kira事件、特別捜査本部・二千五◯二号室


□「Night Birds -Shakatak-」(さる作)
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あいつを始めて見たのは、研究所の一室だった―。

何時もの様に自分の研究室に篭り、地球の調査と自分の趣味の世界に没頭するとある日の午後・・退屈凌ぎとオッサンに会う為に、久し振りに外に出て来た俺の頬を雨が濡らす。冬も間近なこの季節の雨は俺は嫌いだった・・冷たい感触が古い思い出に触れて来るからだ。あれは・・俺が士官学校に入学する年だったから、随分と昔の事になるな・・クク・・まぁ、こう言う思い出に浸る事自体が年を取ったって言う事なのかも知れないけどな・・多分、隊長以外のメンバーはこの思い出を一生背負って行く・・誰も口にしないとは思うが、其れが良い事なのかどうかは俺の知った事じゃないさ・・クク・・。そんな事を考え、何と無く空を見上げると銀色の雫が暗灰色の空から次々と落ちて来て俺の顔や体にその痕跡を残して行く・・まるで・・あいつの様に・・・―。

『クルル!?お前、何をしている!?』

怒鳴る様なその声に行き成り現実に引き戻された俺は、声のする方向に顔を向けた。ギロロ伍長・・俺がオッサンと呼んでいるそいつは単純で、一直線で、頑固な凄腕の戦士だが、俺にとっては可愛いの一言で終わっちまう男だ。そいつが行き成りテントから顔を出したかと思うと俺にこう怒鳴りつけ、眼を見開いて立っている。俺は別に気にする訳でも無く、こう返答した。

『? 何って・・オッサンに会いに来たら雨が降ってて、何と無く見てたら濡れたってだけなんだが・・?』

すると赤い顔を益々赤くして怒りやがる・・クク・・面白い男だな、本当に・・。

『!? 何と無くじゃない!全く・・早くこっちに来い!!』

半ば強引にテントの中に引きずり込まれると、頭からタオルを被せられ、力任せに擦って来る。

『イテテテ・・痛いだろ・・もっと優しくしてくれよ・・』

『文句があるなら雨になど濡れてるな、バカモンが!・・風邪でも引いたら如何する・・。』

文句を言いながらも拭き取ろうとする手の力を緩めて来る所なんざ、このオッサンの良い所だ・・ついからかいたくなるね・・ククッ。身体を拭かれている間俺達は無言だった。別に、ただ、何と無く無言だった。耳に入って来るのは雨の音ばかり・・何とも寂しげな音だけが、此のテントの中に響き渡る・・その耐え難い程の沈黙を破ったのはオッサンの方だった。

『・・如何した?何か遭ったのか?』

俺は、オッサンの顔を見ずに答えた。

『ん〜?いや、別に・・ククッ、そんなに変かい?』

不意に頭に掛けられたタオルが外される。心配そうに覗き込むオッサンの顔が妙に優しく、俺には照れくさく感じた。その眼差しと同じ真っ直ぐな眼を俺に向けながら静かに口を開く。

『・・あいつの事か・・?』

行き成り確信に付いて来るんじゃねぇよ・・と言い掛けて止めた。何と無く、負けを認める様で嫌だった。そうだ・・思い出していた。静かに微笑むあいつの顔を・・・!?

『あいつが死んだのはお前のせいじゃない・・あいつは自分で選んだんだ・・。』

ギロロ・・オッサンはきっと“気に病むな”と言いたかったに違いない・・でも、言わなかった。俺が下手な慰めなんか嫌いだと知っているからだ・・クク・・不思議だぜ。誰よりも俺を理解するこの男が居るから、何時かこの痛みも薄れて行く・・そう思える。俺らしくは無いがね・・ククク・・肩に掛けられたタオルが暖かい。其れと同じ様に温かい手が俺の両頬に添えられている・・その先には心配そうな男の顔・・俺はそいつの唇に自分の唇を重ね、貪り、武器の散らばった床に倒れ込む。驚いて見開いていたオッサンの眼が潤み、押しのけ様としていた手が緩む・・オッサンとのキスは好きだね・・戦闘部隊じゃ無いが狙っていた城が落ちて行く様を間近で見ている戦士の気分になれるからな・・二人の吐息しか聴こえ無くなり、一切の抵抗が無くなった頃に唇を離す。普段じゃ絶対に見られない潤んだ瞳で俺を見詰めているオッサンは、とても艶かしく俺に嗜虐心と征服感を与えてくれる。何時もなら此の侭一戦・・と言う所だが、何故かこの日は違った。オッサンに覆い被さったままの姿勢で見詰め合う・・不意に、オッサンが俺を抱きしめる。

『・・泣くな・・俺まで悲しくなる・・』

泣く?この俺が?何を馬鹿な事・・信じられなかった。何時の間にか俺の頬に涙が幾重にも流れているのに気付いた・・畜生、畜生、畜生!!何で何だ!?何で忘れられないんだ!?・・・何でこんなにも俺を苦しめるんだ・・俺はみっともなく泣いた。オッサンの胸の中で、声も立てずに、震えながら泣いた。オッサンは黙って抱きしめていた・・何時しか二人がまどろみの中に堕ちて行くまでお互いの体温を確かめ合った・・・。
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