<;丶`Д´>紐育 につく 通り 入口以前


□「ひぐらしの啼くケロに 穀潰し《ごくつぶし》編」(さる作)
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K一の突っ込みにタマは目をクワッと見開きながら素早く答えた。

『その辺の突っ込みは禁則事項ですぅ!』

『ゲロ・・・』

もはやどう答えて良い物か悩んだK一は、話題を変える事にした。

『・・・そ、それだけ大きなお祭りなら、きっと楽しいんでありましょうなぁ。』

『それはもちろんなのですぅ。最後には供物の奉納式をして、また来年までの一年間をお祈りするのですよ。』

『供物?』

K一は今までの話の流れからどうせまたお菓子か何かを詰め替えて、来年まで食べて下さいね〜〜とかやるに決まっていると考えていた。と言うか・・・タマのこの上なく幸せそうな顔からは、そう言うイメージしか沸いてこなかったのだ。
K一の何処となくあきれた様な表情を見たタマは、突然神妙な顔付きに変わり真っ直ぐK一を見据えた。

『K一・・・K一は秘密を守れる・・・?K一は絶対に私を裏切らないと・・・誓える?』

『え・・・?タマ・・ちゃん・・・?』

K一が驚きを隠せない声でそう呟いたのは、タマの表情がガラリと変わった事・・・そしてその口から出る声が余りにも大人びていたからであった・・・。

《ど・・・如何したんでありますか・・・?さっきまでとはまるで別人じゃ・・・・》

K一が一瞬タマから視線を外し・・再び視線を戻す瞬間・・・・辺りの木々が突風でざわざわと大きく揺れるた。その余りの勢いに目を閉じそうになる。

『うわぁ・・・!何なんだよ急に・・!?』

『・・・・・災いが起きる・・・・・・』

『え・・?』

風に翻弄されながらも、K一はタマの方を見つめた。すると髪を風に遊ばせながら、タマは不敵な表情と笑みを浮かべ言葉を続けた。

『K一・・・・何があっても、おなつみ様を怒らせてはいけない・・・・。』

『・・・・タマちゃん・・・!』

『良いわねK一・・・・祭りの後・・何があっても、おなつみ様の社には近付かないで・・・・。』

そう言うとタマは振り向き、村の方へと歩み始めた。K一はその後姿に声を掛けようとするも、再び吹き荒れる風に視界と声を遮られる・・・・K一は暫くの間・・・堅く目を閉じ、風が通り過ぎるのを待った。

《・・・・今のは・・・・いったい・・・あれはタマちゃんなのか・・・・?でも・・・あれは俺の知ってるタマちゃんとは全然違う・・・・・》

そう考えるK一の耳から風は遠ざかり、辺りは静寂を取り戻していた。K一はゆっくりと目を開ける・・・・先程の突風が嘘の様に思えるほど空は高く、何処までも青く夏の日差しをK一に降り注いでいた。

そんな夏らしい空とは裏腹に、重い足取りで家に帰宅した後・・・K一はタマの言った言葉を考えていた。あんなに明るく可愛らしいと思っていたタマの豹変・・・・その聞き慣れた筈の声が発っせられる筈の唇から綴られた大人びた言葉・・・・。

『・・・あれはいったい何だったんでありますか・・・。』

今まで皆で楽しく部活と言う名の遊びをしてきたが、大人達に咎められた事も無ければ迷惑をかけた事も無い。無論この日向沢に来て初めての祭だからと言って、思い切りハメを外すつもりも無い・・・すると言ってもせいぜい屋台巡りで、早食いや射的勝負ぐらいだろう・・・。

『おなつみ様・・・か・・・そう言えば引越しの時・・村長の説明も適当に流してたから、良く知らないでありますな・・・ギ音にでも聞いてみるか。』

もともと落ち着きが無・・・考え込むのが苦手なK一は、日も傾きかけた道に飛び出して行った。


『ギ音ン――!おなつみ様について教えるでありまぁ―――す!?』

『どぅおわ―――!?』

夕食の買い物を頼まれたらしいギ音は、K一のタックルに持っていた買物袋を空中に放り出した。

『・・・な、な、な・・何をするか―――!?』

頭に割れた卵を乗せながら怒り狂うギ音に、K一は少しも気にせず話しを続けた。

『ねねね・・・おなつみ様って何ぃ?そもそもどんな物なわけぇ?心霊系?そりともただのがらくたぁ?ね――ギ音てばぁ、お―し―え―て―よ―!?』

『やかましいわ!!』

擦り寄るようにねだるK一に、流石のギ音も少しキレてしまい思い切り蹴り上げてしまった。

『ゲロ〜〜』

クルクルと回転しながら舞い上がったK一は、程なく地面に顔面から着地した。その姿を見ていたギ音は、息も絶え絶えなK一に駆け寄り思わず抱き締めてしまった。

『す、すまん!つい本気で・・・Kちゃん、大丈夫か!?』

白目をむきながらもK一は震える右手をギ音の前に差し出すと、親指を立てこう呟くのだった。

『ナ・・・ナイスキックで・・・あります・・・。』

その様子に安心したのか、ギ音は急に顔を赤らめた。いくら心配だからと言って、こんなに近くにK一の顔がある事の恥ずかしさにうろたえたのだ。K一はそんなギ音の様子を?マークを携え凝視している。
見られている事を意識し大量の汗が流れ、心臓が早鐘の様に物凄い勢いで動いている・・・・・

《はわわわ・・・・Kちゃんの顔がこんなに近いよ〜〜・・心臓もこんなに・・・ヤバイ、ヤバイってぇ!》

『ゲロ?』

『のわ――――っ!?』

恥ずかしさからか気が動転しているのか、ギ音は再びK一を蹴り飛ばした。

『どして――――!?』

クルクルと回転しながら舞い上がるK一は、一瞬だけ星になった・・・。
暫くの後に、河原て水に足を浸けながら座るK一とギ音の姿があった。申し訳なさそうにうなだれ顔を赤らめるギ音と、見事な青痣を右目に付けたK一は暫し無言であった。しかし・・・・その気まずさに耐え兼ね、言葉を詰まらせながらギ音がようやく口を開いた。

『あ〜〜・・・す、すまん・・・そ、の・・気が動転して・・・』

何時も自信満々で胸を張っているギ音が、身体を小さくしながら囁くように話す姿を見たK一は思わずクスリ・・と笑った。
そしてギ音の頭を、グシャグシャに撫でながらこう言った。

『いや〜〜〜良いキックでありましたよ!流石ギ音でありますな!?』

『う・わわわ・・・許してくれるのか・・?』

『許すも許さ無いも・・・煩くした我輩も悪いんで・・・まぁ・・・二回目のは良く分からないでありますが・・・そんな事よりも、ギ音に聞きたいことがあるんであります。』

K一に心からすまないと感じていたギ音は、その申し出に食らい付きこう答える。

『勿論!あたしに分かる事なら何でも!?・・・で、聞きたい事って何?』

K一は間を開けず、聞きたかった事を一気に言葉にした。その間ギ音は黙って聞いていたが、K一が話し終えると少し困った顔をしながらゆっくりと話し始めた。

『・・・余り良い話しじゃ無いんだけど・・・おなつみ様は昔からこの村を護ってきた神様で、この村に仇なす者には必ず天罰を下してくれる良い神様なんだ。』

『天罰・・でありますか?』

小さく頷き、言葉を続けるギ音・・・。

『・・少し前のお祭りの日に、おなつみ様の祟りがあった・・・。そいつはKちゃんと同じ、村の外からやってきた男で・・・同じ様におなつみ様を信じて無かったんだ・・・。』

K一は思わず唾を飲み込んだ。ギ音に自分がお夏美様を信じていない事を、あっさりと見抜かれたからだ・・・。だがそんな事をすぐに認める訳にはいかない・・・。

『そ、そんな事はないぜ!我輩はキチンとおなつみ様を信じて・・・っつうか、神様は信じているでありますよ?ただ、タマちゃんの意味深な言葉が気になって気になって・・・・。』

ギ音は目を丸くして、K一の反論を聞いた。余りに必死になって言うK一に、思わず笑みがこぼれた。

『ふふ・・・そっか、スマンスマン・・・Kちゃんは違うんだな。・・・とにかくその信じてない人達は、お祭りの日にとんでもない事をしでかしたんだ。』

『とんでもない事?』

『あぁ・・・あいつ等・・・お祭りの日におなつみ様の社に忍び込んで、お供えしてあったガンプラを盗み出したんだ!』

ギ音の言葉を聞いた瞬間、K一は稲妻に撃たれた様な衝撃を受けた。それは夢にまで出て来る程に、恋し焦がれた物だったからだ。

『ガ・・・ガンプラ・・・』

思わず呟いた久しく聞かなかったこの言葉・・・それはK一にとっては蜜よりも甘く、どんな物よりも優美な物である・・・それを・・・お供えに・・・・?

『ん?Kちゃん、ガンプラの事知ってるのか?』

少しおかしいK一の態度に疑問を持ったのか、ギ音は不信そうな表情を向けK一に話し掛けてきた。その表情と大きな瞳が、K一の動揺を探り始める・・・何時もとは全く違うギ音のその仕草に、K一は思わず嘘を付いてしまった。

『あ・・・あぁ、東京に居た時に耳にした事があるかな・・・何でも凄い人気のあるプラモデルとか?』

・・・・本当は好きで好きで堪らないガンプラ・・・この村には存在せず、街の玩具屋にも見られない今は幻の物・・・・―――。新作が出ても買いに行く事も手にする事も出来なくなり、どれだけの時間嘆き苦しんだただろうか・・・・。祭の日ならそれが存在するギ音のこの話、聞き逃す訳にはいかなかった。

『でも我輩には関係無いでありますよ、興味無かったし、作った事もないでありますからね。』

『・・・Kちゃん・・・』

言葉の真意を探る様に、ギ音は真っ直ぐにK一を見詰めた。そのあまりにも真っ直ぐな瞳に、K一はドギマギしていた。気は荒いが大きな黒い瞳を持ったギ音はかなり魅惑的な女の子だ。そのギ音に見透かされそうになるほど見詰められ、息がかかりそうになるほど近付くなんて普段では絶対に有り得ない事だ・・・。

《はわわわ・・・近くてドキドキ・・・バレそでハラハラ・・・》

そんな事を考えながらも、ギ音の疑いが晴れるまでは目を逸らすなど出来ない。しかしこの体勢はちっとヤバイと思ったKーは、目を逸らさないように後退り始めた。するとそれに気付いたギ音は、後を追うように前進する・・・するとまたKーが後退り、ギ音が前進する・・・・。始めに二人が居た位置から進む事数メートル・・・突然ギ音が怒りだした。

『貴様―――!?ふざけているのか―――!!』

『ふふふ、ふざけてないでありま―――す!』

『じゃあ何故逃げる―――!?』

『ててて、て言うか・・・近い!ギ音、近いでありますよ―――!?』

Kーのその言葉に、ギ音はハッとした。そして少しの間を置いてから、再びKーを遥か彼方まで蹴り飛ばし自分も走り去って行った。

『ぎゃ――――っ!?』

『ゲロ〜〜〜〜〜!?』

『恥ずかしいぃぃぃぃ!?』

土煙を巻き上げ去って行くギ音の姿を、Kーはクルクルと回りながら見送ったのだった。

『理不尽でありま〜〜す!?』

その2人の姿を林の影から見ていた人影が居た。その人影は2人のやり取りを、ずっと手を硬く手を握りながら見ていた。そしてKーの落下地点を見極めると、その地点へと急ぎ走って行った。
そんな事も知るよしも無いKーは、頭から土にめり込み足を引き攣かせていた・・・。

『・・・・・ぶはっ!?・・・死ぬかと思った!!』

身体を捻らせどうにかこうにか抜け出したKーは、頭についた砂を払い落としながらそう呟いた。何がどうしてこうなったのか良く理解は出来ないが、取り敢えずギ音の追求から逃れる事は出来た・・・しかし肝心の事を聞きそびれたのもまた事実であった。

『あああああ〜〜〜!気にっなるぅぅぅぅ!?』

そう言いながら身悶えるKーの背後から、黒い影が近付き・・・その肩を強く掴んだ。

『きぃやぁぁぁぁぁ――――!?』

布を裂くような悲鳴を上げ、Kーは頭を抱えながら地面にへたり込んだ。

『ごみんなさい、ごみんなさいぃ!』

『け・・・Kーさん?どうしたのカナ、カナ?』

『へ?』

驚くKーの耳に聞こえてきたのは、友人の一人である96の声だった。96はKーの慌て振りに目を丸くしている。それを見たKーは一気に恥ずかしくなり、顔が赤くなっていくのを感じた。

『あ、ちょっ、こ、こりは〜〜〜・・あ、お祭り!お祭りの練習でありますよ!?ほら、神に祈りを捧げるっつーか・・・あは、あははははは・・・・』

・・・・我ながらなかり苦しいとKーは思った。
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