kira事件、特別捜査本部・二千五◯二号室


□「二季物語 - 夏 - 」(さる作)
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暫くはこの街ともお別れだな・・そんな事を考えながらもう一口酒を口に含むと、心地良いアロマが気分を和らげて行く。ほっと一息を付くのも僅かな時間、私は店の片隅に座り此方の様子を伺っている女性に気が付いた。安全な地域とは言え場末のバーに女性が独り居る事自体可笑しな話なのだが、廻りの男達は彼女の姿を気にする訳でもなく酒を飲み騒いでいる。別に年寄りな訳でも、地味な訳でもない・・むしろ廻りの男達の反応が可笑しいと思える位の美人だ。しかし・・彼女の身に纏っている“モノ”が野蛮な男達を遠ざけている様な感じがする・・。射る様な瞳は私が食事をし店を出るまで続いた。普段ならあれ程の女に見詰められていると感じれば喜ぶが、今は敵対視されている様な感じがして喜ぶ所か不愉快に感じるだけだった。私は勘定を済ませ、マスターに最後の別れをした後ドアに向かった。外に出る時のホンの一瞬、彼女に視線を投げかけると其れに答える様に直ぐに席を立ち外に出た。お互い無言のまま暫く歩き、人気のない路地までやって来ると突然彼女は私にこう言って来た。

『・・明日から新しい任務だと言うのに、随分お気楽なのね。如何して貴方みたいな人を“N"は選んだのかしら?』

私は、不快感を露にすると同時に彼女も“N"に選ばれた一人なのだと理解した。そして彼女は私が選ばれた事に関して良くは思っていない事も・・・酒の勢いではないが、あまり出さない怒りを彼女にぶつける。

『初対面の人間にそんな事を言われるなんて心外だな。任務は明日からだろう?その前夜に私がどんな行動しようが君にはまったく関係がないし、大体誰なんだ?“N"とか言う奴の情婦か!?』

彼女の顔が怒りで満たされる。飛んで来る掌を掴み、乱暴に引き寄せると彼女は私を睨み付け言った。

『・・っ・・本当に下品な男ね・・“N"はそんな人じゃないわ!今夜、貴方の様子を見て来てくれと言われたから来ただけよ。良い事?この任務はね、貴方みたいな甘えた坊やがやる様な任務じゃないの!人の・・自分の命が掛かっている任務なの!?やりたくないのならさっさと降りて頂戴!?迷惑よ!!』

彼女は私の手から自分の手を捥ぎ取り、軽蔑の視線を残し去って行った。私は、彼女の眼の中にある怒りと悲しみ・・そして言葉に圧倒され、ただ立ち尽くしていた・・命を懸けて・・?どう言う意味なんだ?・・そんな疑問が頭に過ぎる。と、同時に“L”の手掛けている事件の事や“キラ”の事・・・そしてナオミの事を思い出した。今、テロリスト達とやりあう以外で命の危険性がある事件はそう多くは無い・・まして、自分と人の双方の命が掛かる事件など数えるほどだ。私は、ポケットからタバコを取り出し銜えるとマッチで火を点けようとした。しかしマッチは湿気ているらしく火は点かず、箱が擦れる音が虚しく空に響いた。

『・・神が与えてくれたのか・・?それとも地獄への誘いなのか・・?』

私は銜えていたタバコを投げ捨て、歩き出した。その胸には愛しい人を消された怒りと、“キラ”に対する復讐心と・・・まだ私の中に残されていた正義が青白い炎となって静かに燃え始めていた。一時でも早く“N”の許へ行き、捜査を始めたい・・そう思った。そして遅すぎる朝を向かえ、私は“N”の待つ場所へと向かって行った。時間には未だ早すぎるが、逸る心を抑え切れなかったのだ・・約束の場所は“ビック・ペン”と記載されている・・しかし、一口に“ビック・ペン”と言ってもこの場所の何処で待てば良いのだろうか?取り合えず、周りを回って見ようと思い歩き出す・・擦れ違う人々は穏やかで、これから起ころうとしている事を忘れさせてくれる様に感じた。しかし、私の中にある青白い炎は、そんな考えを払拭し感覚を鋭敏にさせる。今の私はどんな顔をしているのだろうか?その時、私の横に黒い車が静かに止まった。後部座席の窓が開き昨日の女が姿を現した。

『貴方・・早く乗りなさい・・』

其れだけ言うと女は車の奥へと消えた。私は何も躊躇する事無く車に乗り込んだ。女は何も言わず、此方を見る事もしなかったが昨日の様な不快感は出て来なかった。変わりに謝罪の言葉を女に伝えた。

『・・昨日はすまなかった・・女性に対して最低な事を言ってしまったと思う。君の言う通り私は何に対しても甘えていたのかも知れない・・でも、私は其れを終わらせたい。いや、終わらせなければならない・・足手纏いかも知れないが一緒に捜査する事を許して欲しい。』

驚いた様な・・戸惑う様な顔で私を見詰める女の眼はほんの少しでは有るが柔らかさを帯びていた。車は郊外へと走って行く。どれ位走り続けただろうか・・?目の前の森の中に一軒、白い家が見え隠れしながら見えてきた。

『“N”は今、あそこに居るわ・・』
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