kira事件、特別捜査本部・二千五◯二号室
□「an Englishman in N.Y.」(さる作)
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さっきまでの思いは何処かに消え、君と共に居られる事に幸せを感じた。子供の頃の様に手を繋ぐ事はしなくなったけど、重なる影が手を繋いでる様に見えるのに嬉しい気持ちになったりもした。僕達は他愛の無い話をしながら夕日の中を歩いて行った。公園の前まで来た時、君が言った。
『・・・ねぇ、ゼロロ。今日はこの中を通って帰ろう?』
懐かしそうに・・何かを思い出すかの様に大人びた声の君の声は、幼い時聞いた声其の物だった。僕の胸は高鳴った。不安の様な・・期待の様な・・変な心が僕の中で生まれていた。答えるのに少し間が空いてしまったが、僕は君に“うん、行こう”と答え公園の中へ入って行った。久し振りに来た公園内は、懐かしい乗り物で一杯だった。小さな子が歓喜の声を上げて、漕いでいるブランコは僕がアサシンを目指すきっかけになった物だ・・あの時も君が一緒に居て、君が言ってくれた一言が僕をアサシンを目指すきっかけになったのを覚えているだろうか・・?
『ねぇ・・ゼロロぉ・・』
不意に君が話し掛けて来た。夢の中に居る様に漂っていた意識を身体に戻し、君の方に向ける。
『え・・?あぁ、ごめん、何?』
『・・・我輩さぁ・・最近、変なんだぁ・・』
何時に無く神妙な君の表情が心に痛みを与える。
『変て・・どんな風に?僕に出来る事なら、手伝うから言ってみてよ。』
『笑わない?』
『うん、絶対笑わない!』
僕のあまりにも真剣な顔に、苦笑する君が愛しかった。一呼吸おいて・・君がその重い口を開いた。
『・・小さい時からなんだけど・・我輩、自分の出て来る夢を繰り返し見るんだ・・我輩よりも大きい・・もっと年上の我輩が夢の中で言うんだ。“あるべき姿を思い出せ”って・・・最近は、眼が覚めても聞こえてくる時が有って・・ギロロは気にするなって言うんだけど・・・変な情景も夢に出て来る様になってからは、酷くなる一方でさ・・この前、父上に相談したんだ。そうしたら青い顔して何処かに電話していた。そして、今度の演習が終わったら検査に行こうって・・・』
『ケロン総合病院かい?』
『ううん・・軍の研究病棟だって・・我輩何かの病気なのかな・・?』
僕は上手い言葉が出て来なかった。僕も病気がちだったから変な風に慰められるのが返って不安を掻き立てる結果になるのを良く知っていたからだ。不安げにしている僕の手を取り、君が告げる。
『我輩・・其処へ行く前にゼロロに伝えなくちゃいけない事が有るんだ・・何時からかは分からないけど・・ゼロロの事が気になって・・可愛くて・・君の笑った顔や泣いた顔、行動から眼が離せなくなっていて・・・』
僕の其の時の気持ち・・君に分かってもらえるだろうか・・?身体が歓喜に溢れ、今すぐにでも抱き付きたい衝動に駆られていた事を理解して貰えるだろうか・・?僕は、君の言葉を待った。夕闇が迫る中、君の口から聞かされるある言葉を待っていた・・しかし、君の言葉は其処で遮られ“あの時の君”が顔を出した。“彼”は僕に微笑みかけながら告げる・・真剣に・・でも其の微笑みは悲しく冷たい物に見えた。
『・・・此処から先は・・“君達”が次に会えた時のお楽しみにしておこう・・今は、此れで勘弁してくれ・・。』
急に腕を引かれ、身体を木に押し付けられる。背中をぶつけ、痛みに仰け反る僕の唇に君の唇が重なる。
『・・っ!?・・ん・・!?』
君は・・いや・・“彼”は僕が逃げ出せない様に、身体全体を使って僕を押さえ付けた。頭の中が白くなり、如何して良いか分からない・・もがく事すら出来ない体勢に流されるしか出来なかった。“彼”は始めは軽く・・次は唇を優しく吸い・・最後に息さえ出来ない位の・・深いキスを僕に与えた。膝が振るえ・・まともに立っていられなくなると“彼”は唇を解放し熱い視線で僕を一瞥し・・消えた。其処に残ったのは我に返ったケロロ君が、僕を抱き締めたままの体勢で顔をギロロ君よりも赤くしていた。
『ケロっ!?・・・こ、此れには深い訳が・・!!て、言うか、何此れ?我輩、又やっちまったんですか!?しかも・・・ゼロロ・・!?・・ゴメン・・!?』
余りにも君が慌てていて・・さっきまでの衝動や慟哭は消え去り、君が可愛いと言う気持ちで満たされていった。僕は力が抜けていた身体を奮い立たせ、君からほんの少し離れた。泣きそうな君に微笑みかけ、こう告げる。
『・・・大丈夫・・怒ってないよ。僕、君が好きだから・・ただ恥ずかしいなって・・』
安心した表情を見せたのも束の間、さっきよりももっと顔を赤くして動揺する君を見て僕は思わず噴出してしまった。
『・・・我輩の方が恥ずかしいよぉ・・』