(´ω`)φ【wammy's invention laboratory】


□「千夜一夜」(さる作)
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何時の間にか辺りは暗くなり、見下ろしていた基地の灯りが揺れる頃・・・俺も何本目かのビールを空け、良い気分になっていた。
その間アイアンハイドは俺との会話を楽しみ、時折自分でも慣れない身体になった顔や腕・・足に触れていた。俺はそれを眺めていたが、酔いも手伝いアイアンハイドに近付くと徐に胸元に触れた。
その行動に驚いたアイアンハイドが、ちゃんと驚いた顔をしたのを見ながら俺は感心した。ラチェットが開発したこれを、人間にも活用できるとしたら・・・そんな事を考えていた。

『・・・・・お前・・・・急に何をしてる。俺が女ならセクハラだぞ?』

自分の驚きを誤魔化すように、アイアンハイドが鼻を掻きながらそう言ってくる。

『馬鹿言え・・・・しかし本当に良く出来てるな・・・・こうやって触れてみても、少しの違和感も無い・・・・サムも油断する筈だ。』

『あぁ・・・あいつらは自分達の仲間を改良して、こっそりと人間世界に入り込ませているからな。俺達は大型の奴が多いし、小型の奴でもお前達と同じ形状は取れん。だが少しでも近しい形状が取れるようになれば、人間達を危険から遠ざける手伝いが出来るからな・・・。だが・・・まだまだ改良の余地はある・・・当面はアーシー達に負担を掛けるな。』

『・・・・・なぁ、本当にそれだけか?』

『何・・・?』

急に口に付いた言葉がアイアンハイドの驚きを誘う・・・・。俺自身も何が聞きたいのか分からない・・が・・それとは違う物があるような気がする。何時も口が悪く、思った事を口にするアイアンハイドとは違う・・・長く付き合って来たからこそ感じる違和感だった。

『お前・・・何か俺に隠してないか・・・?』

『隠すって・・・何をだ?』

目を逸らそうとするアイアンハイドに、俺は詰め寄り真っ直ぐに見詰めこう言った。

『・・・・こんな風に部分的に人間になってみたりする事だ。確かにお前の言う通りの事もあるだろうが、別な理由もあるんだろ?それともパートナーの俺にも言えない事なのか?』

『・・・・レノ・・・・違う・・・・。』

『違うんなら何だ・・・・言えよ!言っとくけど酔った勢いで聞いてるんじゃないぞ!?俺は大真面目に聞いてるんだ!?』

詰め寄る俺に困った様に顔を顰めるアイアンハイド・・・・俺自身も何故こんなにムキになっているのか分からない。
隠し事をされている事が嫌なのか、それとも何故そんな優しい目で俺の事を見詰めるのか・・理由が知りたいだけなのか・・・・・。一瞬の沈黙が訪れる・・・・互いに顔を見合わせ、視線を交わし続ける。
俺は絶対に目を逸らさなかった。逸らしたら・・・もう二度と答えが聞けない気がしたからだ。

『・・・・分かった・・・・話すから・・・・その前にレノックス・・・・触れても良いか・・・・?』

アイアンハイドは1度目を閉じ・・・再び開けた時、俺を見詰めながらそう言葉を掛けてきた。俺はその言葉の意味を深く考えず、自分の感情そのままに答える。

『お前がちゃんと答えるならな!』

『・・・・分かった。』

そう言うと、アイアンハイドは戸惑いながらも俺の頬に触れてきた。その手はまるで壊れ物でも扱うかのように優しく、微かに震えているのが分かった。そしてその手が頬をなぞり・・・耳に触れ・・・・髪を撫で上げる・・・・。

『・・・・初めてお前に触れた・・・・。こんなに柔らかくて・・・温かいんだな。』

俺はその手が余りにも優しくて、アイアンハイドの碧い目が余りにも綺麗で動く事も声を出す事も出来ないでいた。
そんな俺を口元で微笑み・・・その唇で触れて来た時、俺の心臓は大きく跳ね上がった。軽く触れ合うだけの・・・そんなキスだった。

『・・・・アイアンハイド・・・・これは違う・・・これは触れるとかじゃない・・・。』

『ん・・・・そうか・・・?』

『これは・・・キスだろうが・・・。』

『あぁ・・・・そうだったな。けどこれがお前が知りたがってた答えだ。俺は・・・ずっとお前に触れたかった・・・けど・・・遥かにでかくて硬い装甲の俺がお前に触れたらお前が壊れてしまうと思った・・・。今回のこの開発も、半分は俺の我儘だ・・・お前に・・・ただ触れたいだけの・・・・な。』

そう言うと俺を抱き締め、その切なげな目を向けるアイアンハイドに俺は言葉が出せなかった。・・・何を言えば良い?否定する事などできる訳がない・・・こんなにも切なげな眼を前にして・・・・・。

『・・・良いんだ・・・何も言うな・・・すまなかった。もう基地に帰ろう。』

アイアンハイドはそう言うと、名残惜しげにもう1度だけ頬に触れると俺を腕から解放する。目の前で元の形に戻って行く車内で、俺は無言のままハンドルを握った。
別に運転する必要もないのに、何故か基地に着くまでそうしていた。答えられなかった事への罪悪感か・・・それとも違う感情なのかすら理解出来なかった。
基地に戻っても互いに何も言わず、無言のまま別れそれぞれの部屋へと戻る。暗い室内に飾られた妻と娘の写真を指でなぞり、それを胸に抱き締めながら俺は眠りに付く。思い出す軽く触れ合っただけのキスを誤魔化すかのように・・・。
それがお前との・・・・アイアンハイドとの最後の夜になった―――。


背後から撃たれ苦しむお前・・・最後を悟った瞬間、何を思ったのだろうか・・・・?苦しんだだろうか・・・・それともそれさえも取り上げられただろうか・・・最後に見たであろう空に何を映しただろうか・・・・。
胸が締め付けられる感情を押し殺し、俺は部下に指示を与え続け・・・消えたお前達の後処理をさせる。残されたオプティマス達に被害が及ばぬようにと、微かに残された物さえ焼却処分し洗浄をさせた。すべてが終わった時・・・お前が倒れていた場所に佇む俺の肩をエプスが叩き、声に出さない言葉で伝えてくる・・・《気を落とすな》・・・と。
俺はそれに頷きながらも動かない・・・動けない・・・・泣く事すらできない。エプスはそんな俺を1人にしてやるように周りに指示し、皆はそれに従った。仲間を失う痛みは理解出来るからだ。だが・・・・皆には理解出来ない感情がここにある。皆に言えない心の痛みが俺を苦しめる。
戦いに明け暮れた千を超える日々よりも、たった1度交わした微かな口付けがこんなにも心乱すものなのか・・・・?
千の夜を超えた一夜がこの先俺を縛り続ける。お前と言う大切な者を失った悲しみを抱え、この先も戦い続けなければならない俺にお前は何を望むだろうか・・・。

《生き残れ》・・・きっとそう言うだろう・・・。
お前の残した何処までも悲しげな碧と唇に残る僅かな感触・・・耳に残るお前の声が忘れられない。

『・・・ずっとお前に触れたかった・・・。』       《完》
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