kira事件、特別捜査本部・二千五◯二号室


□「二季物語 - 夏 - 」(さる作)
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ようやく女が口を利いた。落ち着いた・・柔らかな声だった。車が静かに家の前に止まると、中から体格の良い男が出てドアの前に立った。不意に女が私の手を取り忠告する。

『此処から先は彼が案内するわ。・・良い事?“N”に会っても驚かないで・・真面目に、キチンと話しなさい。』

女は其れだけ言うと、握り締めた手を離すと視線を前に戻し二度と此方を見る事はしなかった。私は車を降り、男の方へと歩いて行った。男は一礼をすると一言だけ私に言った。

『“N”は一番奥の部屋で貴方をお待ちです。』

そして運命のドアが開いた・・・―。
男に連れられ中に入ると、其処には何も無かった。ただ白い廊下が、私達の足音を響かせながらその存在を主張していた。突き当たりのドアの前まで来ると男は立ち止まり、私に中に入る様に促した。緊張もさる事ながら、どう言う人物が待っているのかと言う期待で口の中が乾くのを感じていた。

『・・失礼いたします。』

重く響きわたる音が何も無い廊下に響き渡る・・開かれた扉の奥に眼をやると、一人の少年が椅子に片足を立てて座り此方を見詰めている。綺麗な・・しかしその幼い外見には似つかわしくない鋭く光る眼が印象的だった。少年は私が中に入ったのを確認してからその整った唇を開いた。

『・・始めまして、“N”です・・。貴方には情報の収集、及び工作等をやって頂く事になります。宜しくお願いします。』

私は、彼女が驚くなと言った意味が分かった。“N”と言う人物が余りにも幼く、儚げに・・そして頼りなげに見える事への忠告の意味を・・。しかし、意外な事に私は冷静だった。彼の眼は、子供の持つ其れとは違っていたからかもしれない・・暗く、静かに燃える怒りが私の心に伝わるのを感じた。同時に持ってはいけない感情も静かに首を擡げた。未だ、あどけなさ残る彼は何故そんなにも苦しんでいるのか・・理由は直ぐに判明した。

『Lが消息を絶ちました・・ワタリは死んだそうです。私達は此れから彼の残した物を元に“キラ”捜査を続けて行かねばなりません・・途中、ワタリの様に死を迎える事になるかもしれませんが協力して下さいますね?』

拒否権が無い事が分かっているのに聞いて来るこの少年は怯えているのか・・?其れとも・・・何れにしろこの機会を逃す訳は無い。私はこの新しい“L”になるべく生まれた少年に力を貸そうと誓った。其れは、彼の為だけでは無く、自分の為でもあるのだ・・・この美しいルシフェルを守り、如何なる事態も乗り越えて行こう・・神になりたい“キラ”は神を恐れず立ち向かうルシフェルによって、その翼を折られるだろう。私達、“キラ”に立ち向かう人間を人は愚かだと言うかも知れない・・しかし、手の中にあったかも知れない幸福を取り上げられた時同じ事が言えるのだろうか・・?“N”・・ナオミの様に孤独の光を眼に宿す者よ。私は貴方に全てを奉げよう・・貴方と共に・・全ては自分の為に・・・。

『覚悟は出来ています。私は彼方の為に命を懸ける事を誓います。』

“N”は私の眼を真っ直ぐに見つめる。何かを探す様な、真実を抉る様な眼だと思った。柔らかなその風貌とは違うその鋭さに圧倒される。

『・・・良いでしょう。例え別の思惑が有っても構いません。単独行動さえしなければ・・ですが。貴方は今から私の物です。その意思も、行動も、全て・・』

“N”の形の良い唇が何かを呟いた。とても小さく、でも確実に・・私の名前を呼んだ。そして微笑む・・私は、その姿に・・声に魅入られてしまった・・。私の中の冬が終わりを告げ“復讐”と言う名の物に変わる時、道標となるのはこの目の前にいる少年なのだ。

『では、又明日、会いましょう。』

“N”はそれだけ言うと背中を向け、二度と振り返らなかった。私も、何も言わず部屋を出た・・いや、新しい季節の始まりの扉を開いたのだ・・。全ては自分と“N”の為に・・・。    《完》
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