに女がからかう様に話し掛けて来る。俺は間近で女の顔を凝視する・・・違う・・・確かにこいつも極上だが・・・似てはいない・・似ている訳が無い・・あれ程の美貌を持つ奴なんかいる訳が無い・・唯・・この女の雰囲気が・・・くそっ!?俺はガルルの腕を乱暴に掴むと、強く引き寄せ女に言った。

『悪いがこいつはさらって行くぜぇ。金なら・・・ホラよ、受け取んな。』

『ちょっ・・・ふざけんじゃないわよ!?何にもしないのに受け取れっての??あたしは乞食じゃないのよ!!』

女は燃える様な赤い髪を揺らしながら詰め寄って来る。止めろ・・・俺はそう思いながら引き止めようとする女の手を振り払った。驚き、息を呑む女・・・不意にガルルの手が女を引き寄せ薄く開いた血の様な唇に噛み付く様なキスをした。驚く俺には目もくれず、舌を絡めあい唇を啜り合う様を見せ付ける。俺は思わず目を逸らした・・何故だか見ていたくなかった。暫くして唇を離すとガルルが薄く微笑みながら女に言った。

『・・・・今日は此れで勘弁してくれ。』

すると女は高揚した顔で満足げに微笑みながら答えた。

『・・キスだけでこの金額ね・・・ふん・・・良いわ、勘弁してあげる。その代わり次は絶対に付き合ってよ?』

『あぁ・・約束する。』

女は優美に微笑むと俺を見詰め、ウインクをしながら“じゃあね、坊や”と捨て台詞を残して去って行った。俺は返事をする訳でもなく、其れを唯見ていた。女が立ち去ってから暫くは俺もガルルも黙っていた。気まずい空気の中、言葉を掛けるタイミングを計っていた俺は取り敢えず掴んでいたガルルの腕を放した。すると其れと同時にガルルが俺に話し掛けて来た。

『・・何か御用でしたか?クルル曹長・・』

淡々とした・・・何時もと同じ口調だった。俺は其れが気に入らなかった。如何して平静を装っているのか・・さっきもそうだった。振り払おうとすれば直ぐに出来た筈だ。

『あんた・・何考えてる?』

『如何言う意味ですかな?』

『・・・とぼけんなよ・・あんたらしくもない・・あんな事、止めた方が良いぜ・・』

互いが牽制し合う様な口調に、空気が張り詰める。まぁ・・此処は人目もあるからいきなり銃を突き付ける事はしないだろうが、喧嘩を売るには相手が悪過ぎる。何たってセンパイ同様、軍の中じゃ一目置かれている“悪夢”様だからな・・。其の姿ある所、敵の存在は消え去り・・・なんて謳われる男だ。だが・・俺はそいつに声を掛け、行動を阻止した。こいつの今している行動全てが気に入らない・・其の理由だけで、だ。

『貴方が何を言わんとしているかは理解しかねますが、お話があるのなら伺いましょう・・場所を変えますか。』

ガルルは其れだけ言うとカウンターの上に金を置き、俺には見向きもせずに外へと向かい歩き出した。相変わらず、何を考えているか読めない奴だが追い掛けない訳にもいかない。俺は仕方無く奴の後を追う様に外へと出て行った。
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