∬`∀<´∬ 紐育 につく 通り 出口以前


□「◆GOODYx∞◇House of Love」(さる作)
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マットはいま、物凄く困っていた―――。

と言うのも、メロの誕生日が迫っていたからである。

『・・・さぁて、どうするかな・・・?』

相方として常に側にいるとは言え、メロへのプレゼントは難しいと感じる。例えるなら、普段着でエベレスト登頂を目指すような物だ。その理由はマット自身の《タイミングの悪さ》にある。去年は朝一番に驚かそうとして、逆に寝起きのメロに痛恨の一撃を貰った・・・一昨年はメロの好みを徹底にリサーチ、メロの欲しがっていた品物をネットで苦労の末入手・・・しかし情報を得るのが僅かに遅く、既に興味を無くした品物を贈り複雑な顔をされた・・・更にその前の年は何でも良いからと言われて自分の好みを贈ってしまい、冷ややかな目で礼を言われ・・未だにそのままの状態で棚の上で埃をかぶっている・・・。

『今年こそ、リベンジしてぇしなぁ・・』

朝からずっと考えているものの、考えれば考える程何を贈れば良いのか分からなくなっていた。かと言って下手な物を贈れば、今度こそ愛想を尽かされそうで怖い。一番良いのは本人に聞く事だが、そんな事も分からないのかと言われるのが関の山だ。

『・・・他の奴が何を考えてんのか聞いて来るか・・・?』

考えの煮詰まったマットは沸騰しそうな頭でそう呟くと、ニアの部屋へと向かって行った。“煮詰まった時には気分転換をすれば良いと誰かが言ったしな。”そう思ったからであったが、人選を誤っている時点でかなりの焦りを感じる。
少しばかり歩いた廊下の隅……白の扉の前に来たマットは、小さく溜め息を付き意を決したようにドアをノックした。

『・・・・ニア?入って良いか?』

ドアの前から声を掛ける・・・何時ものマットらしからね行動だか、これにはちょっとした理由があった。

『・・・誰だ?』

間を開けて返って来た声に、マットの表情が固くなる。

『・・・・まだ飽きないのかよ・・・・』

そう囁きうなだれる・・・最近ニアはお気に入りのギャグを見つけ、その会話を真似する遊びにハマっている。日夜や。TPOを問わず飽きるまで繰り返すのがニアらしいと言えばらしいのだが、それに付き合わされる方にしてみればたまった物ではない。自分達はまだ日常会話だけだが、仕事の話なんかはいったいどうやっているのかジェバンニやハルに尋ねてみたい物だとマットは思った。普段の自分ならば適当にあしらって用だけ済ませて帰るのだが、今日はそうも出来ない・・・マットは今度は深く溜め息を付き、ニアの遊びに付き合い始めた。

『私だ・・入るぞ。』

ドアをサッと開き、素早く中へと入る。ニアは何時ものように床に座り、ワクワクした表情でマットを見詰めていた。久し振りに自分の遊びに付き合う獲物が来たのだから、その喜びようは一目瞭然だった。

『なんだ・・またお前か。何だ?何の用だ?』

『また私だ。何をしている?』

『おおよそ私らしくない事を・・』

たったこれだけ・・・たったこれだけのギャグを、部屋に入る度に言わなくてはならない・・・これをやらなければ、話はおろか口もきいて貰えないとジェバンニが泣いていたのをふと思い出した。

『どうしましたマット、あなたが私を訪ねて来るなんて珍しいですね?』

お気に入りの遊びを完了し、上機嫌のニアがマットにそう話しかけた。

『あぁ、ちょっと聞きたい事があってさ・・・ニアはメロに何かプレゼントを用意したか?』

『プレゼント?』

マットの質問にニアが訝しげな顔をした。そして少し考え込んでから、手をパンと叩き話し始めた。

『それなら私は毎年、メロの好きなチョコレートをあげていますよ?』

『毎年?』

『はい、毎年です。』

ニアの答えにマットは驚きを隠せなかった。何故なら子供の頃・・・全く同じ事をしたマットに、メロは耳にタコ程文句を言ったからだ。

《何でだ?何か違うのか?・・・あぁ、良い店の特別なチョコレートで毎年味が違うとか?・・・なるほど・・・同じチョコレートでも飽きが来ない様にしているのか・・・流石はライバル・・・好みも把握しているのか・・・・》

感心するように考え込んでいるマットに、ニアは意気揚々と立ち上がりテーブルの前に立った。そして恭しくテーブルの上にある物体にかけられた布にを掴むと、自信満々な表情を浮かべマットに言った。

『今日はマットが私の遊びに付き合ってくれたので、特別に見せてさしあげましょう。』

マットが顔を上げ、ニアの行動を見守る。

《何だ?あのでかいのは・・・?まさか、メロの為に特注した特製チョコレート!?》

『これが私のプレゼントです!』

『・・・・!?・・・こ、これは・・・!!』

サッと取り払われた布の下から現れた物は、チョコレートでできたメロの像だった・・・――。

《な・・・何だ、この音楽室に飾られてる様な人物像は!たかがチョコレートなのに、何故こんなに髪の毛の一本まで表現してるんだ!?》

驚きに声も出ないマットに、ニアは何時もの様に飄々と説明を始めた。

『中々の出来でしょう?ここまで表現するのは大変でしたよ。』

《手作り!手作りすかコレ!?》

『去年は全身像を贈ったのですが、スケールが50分の1で精密さに欠けてました。メロもかなり不満そうでしたしね。』

《いや、それは違う所に不満があったんじゃ?》

『それで今年は去年のリベンジも兼ねて、1/1スケールの胸像にチャレンジしたんです。』

《何のリベンジなんだよ!ニア、しっかりしてくれぇ!?》

『チョコレートはベルギー産の物を使用、瞳の飴玉までも全て私のお手製です。』

開いた口が塞がらない状態のマットに、ニアはなおも話を続けた。

『いやぁ・・・・我ながら良い出来だと思うんですが・・・・マット、如何ですか?』

急にふられた話に、マットは思わず本音が出そうになってしまった。しかし、ここで機嫌を損ねる事を言えば・・・マットは悩んだ末に、当たり障りの無い答えを返した。

『あ――、うん!ゴメン、俺芸術に疎いから良く分かんねぇや。』

多少固い笑顔を浮かべ、そう答えたマットを残念そうな顔でニアは見つめた。

『・・・そうですか・・・まぁ仕方がありませんね。あなたに聞いたのが間違いでした。』

《う・わ――、分かりたくないけど何か腹が立つぅ―――!》

苦々しい気持ちになりながらも、ここからすぐにでも出たいマットはそのまま笑顔を続けた。

『あぁ、悪りいな。じゃ、また後でな?』

『はい、私もあと少し細かい作業をしたいですから。』

再びメロのチョコレート胸像の方へと向き直ったニアは、小さなナイフを取り出しゆっくりと削り始めた。マットはそれを何とも言えない気持ちで眺めながらソッとドアを閉めた。

『・・・・人選を間違えたな。』

うなだれ・・・疲れた様にドアに寄り掛かり、そうポツリと呟くとマットはライトの部屋へと向かった。

『こう言うのは真面目そうな奴に聞くに限るよな。いや、ニアも真面目なんだか・・・生真面目というか、プレゼントの趣旨とか意味をちゃんと理解してそうだしな。』

ブツブツと独り言を呟きながら、マットは足早にライトの部屋の前まで来た。そして咳払いをしてからドアを叩いた。

『マットだけど・・ちょっと良いかな?』

そう声を掛けると、中からライトの不思議そうな声が聞こえて来た。

『マット?・・・どうぞ?』

『お邪魔しまーす。』

普段近付きもしなければ言葉も余り交わさないマットの来訪に、ライトは訝しさをむき出しにしていた。マットにしても普段は苦手なタイプと近付きもしなかったが、今はそうも言っていられない。メロに最高の贈り物をする為には、難関を超えて行かなくてはいけないのだと考えていた。

『あ・・・え〜と、メロのプレゼントって・・・』

少し言いにくそうにそう問い掛けるマットを見て、ライトはますます変な顔をした。

『プレゼント・・・?』

それだけ言うと、眉間にシワを寄せておもむろに考え始めた。

《あれ?もしかして・・・》

マットは嫌な予感がした

《・・・まさか・・・この人・・・・。》
そう思った次の瞬間、ライトが顔を上げマットにゆっくりと話し始める。

『・・・・何か・・・祝い事?・・・あ、あぁ!もしかして!?』

《やっぱり忘れてたんだ・・・まぁ、思い出しただけ良いかな?》

『そうそう。で、何か参考になれ・・・・』

『僕と竜崎の《お付き合い135875日記念日》に、皆でプレゼントを用意してくれているんだね!?』

《えぇぇぇ―――!?》

『いやぁ・・・嬉しいなぁ・・・ありがとう、マット!ただの居候じゃなかったんだね!?』

『ちょ・・・ちょっと・・・ん?何かさり気無く言われた様な気もするけど・・・あの〜〜違うんですけど・・・』

『そっか、そっかぁ〜〜・・・やはり僕と竜崎と言う存在は特別なんだなぁ〜〜〜。』

『お〜〜い、帰ってこぉ〜〜い?』

マットの叫びも虚しく、ライトは其の侭一人語りを始めてしまった。その様に多少(?)の疲労感と、脱力感を感じざるを得ない。しかし止め様にも既に聞き耳持たず状態のライトには、自分の言葉は届かないだろう・・・始めは相手の反応を見ながら話していたライトが、悦に入り始めた頃合を見計らいマットはソッと部屋を後にした。

『・・・・・何なんだ、あの人・・・・・相変わらず分けワカンネェ・・・。』

Lの部屋へと向かう長い長い廊下の壁に頭を擦りながら、マットは疲れた様にそう呟いた。こうなってくると聞きに行く事すら如何でも良くなって来るが、こうなったからあえて聞きに行きたくもなる妙な気持ちに心が揺れている。

『・・・・取り合えず行って、さっさと帰って来よう・・・。』

“やけくそ”と言う言葉が似合いそうな言い方で、マットは座り込みそうな自分の足に気合を入れLの部屋へと向かって行った。
Lは静かな部屋を好む為、皆の部屋から少し離れている。部屋の前数メートルには音をさせない為の絨毯が敷かれ、部屋の前には専用のインターフォンが取り付けてある・・・・子供の頃から散々聞かされて来た輝かしい話からは、とても想像出来なかったLの生活振りだ。その輝かしい話の数々から想像していたLは、背が高くすらっとしていて行動的・・・理知的で目元涼しげな好青年だった。子供だと言う事を考えても、ヒーロー的に考えてしまっても仕方が無い。だからこそ憧れ、成長するうちに自分には向いていない職業と感じメロのサポートに回った・・・しかし・・・現実に目の前で見るLは、割合のん気で負けず嫌いで子供っぽい所もある物凄く頭の良い青年だったのだ。
別段がっかりはしないが、過剰に期待していた時期を考えると二ア並に変わり者と考えてしまう。まぁ・・・この場合、二アがLに似ているが正しいのだが・・・。
そのLに物を聞いて果たしてどんな答えが返って来るか・・・それを考えると如何にも頭が痛いマットだった。

『・・・ハァ・・・ま、参考・・・あくまでも参考だから。』

思わずそう呟いてしまう。
ドアの前で顔を整え気を取り直す様に浅く深呼吸したマットは、ドアの横に取り付けられたインターフォンに手を伸ばしボタンを押した。

『ん、んん。』

咳払いし声を整えてしまう緊張感は、この独特の雰囲気が営業に来たセールスマン的な気持ちにさせるせいだろうか?

『・・・はい。』

少しの間をあけ、Lがインターフォン越しに答えてきた。画面付きにも拘らず相変わらずの格好で、ボサボサの髪をかき上げているLはなんだか眠そうだった。

『あ、L?俺・・マットなんだけど、いま良いかな?』

小さなカメラに向かいマットは頬を掻きながらそう言うと、意外そうな顔をしたLが小首を傾げながら答えた。

『おや、マットですか?・・良いですよ。いま鍵を開けますから、どうぞ中に入って下さい。』

ありがとうと言う代わりに、マットは笑みを見せ鍵が開くのを待った。するとドアから何重ものロックが解除される音が聞こえ始めた。

『・・・・自分の家なのに用心深いねぇ。』

流石“世界一の探偵”は、普段からの心構えが違うなと思った。
しかし、そう思ったのも束の間・・・途中から音が止まり、その後うんともスンとも言わなくなってしまう・・・・嫌な予感がしながらも、マットは再びインターフォンを押した。

『エールー?なんか・・・・止まっちゃったみたいだけど・・・・?』

返答が無い・・・・嫌な予感が当たりそうだなと思いながら、マットは再びLに声をかけようとした・・・・その瞬間、自分の足に何かが勢い良くぶつかり激痛が走った。

『 !? 』

余りの痛さに床に倒れ悶えるマット・・・その横で聞きなれたLの声が間近に聞こえた。

『あぁ、すみません。当たってしまいましたか?』

潤む目で声の方を見ると、床に這う様な格好のLが自分を眺めていた。

『・・・・で・・・・んなとこ・・・』

痛さでうまく声が出ないマットに、Lは飄々と答え始めた。

『“何でこんな所から?”・・それはですね・・・開錠していたら途中でシステムがダウンし、何をしても動かないので非常用脱出口から出て来た訳です。それがたまたま貴方の足に激突する形になってしまったんですけど・・・・大丈夫ですか?』

“嘘付け―――!何がたまたまだぁ!?たまたまで、丁度一番痛い部分にドアの角が来る設計なんて有り得るかぁ――――!!”

・・・そう叫びたいマットだったが、いまだ引かない痛みにそれも儘ならない。しかも自分が悶え苦しむ姿を薄っすら笑顔で見ている所を考えれば、ワザとだと言う事は明白である。

《・・・二アだ・・・・二アの悪戯に輪をかけてる・・・・いや、二アがこの人を真似てるのか・・・・もうどっちでも良い・・・・早く用件を済ませて部屋へ帰ろう・・・・。》

足を擦りながらマットはLと視線を合わせ、そして真剣に問いかけた。
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