<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「●〓△ fix the boundary △〓●」(月夜野さる著)
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『あ、はい!失礼致します!』

新米は敬礼をし、言われるままに退出して行った。暗茶色の扉が閉まり、足音が聞こえなくなった頃・・・長官はワタリをソファに座る様に導いた。そして自分も対面に座る片手を頭にやりながら話し始めた。

『ワタリ・・・多忙な君を急に呼び立てて申し訳ない・・・だが、君・・・いや・・Lの力を緊急に借りたい事態が起きてしまってね。』

『貴方方の力でも及ばない事件がそう有るとは思えませんが・・・しかし、余程の事でも無い限りは私共に連絡が入る事は無いのも知っています・・・何がありました?』

長官はワタリの言葉に深い溜息をつき、右手で口元を覆い何度か擦っていた。そしてソファに浅く掛け直し、身を乗り出す様な姿勢を取るとその重い口を開いた。

『・・・今から12時間程前・・・ある代議士のご子息が誘拐された。』

『 ? それならば貴方方の得意分野ではないですか?』

『普通の誘拐ならばな。だが・・・犯人からの要求が無いんだ。』

口ごもりながら話を続ける長官に、ワタリは怪訝そうにし言葉を続ける。

『・・・長官・・・私に理解出来る様に話をして下さい。少し違うタイプの誘拐とは言え、貴方方でも対応は可能な筈・・・なのに私に連絡をし、至急Lに依頼したいと言う。私はLに全てを報告する義務があるのです。隠し事等なさりません様お願いしたいですな。』

『いや・・・すまない、隠し事をしたい訳では無いんだ。ただ・・・・・』

困惑気味の長官は落ち着き無く立ち上がると、そのまま立ち上がり窓際へと歩いて行った。長官のその姿を見ているワタリに、男の1人が話し掛けて来た。

『・・・長官のご子息もほぼ同時刻に行方不明になっているのです。』

驚きながら視線を上げるワタリの目の前に、短髪の男が書類を手に立っていた。男は屈みながら書類をワタリに手渡すと、握手を求め右手を差し出して来た。

『初めまして・・・長官の補佐をしていますスミスと申します。長官は少々動揺なさっているので、私が代わりにご説明申し上げます。』

ワタリは握手に応えながらも、今発せられた言葉の方に興味を持った。

『初めまして、ワタリと申します。今貴方が言われた長官のご子息も消息が不明と言うのは?』

スミスはワタリを再びソファに腰掛ける様に手で指示し、自分もその直ぐ隣の1人掛けのソファに座った。

『話は昨夜に逆上るのですが、代議士のご子息は自宅近くの路上で犬の散歩中に拉致されたらしいのです。その1時間半後・・・長官のご子息が、やはり自宅近くの路上で拉致されました。』

『目撃者が居たのですか?』

『代議士のご子息付きのボディーガードが一緒に・・・彼はショック銃を撃たれその衝撃で身動きが出来なくなっていたらしいのですが、僅かな意識で見たのは白系の車と体格の良い白髪の男だったと・・・・長官のご子息に至っては、車の急ブレーキ音と若い男の怒鳴り声・・・後・・近くの家の住人が中年の男が自分の車にご子息らしき男を乗せいたと証言している。その現場にご子息の物と思われるバイクとバッグが見つかっている。』

ワタリは手渡された書類をパラパラとめくりながらその話を聞いていた。事情は理解出来たがそれが何故“自分を呼び出す”事に至るのかがいまいち理解出来なかった。
ワタリの困惑顔にスミスは溜息混じりに話を続ける。

『・・・ご子息達が拉致され数時間後、国のある機関にハッキングが行われたんだが・・・・そのハッキングに使われた暗証コードが問題なんだ。』

そこまで言うと口を噤んだスミスの顔をワタリは見詰めた。余りにも深刻なその顔に、ワタリは嫌な予感が走った。そしてその予感こそが自分が呼び出された理由なのだと言う事も・・・・。スミスは両手の指をクロスさせ、俯き加減で話を続けた。

『・・・・そう・・・今君が考えた通りの事が起きたんだ。使用された暗証コードは代議士の物で、侵入者が使用したPCはそのご子息の物なんだ。』

『国防相省の方なのですね?』

『あぁ・・・・しかも始末が悪いのは重要な機密に携わる方で、自宅からアクセスする時に良くご子息のPCを使うそうなんだ。無論全てを暗号化し、入力情報を消してるそうだか・・・・それが油断を呼んだんだ。』

ワタリはそこまで話を聞き考えた。確かに由々しき事態ではあるが、多忙なLにこれ以上の依頼がこなせるかどうか・・・寝る間を惜しんでも(実際Lは余り眠らないが)尽きない事件の依頼・・・そこへ今回の事件を入れるとなるとかなりな負担になる。ワタリは未だ結論を出さずに話を聞く事にした。

『ハッキングの目的は分かりましたか?』

ワタリの問い掛けにスミスは首を振った。

『いや・・・ハッキリとしていない。“何か”にアクセスし“細工”をして行ったらしいのだが、あちらさんが解答を拒否してね・・・。』

『ではかなり重要な部分に触れていると言う事ですね。』

眉根を寄せながらワタリがそう言うと、スミスが食い付いてきた。どうやら彼は自分達に情報を流さない国防相省に苛立ちを感じていた様だった。それも当たり前だとワタリは思った・・・お偉いさんと言うのは無茶な要求を良くする。そしてそれが出来なければ無能呼ばわりする物なのだ。

『何故そう思う?』

『言いたがらない理由等そんな物です。自分達に不利になる物、知られては困る物・・・・まして国防相省となれば、自分達の首を絞める事になり兼ねませんからな。恐らくは内々に済ませる為に情報を流さないのでしょう。ご子息の事もそうする様に言われたのでは?』

スミスはワタリの言葉の後、窓際に佇む長官の顔を見た。ワタリもそれに続いて視線を投げると、長官は親指を噛みながらチラリと2人の方を垣間見る・・・・そして自分のデスクに座ると、その通りだと言う様に大きく頷きワタリに問い掛けた。

『・・・どうだろうか?・・・Lは依頼を受けてくれるかね・・・?』

ワタリは言葉に詰まった。しかし自分の一存で依頼を断る訳にもいかず、一端保留にしLの判断を頂くしかないと考えた。そして縋る様に見詰める長官にこう告げる。

『お話は分かりました。しかし引き受けるかどうかはLに判断を任せたいと思うのです。今日は保留と言う事で、明日にでも正式にお返事をすると言う事で宜しいでしょうか?』

『・・・それでも構わない。とにかくLに事件の事を知らせてくれたまえ。良い返事を期待しているよ。』

長官はそう言いながら席を立ち、ワタリの元へ近付くと肩を叩いた。ワタリも立ち上がるとそれに応える様に会釈し帰路につこうとした。

『では・・・。』

ドアに手を掛け出ようとするワタリに、長官はコートを取りながら慌てて声を掛けて来た。

『待ってくれ・・・・私も外出するんだ。途中まで送ろう。』

何処と無くぎこちない感じのする物言いにワタリは訝しげにするが、中に残る部下に的確に指示を与えている長官をドアの前で待っていた。程無くして長官がワタリの元に来ると、2人で地下の駐車場へと向かい歩き出した。

『長官・・・・大丈夫ですか?』

エレベーターに乗り込んでも話そうとしない長官に、ワタリはそう話し掛ける。すると落ち着き無く視線を泳がせると、微かに笑い溜息をついた。

『・・・すまんな・・・こんな仕事をしていればこう言う事態も有り得ると考えていなかった訳では無いが、いざ起きてしまうと予想外に動揺する物なのだな・・・。』

『それは親ならば当然の事です・・・恥じる事ではありません。』

ワタリの言葉に頷き、軽くワタリの肩を叩く長官の顔に笑みが戻った。ワタリもまた微笑み、余り気負い過ぎない様に忠告をした。

『犯人の思惑がハッキリするまでは、余り目立つ行動は避けた方が良いでしょう。それよりも拉致された2人の周囲や、彼等自身に焦点を当てた方が解決の糸口が出て来るかも知れません。』

『交友関係とかならある程度はやったが・・・』

『それ以外の全てです。行動パターンや行動範囲、学校に行ってらっしゃるなら、校内での噂や成績に至るまで調べて下さい。』

その言葉に些か不快感を示す長官に、ワタリは厳しい口調で言い放った。

『家族と言えど甘い考えやひいき目はお止めなさい。この事件が起きたきっかけを探る為です。彼等自身に原因があろうと無かろうと、何かは出てくるかもしれません。』

『・・・・プライバシーの侵害にあたる事だとしてもか?』

『それが私達・・・いいえ、Lのやり方です。可能性が0%ではない限り、疑問を投げる・・・貴方に出来ないのであれば、私がやりますが・・・どうされますか?』

長官は少し考え込み、唇を噛み締めると簡潔に答えた。その時の長官の顔は父親の顔では無く、犯罪を取り締まるFBI長官としての顔になっていた。

『分かった、直ぐに取り掛かろう。代議士のご子息の方は時間が掛かるかも知れんが何とかしてみる。』

そう言い終わった時、不意にエレベーターの扉が開いた。2人が降りようと足を運び出した瞬間・・・ワタリの表情が変わった。何か・・・・違和感を感じるワタリ達の背中でエレベーターの扉が静かに閉じて行く。急に立ち止まり辺りを探るワタリに、長官は話し掛けようとした。

『・・・どうし・・・』

ワタリは勢い良く右手を上げ、長官のその言葉を遮った。驚きながらもワタリのその様子に異変が起きつつある事を理解した長官は、上着の下に装備してある銃のホルダーに手を伸ばし何時でも取り出せる様に準備をした。ワタリもまた警戒しながらも、相手の目的とどう出てくるかを考えていた。

《 何が目的か・・・大体は想像が付きますが、もしもそうなのだとしたらその行動力には感服しますね・・・さて・・・どうした物か・・・ 》

ワタリは後で警戒している長官を一瞥すると、持っていた上着に目を落とした。そしてエレベーター横にある僅かな空間に身を隠す様に姿勢を低くすると囁く様に話し始めた。

『長官・・・提案があるのですが・・・』

そう耳打ちするワタリに訝しげする長官は、その後続けて耳打ちする言葉に驚き首を振った。しかしワタリが真剣な顔付きで訴えると、悔しげに頷き持っていた上着をワタリに手渡した。その行動にワタリはニッコリと微笑み、自分が持っていた上着を長官に手渡しす。ワタリは長官の上着を素早く着ると、立上がりゆっくりと歩き始めた。
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