<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「Pacific Ocean Blue」(さる作)
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何とか堪えた僕は父さんと機内へと移動した。

『大丈夫か?ライト・・・顔色が悪い様だが・・・?』

心配そうにそう話しかける父さんに、僕は息子として素の笑顔で答えた。

『あぁ・・大丈夫だよ。ただ・・・あの世間知らずと行動するのかと思うと、少し頭が痛いけどね。』

そう言いながら僕は竜崎を見た。あいつはとっととビジネスクラスのシートへ移動し、松田さんと窓際の取り合いをしていた。その様子を見た父さんも苦笑いをしながらこう言った。

『う・・・まぁ、竜崎は特別だからな。我々で見守ってやろうじゃないか?お前も友人なら、ちゃんと見ていてやるんだぞ?』

『それは勿論・・・だけどアレは父さんが何とかしてね・・・。』

『ずるいですよ竜崎!僕に窓際を譲って下さいよ!?』

『何がずるいんですか?松田さんのシートNOは通路側でしょう?』

『二人とも止めないか!他の皆さんに迷惑だろうが!?』

子供に手を焼く父親の図だな・・・と、思った事は相沢さんには内緒にしておこう・・・いくらなんでもあんなデカイ子供なんて欲しくないだろうしね・・・。見るに見かねた父さんが、自分の席と松田さんの席を交換して如何にか収まりがつきようやく僕達は席に落ち着いた。相沢さんは一人優雅に座り雑誌を読み始めているし、父さんは松田さんの相手をしてやっている。そして僕は必然の様に竜崎の隣で機内にはでか過ぎる死神のはしゃぎっぷりを見ていた。

『なぁなぁライト!このボタンなんだ?押していいのか??お、あれ凄ぇな!こいつの先頭部分の映像か?それとも足元の映像か?』

・・・・・あぁ・・静かに過ごしたいなぁ・・・・・。

『・・ト君・・・・ライト君?如何しました?』

余りに煩いリュ―クのハシャギ声に苛ついていた僕は、竜崎が話し掛けている事に直ぐに気付かなかった。

『あ?あぁ・・・別に何も・・・何か変だったかい?』

『はい、物凄く怖い顔をしていましたよ?まるでキラみたいでした。』

『見た事も無いのに、何言ってるんだ・・ぐぇ!』

竜崎の言葉に立ち上がりかけて、シートベルトにそれを阻まれた僕は思い切りお腹にベルトを食い込ませてしまった。シートが大きく揺れて、それに驚いた乗客の視線が僕に集中する・・・。

『大丈夫ですか?ライト君・・駄目ですよ?皆で旅行するのが嬉しいのは分かりますが、ハシャギ過ぎですよ。大人しくしていて下さいな。』

その言葉にクスクスと笑う乗客の声に、僕は恥ずかしいやら竜崎に怒りたいやらで顔が赤くなっていくのを感じていた。あぁ・・・もうこいつを誰か何とかしてくれ―――!?

『・・・・そろそろ離陸だな。竜崎・・いくらなんでもちゃんと座って、シートベルトしろよ?』

僕は話を変えようと、必死に感情を抑えながらそう話しかけた。すると竜崎は何処か楽しげに僕を見詰めるとこう答える。

『大丈夫ですよ?この座り方でもシ−トベルトは出来ますから。』

・・・・・あきらめよう。それに僕をからかうのは竜崎なりの喜びの表現らしいからな・・・。こいつもこいつなりに皆で出掛けるのが嬉しいらしい・・・と思えばそんなに腹も立たないで済む・・。そんな事を思う内に機内放送が入り、僕達が乗った航空機は大空へと飛び立った。

『局長、飛びましたよ!』

はしゃぐ松田の声が気になるが、それは父さんに任せておけば良いだろう・・・。僕はゆっくり機内音楽でも聴いて過ごすさ。そう言えば竜崎の奴随分静かだけど、如何しているんだろうか・・?
そう思いながら隣に視線を移すと、竜崎は携帯電話を取り出し操作を始めていた。

『!? お、おい!何やっているんだ!携帯を弄っちゃ駄目じゃないか!!』

僕は慌てて竜崎の手から携帯を取り上げた。初めは驚いたのか何も言わなかったが、少しの間を空けて竜崎が不満そうに言い返してきた。

『・・・・・ライト君、急に取り上げるなんて酷いじゃないですか。私が貴方以外の誰かにメールでもしていると思っているんですか?』

『ば・・!?何言ってるんだ!!お前知らないのか?機内は携帯禁止だろう!?』

僕がそう言うと竜崎はシレッとしてこう言い放った。

『知っていますよ?携帯で電話を掛けたり、インターネットに繋ぐ事で旅客機の機器に影響が出るかも知れないのでしょう?』

『知っててなんで弄ってるんだ!?』

『? 私は溜まっていたメールの処理をしていただけですよ?駄目なんですか??』

『そんなの分かるか・・・良いか?誤解されるからそう言う類の物はしまっておいてくれ。そう言う行動を見て“あの人もやってるから自分も”って奴が必ずいるんだからな?』

僕の言葉を珍しく静かに聴く竜崎に少し驚きつつも、竜崎にそう言っている自分の廻りから携帯の閉じる音が彼方此方から聞こえて来るのに気付いた。・・・もしかして・・・・竜崎の奴・・・この間した携帯が今問題になってるって言う会話を覚えてたのか・・・?そう言えば物凄く不愉快そうだったな・・・・特に自分だけじゃないからとか言う言い訳が嫌だとか言ってたっけ・・・でも僕を使ってそう言う事に対する文句を言うなよ・・・。疲れた表情の僕にニコリと微笑むと、竜崎は一言“分かりました。”と言って機内誌を読み始めた。
どうか此の侭二時間・・・大人しくしててくれ。
僕はそう思いながら、目を閉じ僅かな安息を求めた。如何か此の侭何も無く、沖縄に着きます様に・・・。


『お客様、お飲み物等は如何ですか?』

僕はそんな声でふと目を開けた。そこには笑顔が可愛いスチュワーデスが立ち、機内サービスのワゴンを前に答えを待っていた。

『あぁ・・・すみません。じゃあコーヒーを下さい。』

『かしこまりました。お砂糖とミルクはお使いになられますか?』

『はい、じゃあ一つずつ下さい。』

『はい。』

彼女はそう答えると、丁寧な仕草でコーヒーを注いでくれた。実は機内で飲むコーヒーは意外に美味しくて、僕は好きな飲み物ベスト10にいれるぐらいだった。我ながら庶民的だとは思うが、有名コーヒー店に負けていないと思うのだから仕方が無い。因みに余談ではあるが、某航空会社のコンソメは最高だ。

『お客様は何をお飲みになられますか?』

僕にコーヒーを渡した後に、彼女は竜崎へそう質問した。すると竜崎は彼女の顔をジッと見詰めながら暫く無言でいる・・・。

“な・・何を黙ってるんだ?”

考えているのだろうと答えを待つ彼女は、笑顔のまま同じ様に竜崎を見詰め返す。僕はそんな二人に挟まれたまま耐え難い沈黙にいたたまれない気持ちにさせられた。

“早く・・・どっちでも良いから、何か言ってくれぇぇ!”

何故僕がそんな風に考えなければならないのかすら分からない中、ようやく竜崎が口を開いた。

『・・・・紅茶を、出来ればアールグレイで・・・』

何故かホッとする僕・・・ようやく答えを聞いた彼女は再びニッコリと微笑むと、竜崎の注文に答えた。

『紅茶でございますね?かしこまりました。アールグレイではございませんが、宜しいでしょうか?』

『無いなら仕方がありませんね、砂糖は七個下さい。』

『はい、かしこまりました。』

・・・・彼女の笑顔が余計に怖いと感じるのは僕だけだろうか・・・?

『お客様、前を失礼させて頂きます。』

『あ、あぁ・・どうぞ。』

竜崎のもとへカップが手渡されるが、奴は相変わらずな持ち方で受け取った。

『有り難うございます。』

律義にそう言う竜崎に笑顔を返し、父さん達の所へ移動した彼女はプロだなと改めて思い尊敬した。僕なら苛ついて何にするのか急き立てるだろうしね・・。

『あ!局長、富士山ですよ!?』

いきなり窓に張り付いた松田さんは、父さんの腕を引きながらそうはしゃいだ。すると父さんはかなり慌ててそれを静止する。

『シーッ!静かにしないか、他の方に迷惑が掛かるだろう?』

『え?あ、すみません!でも、ほら、見て下さいよ。綺麗ですよ!?』

・・・人の話を聞け!

『全く・・松田さんは迷惑な方ですねぇ。』

お前もだろ!?頼むから早く着いてくれぇぇ!!
・・・そんな風にしながら、僕は残りの一時間強をジリジリと過ごしていた。はっきり言って、大学の試験の時の方が落ち着いていられた。

『・・・・当機は間も無く那覇空港に到着を致します。本日の那覇の天気は快晴、風速は南東の風3メートルです。シートベルトを着用し、そのままでお待ち下さい。』

アナウンスが流れ、前方のスクリーンが切り替わる。

『ウホ!ライト、あれ!あの島が沖縄か?』

リュークが画面に張り付きそうな姿勢で僕に問い掛けて来た。けれど直に答えられない僕は、リュークを睨み付け静かにいる様に目で訴えた。けれど・・そんな僕の訴え等分からない程興奮したリュークは、更に僕に答えを要求する。

『おぉ!段々近付いて来るぞ!?ライト、凄ぇなコレ・・面白いな、な!!』

“答えられる訳ないだろうが・・・この馬鹿死神が!?”

そう考え困り果てる僕の横で、竜崎がポツリと呟いた。それは意外な事に僕にとっての救いになった。

『ふぅん・・あれが沖縄ですか・・・小さいですが、綺麗な島ですね。あの画面では色が分かり辛いですが・・・窓から見る海の色は最高に美しいですね。ほら、ライト君見えますか?』

僕は竜崎の言葉に便乗して、ついでにリュークの問い掛けにも答える様に返事をした。

『あぁ、見えるよ。凄いよね・・・あの機体下に取り付けてあるカメラじゃ、この海の綺麗さは出しきれないよ。しかし竜崎はあの画面を見ても騒がないんだな?もっと子供みたいに騒ぐかと思ったよ。』

そこでようやくリュークがギクリとした表情を見せ、張り付いていた画面から剥がれた・・・後でお仕置だな・・・等と考える僕に、竜崎は渋い表情を見せていた。
流石に竜崎もムッとしたのだろうかと考えた僕は如何言い繕うか考えていたが、返って来た返事は予想外の事だった。

『・・・・先にああ言う人を見てしまうと、そうしたくても出来なくなりませんか?』

『え?』

かなり渋い表情の竜崎が指差す方向には、父さんが必死に松田さんの口元を押さえて声を出させ無い様にしているのが見え愕然とした。

『局長!見てく・・モガモガモガ――!?』

『ば、馬鹿者!静かにしないか!?』

『モモモ――?モガモモ――!』

“えぇぇ――?そんなぁ――!”とでも言っているのだろうか・・・良い大人があれじゃあ、確かに竜崎が騒げなくなる筈だ。まぁ・・・騒がれても困るんだけどね。

『あ、そろそろ着陸しますね。』

滑走路が目の前まで迫り、白く輝くアスファルトが視界いっぱいに広がった。それと同時に着地の衝撃が、機体を通じて身体に響く。僕はこの瞬間の一瞬上に跳ね上がる感じが嫌いだが、今はさっき見た海に早く行きたい気持ちがそれを薄れて行く。

『どぅおわ!うるせえ――!?』

逆噴射の音に両耳を塞ぎながらリュークがそう叫ぶと、機体はゆっくりとスピードを緩めついった。何とか着地できたのに少しばかり安心する・・・妙な感覚だなと苦笑すると、それを見ていた竜崎が嫌な笑いを浮かべながら何か言いたげに僕をジッと見つめていた。

『な、何だよ!別に怖いとか思って無いからな!?』

思わずそう言った僕をからかう様に、笑いながら竜崎は答えてきた。

『私何も言ってませんよ?もしかして怖かったんですか?』

『そんな訳無いだろ!?子供じゃあるまいし!!』

ついムキになって言ってしまった僕に、竜崎はある人を指差し口元で笑った。
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