京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「Instinct - 本能 - 」(さる作)
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軍曹さんを好きになって分かった事が二つある・・・一つは軍曹さんは僕の事を大切にはしてくれるけど、想いは真剣に取ってくれていない事・・・もう一つは、軍曹さんは何かを隠している事・・其れが何かは分からないけれど、僕の本能が教える。

“あの男はとても危険だ”と・・・

・・あの優しくて、少しまぬけな軍曹さんの何が危険なのか・・其の時の僕は自分の本能を全く信じなかった。唯の気の迷いだと・・そう思っていた。だからあの時も、何時の様に軍曹さんに近付いて行ったんだ。

『軍曹さぁん、僕とデートするですぅ!』

『良いでありますよ?丁度我輩も出掛ける所であります。』

珍しく即答する軍曹さんは、笑顔でそう言った。其の予想外の事に一瞬、言葉が詰まる。そんな僕を不思議そうに眺めながらも手を差し出す軍曹さん・・・優しげな表情が少し憎く感じた。

『? 如何したでありますかタママ二等?早速幾でありますよ!』

『は、ハイですぅ!』

軍曹さんの手を取り、外出をする僕は直ぐに機嫌を直してしまった・・我ながら単純だと思うが、二人きりの外出は本当に久し振りだったので凄く嬉しかったから・・・でも・・又直ぐに不愉快な気持ちになった。其れは基地を出る直前にすれ違ったギロロ伍長さんが、軍曹さんと僕に言った言葉がきっかけだった・・。

『二人とも何処か行くのか?』

『お〜ギロロじゃん?うん、ちょっと外に行って来るでありますよ。夕方には帰るでありますから〜』

其の言葉に僕を横目で見るギロロ伍長さんは、直ぐに軍曹さんを睨み付けながらこう言った。

『ふん・・・へまをして見付からん様にしろ。其れとケロロ・・・悪さするなよ?』

『ん〜も〜ギロロってば心配性なんだから〜・・大丈夫でありますよ!分かってるっしょ〜!?』

『分かっとるから言ってるんだろうが!?・・・まったく・・・タママ二等も気を付けるんだぞ?』

お兄さんみたいな心配するギロロ伍長さんの優しい顔が、完全に子ども扱いの自分を見せ付ける。悔しくて・・少し怒りながら素っ気無く答える。

『・・・軍曹さんと僕なら何も心配いはいらないですぅ。さ、軍曹さん行きましょう?ですぅ。』

腕を引っ張る様に進む僕の横で、軍曹さんがギロロ伍長さんにウインクしながら手を振っているのが見えた。疎外感を感じる僕はソーサーに乗って街へと出掛けて行く。相変わら微笑みを浮かべている軍曹さん・・苦笑いだけど余程の事が無い限り、僕のはそう言う顔しか見せてくれない。空高く舞い上がる身体とは裏腹に、沈み始める心を忘れる為にオーバーにはしゃいだりする僕を如何見ているんだろう・・?

『軍曹さぁん、次はあの店に行くですぅ!!』

『ふぅえ〜・・ちょっと待つでありますよ〜・・まったく元気良過ぎであります・・あ・・・』

沢山の買い物を抱えながら急に立ち止まる軍曹さんは、とある店先のガラス細工を見た途端足を止めた。

『?? 如何したんですかぁ?』

『え?あ、あぁ・・この品物が綺麗だなと・・』

綺麗な水色に染められたガラス細工を見詰める軍曹さんの顔は、今まで見た事が無い位優しくて・・愛しそうな表情を浮かべていた。

『・・・ちょ、タママ二等!此れを持ってるであります!』

『ぅえ!?・・ふあぁ、重いですよぉ軍曹さぁん!!』

『直ぐ、直ぐ戻るでありますから、我慢するであります!?』

何かを思い立った様に持っていた荷物全部を僕に押し付け店に飛び込んで行った軍曹さん・・其の直後さっきのガラス細工がお店の人の手で下げられた。僕は何と無く分かってしまった・・・其のガラス細工を買ったのは軍曹さん・・・贈る相手は僕じゃなく・・・きっとあの人・・・胸が締め付けられる・・・あんなにはしゃいでいた自分が遠くに去り、たった一人誰もいない空間に置き去りにされた様な感覚に襲われる・・。泣きたいのに涙が出ないのは何故なんだろう・・・そんな事を考えていたら、軍曹さんが大切そうに包みを抱え店内から出て来るのが見えた。ガンプラを手に入れた時よりも嬉しそうな其の顔を、僕に向けて欲しいのに・・“如何して此処にいない誰かを想うんですか!?”・・・そう言ってしまいそうになる自分を飲み込み笑顔で話し掛ける。

『・・・遅いですよぉ軍曹さぁん!?・・何してたんですかぁ?』

『ゴミンゴミン・・良い物は直ぐに買わないと損するでありますからな。ゲ〜ロゲロゲロゲロ・・』

人の気も知らないで・・・そう考える僕の手が震える。もう・・笑顔を作れない。俯く僕に軍曹さんが話し掛ける。

『ケロ?如何したでありますか?タママ二等・・お腹でも痛いでありますか??』
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