kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「I do what I do」(さる作)
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私が彼と出会ったのは、まだ春も浅い霧雨の降る夜だった。その当時の私は、毎日を何となく過ごすだけの目的も意欲も無い唯の若い女だった。そこそこ勉強も出来たし、それなりに身なりも整えていたので人からは“礼儀正しい綺麗な女性”と評価をされていたが、そんな物は上辺だけで中身はかなり嫌な女だったと思う。FBIに入った理由だって“自分より下の人間に関わりたくない”と言う物だったのだから、どうしようもない、むしろ今思えば馬鹿の極みだなと自分で笑える事だ・・・そんな“何となく”の私が入った新しい世界は毎日が事件と書類との戦いで、連日の徹夜作業に妙な快感すら感じてくる・・だけど私はそんな自分に安堵感を持っていた。何故なのかは今考えても良く分からないが寂しかったのかも知れない・・昔からそうだが家族に対しても恋人や友人に対しても何処か一歩引いてしまう・・何処か冷めた目で見てしまう自分が居る。何事も外見で決め付けられる事が多かったせいかも知れない・・現に今も女性の少ない部署のせいもあってかお誘いは毎日の様に有るし、セクハラも少なからず有った。その理由が“連れて歩くには良い女”“一度寝たい女”・・気に入らない、私と言う中身は何処にあるのか!と良く考えた。お誘いは、差し障り無い程度の言葉と笑顔でさらりとやり過ごしセクハラに関しては相手にほんの少し痛い目を見せれば良い事だったので特に問題にはしなかったが“アイスドール”と呼ばれる様になった。別に気にもしなかった。事件だけが私を感じさせてくれる・・そう、思い込んでいた。そんな感情を見せない私が見込まれたのか、蔑まれたのか・・とある機関からの依頼である少年と接触し暫くの間共に過ごす事を命じられた。護衛を兼ねた教育という訳らしいから、かなり将来有望な人材なのだろうと考えた。この私を刺激してくれる人物だと良いのだけれど・・・心の何処かがそう期待した。待ち合わせは街角に在る静かなBarの中、マルガリータを注文して待っていろと言う指示だった。時間は午後六時・・まだ時間に余裕があったし少し身の回りの物を持って行きたいので私は一度家に帰る事にした。部屋を出る時に同僚のヘレンが心配そうにやって来てこう囁いた。

「ナオミ・・こんな仕事受けて大丈夫なの?」

「何が?唯のお守りでしょう。」

「どうやらそれだけじゃ無いみたいなのよ・・其の子なんだけど世界的に有名な“L"らしいのよ。」

「“L”?探偵の?まさか!そんなわけ無いじゃない・・その人はかなり年寄りだって聞いたわよ?」

「・・私もそう聞いてるわ。でも、部長達の話し方からすると・・・もしかして後継者なのかも・・どうしてもFBIで独占したい人材だからどんな手を使っても手に入れなければならないって・・。」

「あの狸親父共の言いそうな事ね。良いわ、どんな人物か興味も有るし退屈凌ぎに相手して来るわよ。」

笑い飛ばす私に彼女は言い辛そうに付け加えた。

「・・あの、あのね・・其の為には身体でも使わせるかって・・笑いながら言ってたから本気かどうか分からないけど・・・」

一瞬、私の周りの空気が凍った様に張り詰めた。“あぁ又か・・自分のケツの穴でも差し出せば良いのに・・くそ親父共め”そう考えたが、それならそれで相手が気の毒だなと思い笑ってしまった。同性に嫌われがちな私を本気で心配しているヘレン・・・女性らしい優しくて可愛い人。この役を任命されるのが彼女でなくて本当に良かったと思う。私は不安げに見つめる彼女に笑いながらこう言った。

「大丈夫よ。其処まで飢えてないし、相手だって選ぶ権利を持ってるわ。大体にしてそんな無粋な奴が後継者だったら“L”って人も大した事ないわよ。私が留守の間、家の猫の世話を頼むわね。」

ヘレンはまだ少し不安そうだったが、笑顔を返し頷いてくれた。私は彼女に別れを告げ、家へと向かった。夕暮れ間近の中一人車を飛ばしていると先刻の言葉がふと頭の中に甦る・・“身体を使ってでも・・”其処までして手に入れたい人物とは・・?本当に其の価値が有るのだろうか・・?この私のプライドよりも?怒りとも悲しみとも言い難い感情が私を支配するのが分かる・・・良いわ、其の価値が有るのかどうか判断してやる。もし其の価値が無いと判断したら・・・楽しみだわ。家に着き、急いで中に入ると帰りの早い主人に驚く猫が大きな瞳を此方に向けている。私は軽く手を振り、大きめのショルダーバックに必要最低限の物を投げ入れて行く。必要も無いだろうが銃の準備もしておこう・・・後は・・・大事な事をする前のセレモニーをして行こう。冷静さを取り戻す為に・・・。纏めた荷物をソファーの上に投げ置き、バスルームに向かった。
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