kira事件、特別捜査本部・二千五◯二号室


□「Night Birds -Shakatak-」(さる作)
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あいつに始めてあった時・・士官学校に向かうバスを待っていた時だった。何時もの如く、時間通りの行動って奴が大嫌いな俺様は物の見事にバスに乗り遅れた。仕方無くバス停に立って待っていると雨が降り出して来た。“ちっ、ついてねえぜ”舌打ちし、辺りを見回すと少し離れた所に家らしき物が見えた。“其処の軒下にでも避難するか”その程度の考えだった。超空間移動すりゃあ良い話なんだが、好んで士官学校に行く訳じゃない俺にとってそんな事する事自体馬鹿らしかったし面倒だった・・ハプニング&アクシデントが身上でもあったしな・・クク・・そんなこんなでその家に近付いて行くと、庭先に出しっぱなしのパラソルと椅子のセットが、此処に来いと言わんばかりに俺の眼に入って来るじゃ無いか・・何やら楽しげな予感と期待を胸に其処へ非難すると雨は激しさを増して地面にその雫を叩きつける。気象も制御されているケロン星でこんな雨は珍しいなと椅子に腰掛けたまま見ていると不意に上から声が聞こえて来た。

『・・お前、誰だ?』

“ちっ、見つかっちまったか・・”と面倒くさそうに振り向くと自分の頭上にある窓から見た事の無い形の奴が俺を見詰めていた。灯りを背にしている所為か顔が良く見えない。俺は、声の主に答えた。

『ククッ・・見ての通りさ・・雨に降られちまってねぇ・・困ってるんだ・・雨宿りさせてもらうぜぇ。』

こう言っては見ても大概の奴は“出て行け”だの何だのと文句を言う。自分がそう言う目に遭えば同じ様に懇願するくせに・・!だから俺はこいつもそうだろうと思い、自分の荷物を手にしようと屈んだ。しかし、耳に入ってきたのは予想外の言葉だった。

『・・良いよ。でも其処じゃ何だからこっちにおいでよ。あぁ、此処から入ってくれると嬉しいな。』

窓のロックを外し、大きく開くと俺の手を引いた。意外な反応にも驚いたが、そいつの手の冷たさにも驚いた。俺自身、体温が低く他の連中から驚かれるのに・・何なんだ、こいつは・・?知的好奇心と言うか・・何にでも興味を持つのは俺の悪い癖だが、そいつは興味をそそるには充分な存在だった。部屋に入ると殺風景な室内にそぐわない程そいつは存在していた。褐色の肌に銀色に輝く瞳・・そしてアイス・ブルーの髪が異彩を放っていた・・余り他人を褒めない俺だが、こいつは極上の酒の様だった。見ている者を魅了する外見、静かに語る少し低めの声は心地良く耳に響く・・ただ、気になるのはこいつの腕に押された印・・こいつは我がケロン軍が奴隷に押す焼き鏝の痕・・しかし、人的、倫理的な見解から廃止されている物の筈・・・ククッ、興味をそそるぜぇ。そんな俺の考えを知ってか知らずか、そいつは無邪気に話し掛けてくる。

『お茶で良いかな?あぁ、君はコーヒーの方が好きそうだね。』

手馴れた手つきでコーヒーを入れ、俺に手渡す。少し寒かった俺には有り難い物だ。見た所変な物も入って無さそうだしな・・俺が、コーヒーを一口二口飲むと嬉しそうに微笑み、窓辺に腰掛ける。まるで絵画の様に佇む奴に、不躾な質問を俺は浴びせた。

『・・なぁ・・あんたの其れ・・腕の“印”は如何したんだ?其れ、最近じゃ違法なんだぜぇ・・クク・・俺がチクッてやろうか?』

何の表情も変えず奴は答えた。

『? あぁ、此れ?此れは此処に来る前につけられた物だから気にしなくて良いよ。ねぇ、其れよりも君の名前は?』

其の人形の様な顔を崩せるかも・・と思っていた俺は当てが外れてがっかりしていた。

『人の名前を聞く前に、自分が名乗るべきだろう?ククク・・常識ねェなァ・・』

半分八つ当たりの様な言葉が口から出て行く。流石に不快感を表すだろうと見てみると、何食わぬ顔で微笑み続けているじゃないか。

『あぁ、そうか。そうだね。僕は“スレイヴ”、スレイヴだよ。』

『スレイヴ・・?変わった名前だな?見かけない姿だが何処の星から来たんだ?』

『此処から大分離れた小さな星からさ・・君の名前は?』

何と無くはぐらかされた様な感じがしたが一応答えてやるか・・

『クルルだ・・見ての通りのケロン人さ。』

すると奴は急に黙りこくった。唇に微笑を浮かべてはいるが、何か困惑している様だ・・ほんの一瞬の間の後、再び奴が口を開いた。

『・・ごめん、急に黙ってしまって・・そうか・・クルルって言うんだ・・ね、クルルはあそこで何をしていたの?』

『あぁ?士官学校行きのバスに乗ろうと思ってな・・そうしたらこの雨だろぅ・・で、周りを見回したらこの家が見えて、雨宿りでもするかと思ってね・・ククッ・・そしたら、あんたが・・・』

『あんたじゃ無いよ。スレイヴ!』
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