京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「淋しぃ熱帯魚 -pla kat-」(さる作)
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目の前を優雅に泳ぐ美しき熱帯魚・・・私と神の望む穢れ無き、麗しき世界。

此処は俗物達の集うまやかしの世界。虚像に化粧を施し、其の哀れな姿を穢れ無き者へと変貌を試みる人々・・・私は其の者の中に身を置きながら、麗しき神と接点を持ち代行を命じられた御使い。貴方に会う事を夢に見て、日々“削除”を続ける貴方に私は見えているのでしょうか・・・?

『魅上さん?此れ見てくださいよ!』

同じ事務所に居る女が、私に話し掛ける。

『・・?なんでしょうか?』

彼女が指差す先には、美しき熱帯魚達の姿があった。色取り取りに染められた、美しき生き物・・・

『この子達って、此処でこうして餌を貰って生きてるじゃないですか?・・・海が恋しくならないんですかねぇ?』

『中々楽しい発想ですが、魚にそんな意識があるとは考え辛いのですが・・・?』

私には凡そ理解しかねる発想を、何も考えずに口にする低俗な女はからかう様に話を続けた。

『えぇ〜・・・意外に頭固いんですねぇ。犬だって猫だって夢を見るんですよ?だったら魚だって見るかも知れないじゃないですか。』

『・・・・見るとしたら其れは海だと・・?』

『??だって、熱帯魚じゃないですかぁ。他にどんな夢見るんですかぁ?ふふふ・・・魅上さんて面白いですねぇ。』

面白い?不可思議な事を言う女は、仕事だと文句を言いながら外出して行った。1人取り残され佇む私は、あの女の言った言葉に付いて考える。もしも・・・此の水槽を自由に泳ぐ美麗なる者達が夢を見るならば、其の夢は現実になるのだろうか?外海と閉ざされた此の争いの無い世界に生きる理想の世界・・・私と神の望む世界。此の幸せな空間に存在しながらも、尚も夢見ると言うならば彼等の何と罪深い事か・・・・。

『お前達は幸せだろう?』

水槽に手を添える・・・餌をねだっているのか集まり始める魚達は、神に救いを求める力無き人々の様にも見える。

『私の神も同じ事を考えておいでだろうか・・・?』

ふと・・水槽の上部に取り付けられた小さな透明の箱に気が付いた。そこには一際美しい・・・優雅な熱帯魚が存在していた。誰よりも艶やかな存在の其れは、閉ざされた世界にいて尚、気高く凛としていた。

『?・・お前は何故1人でいるんだ?』

不思議に思った私は、其の熱帯魚に付いて検索を掛けてみる事にした。

『確か・・・あった、此れだ・・・』

其の熱帯魚の名前はBetta Splendens・・英名でRumble Fish・・日本では闘魚と呼ばれている物だった。其の美しい外見には似つかわしくない気性の荒さに驚かされる。しかし・・・其の姿は何処までも聡明で美しく気高い・・・恰も“神”が其の尊き意思を理解出来ずにいる愚かな者共と戦っている姿を思わせる。

『そうか・・・お前も戦う者なのだな?それ故・・孤独を強いられる。だが、お前に魅せられる者は後を絶たないだろう・・?お前は一人ではない。』

・・・そう・・・“神”は決して一人ではない!?“神”の傍には必ず“神”を称える者がいる。其の存在を尊き者とし、絶対の教えを守り続ける真に従う者の姿がある筈!!・・・今は未だ・・・この水槽の硝子の様に隔てれているが・・・何時か貴方の傍に跪き、貴方を見詰め崇拝する者に祝福のキスを与えて下さるだろう。

『我が“神”よ・・・早くお会いしたい・・・』

そう呟いた時、不意にドアがノックされる。私はドアの方を見詰め誰かが入って来るのを待った。

『ただ今戻りました。』

そう言いながら入って来たのは中島君だった・・。シンプルなスタイルの彼女は、先程の外見だけの者よりも余程ましに思える。私が知っている中では“神”の望む世界に其の存在を許される者だろう。

『あぁ・・例の件は如何だった?』

『今の所は問題無く進みそうですね。其れはそうと魅上さん、今日は土地の件でお出掛けの予定じゃなかったですか?』

『え?・・あぁ、いけないもうそんな時間か。私は今日は此の侭戻らないから、君は定時で帰り給え。戸締りを頼む。』

『分かりました。』

そして私は人々で賑わう街へと其の身を堕とす・・この流れの中、何処かで“神”が私を見ていて下さる。私は“神”に会う日を夢に見ながら“代行者”としての仮面を隠し、今日も“神”の為に生きて行く・・・―――。
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