∬`∀<´∬ 紐育 につく 通り 出口以前


□「A HAPPY NEW YEAR!! 《 96G6 Version 》」(さる作)
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大晦日の晩、クルルは焦っていた。

実はギロロに内緒で大晦日を2人きりで過ごそうと、随分と前から用意をしてきたからだ。宇宙人街で評判の店で席を押さえ、極上の食事に少々のアルコール(1%未満)も用意した。
後はギロロ本人を誘い、日向家から連れ出せさえすれば良いだけだった・・・・のだが・・・

『軍曹! サボっちゃ駄目だよ〜〜!?』

『へ!? 我輩、サボって無いでありますよ!?』

『嘘言ってないで、さっさとそのプラモデル片付けなさいよ!? ほら〜〜ギロロも手伝って、綺麗にして!!』

『何で俺がお前の尻拭いをせねばならんのだ!?』

・・・・・・・この怒号飛び交う状況・・・そう・・・実は日向家、もう夜も更けたと言うのに未だ大掃除が終わっていないのだ。
その原因はケロロが長年積み上げたガンプラを、捨てる捨てないで日向夏美と一悶着大騒動があったからである。
その騒動事体は弟・・日向冬樹がケロロを助ける形で治まったのだが、結果として年末進行が大幅にずれ込みお節作りさえもままならない状況にまでなっていた。

『も〜〜〜〜、もう直ぐママも帰って来るのにどうすんのよ〜〜〜!?』

本当にもう、如何すんのよ〜〜とクルルも叫びたかった。予定ではもうこの時間には2人きりで過ごしている筈なのに・・・・あわよくばあんな事もこんな事もしている時間なのに如何してくれんのよっ!?とケロロに詰め寄りたい気持ちだった。
しかしそんな事をしても時間は返って来ない。ここは何としても早く切り上げ、サッサと甘い時間を作ろうと考えた。だが、実際掃除や料理を手伝うのは面倒だし億劫だ。如何にかして責任と労働をケロロ1人に押し付けられないだろうかと画策していた。

『ナッチー、これ何処に置くですかぁ?』

『あ〜〜それ、それはそこの棚の中。』

『冬樹殿、外の窓拭きすべて終わったでござるよ。』

『ありがとうドロロ、助かったよ〜〜。』

しかし・・・連帯責任だという理由で夏美に総員集合させられているこの状況・・・くそが付くほど真面目なギロロが自分の用事を優先するとは思えない。ましてそれがクルルと2人きりになる為の行動なら、照れて顔を赤くするかもしれないが実行してくれるとは思えない。まぁ・・・それ以前に、ちょっと抜け出そうと言う雰囲気でもないのだが・・・。

『ケロロ! この空箱は全部亜空間倉庫に入れるからな! 勝手に自分の部屋に戻したりするなよ!?』

『へーへー・・・全くうるさい赤ダルマでありますよ〜〜。』

『何だと〜〜! この箱を捨てる捨てないで揉めたから、皆が迷惑しとるのにその言い草は何だ―――!?』

無責任隊長の言い草に、責任感の塊のギロロが喰らい付く。幼馴染だからなのか、はたまた長年の腐れ縁なのか・・・・何かあるたびに繰り返されるこの光景。
通常ならば面白がる自分だったが、今はそのやり取りが小憎たらしく思える。自分がいてもいなくても、なんら変わらないと思えるこの光景にだんだん腹が立ってきた。

『よぉ、俺の分はもうすんだから帰っていいか?』

冬樹に向かいそう告げるクルルに、夏美がエプロン片手に引き止める。

『えぇ? これから夕飯作るんだから、あんたも食べていきなさいよ?』

『んにゃ、いんね。』

ふてくされたように言うクルルに、ケロロと取っ組み合っていたギロロが視線を向けた。
雑巾をバケツに放り込み、機嫌悪そうに振舞うクルルがどうにも気になるようだ。

『如何したクルル? 何か気に入らないのか?』

何時もは鈍くて見当外れな事を言うくせに、言い当てて欲しくない時ばかり鋭い事を言うギロロにクルルは益々不機嫌そうな顔をする。

『別に・・・何でもねぇよ。』

『しかし・・・』

『何でもねえって言ってんだろ!?』

苛付いて、思わずそんな言葉を吐き出した。その声に驚き、思わずその場に居た全員が凍りつく。
柄にも無い事をして準備万端に格好つけ様とするから、こんなつまんねぇ事になったんだとクルルは舌打ちする。
何時もならそんな行動に噛み付き、激しく叱り付けるギロロですらクルルの豹変振りに言葉をなくしていた。
気まずい時間が流れる・・・・どう言う形であれ、楽しい時間を過ごそうと思っただけなのになとクルルは歯軋りをした。そんな重苦しい空気漂う日向家の玄関が勢い良く開き、その空間から日向秋の明るい声が家中に響き渡った。

『・・・・たっだいま〜〜!? ごめんね〜〜遅くなっちゃって!! 買い物に時間、かかっちゃって・・・・・って・・・・如何したの? 皆、しょげちゃって??』

『あ・・・うん・・・ちょっと・・・。』

そう言いながらクルルを見詰める夏美に、日向秋は各自にも目を配らせた。そして一呼吸置き、何か思いついた様にニコリと微笑むと徐に買い物袋を取り出した。
そして1人1人に帽子とマフラーをその手に手渡し始める。 その色は違うのものの、形は同じ物に皆は目を丸くする。

『これは〜〜皆で初詣に行こうと思って買ってきたの。 イニシャルも入っているから間違えないでしょ? 来年も宜しくね?』

再びニコリと微笑む日向秋に、皆の強張っていた表情が和らぐ。そして各自がプレゼントされた帽子とマフラーを身につけはしゃぎ出す。 そんな中、手渡された物を手に持ったままのクルルにギロロがそっと近付いた。
そして困った様に頭をかき、小さく溜息を付くとポツリとこう言った。

『・・・・・お前は風邪を引きやすいからな・・・ちゃんと着ろ。 あと・・・その・・・何だ・・・・何か気に障ったのなら謝るから、いまは笑ってくれんか?一緒に 新しい年を迎えるのに、そんな不機嫌そうな顔をするな・・・。』

赤い顔を更に赤くして皆には聞こえないようにボソボソと話すギロロに、クルルの張っていた気が一気に緩んだ。
別にそんな事を言わせたい訳ではなかった。拗ねていたのも不機嫌だったのも、全部自分が悪いのに・・・もう、本当にこの人には参るとクルルは思った。

『・・・分かったよ・・・・悪かった・・・。そう言うあんたも着ろよ。』

ぶっきら棒ではあるがようやく笑顔を覗かせるクルルに、ギロロは安心したのかニッコリと微笑みいそいそと帽子とマフラーを身に付けた。
その様子を見計らったように、日向秋がクルルとギロロを呼びつける。

『あ、いっけない・・・・ねぇ、クルちゃん・・・あたし1つ忘れ物してきちゃったみたい。悪いんだけどギロちゃんと一緒に行って来てくれないかしら?』

『にょ?』

突然の申し出に、クルルもギロロも目を丸くした。それは夏美も冬樹も同じである。

『え?ママ、忘れ物ならあたしが・・・。』

当然の申し出を日向秋はウインクで遮った。
そして食べ物と同じマフラーと帽子の入った袋を手渡すと、キョトンとする2人に言い放つ。

『これを556さんに届けてあげてくれる? 出来れば12時前に行って来てくれると助かるわ。』

『ママ殿、556宛てなら我輩が持って行った方が良いのでは?』

真ん丸い目を丸くしながらケロロがそうしゃしゃり出ると、日向秋はおでこをピンと弾きこう一喝した。

『あら? ケロちゃんは駄目! ケロちゃんはまだ片付けがあるでしょう?』

『ギク―――っ!?』

『も〜〜軍曹さん、またサボろうとしてるですぅ!』

『駄目だよ、軍曹!』

『と、言う訳だから・・・・お願いね?』

有無を言わさぬ押しの強い言葉を最後に、あれよあれよと家を追い出された2人は寒空の中トボトボと歩き始めた。
サッサと飛んで行けば早いのだが、そんな事も思い浮かばないくらい星空が綺麗だとクルルは思った。

『・・・・・寒くないか?』

袋を引き摺りながらそう問い掛けるギロロに、クルルは帽子とマフラーに手をやりながらニヤリと笑う。

『センパイは? 寒くねぇかい?』

袋に手をやり、互いの取っ手を持ち合う。

『・・・あぁ大丈夫だ・・・。』

優しく微笑むギロロの顔に、さっきまでの気持ちが消え去るのをクルルは感じた。
ご馳走も甘い時間も無いけれど、間も無く迎える新しい年をこの人と迎えられる事の幸せをクルルは噛み締める。

『センパイ・・・来年も宜しくな・・・。』

『あぁ・・・・。』

夜の冷気が心地良いほど、2人の心は温かくなっていた。
こうして2人を送り出した日向秋は、クルルとギロロが仲違いをしたのだと思ったのかも知れない。だからこうして仲直りする機会になればと考えたのかも知れない。
何れにしろ、幸せだから細かい事は気にしないでこの時間を噛み締めようとクルルは思った。

Happy New Year いい年になりますように―――。       《完》

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