kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「I do what I do」(さる作)
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「驚かれるのも無理はありませんが、そう露骨にされるのは少し不愉快ですね・・・ともかく一週間程ですが宜しくお願いします。」

「・・?一週間・・!?」

「何も聞かされていないんですか?」

どうやら、私の知らない所で何か約束事が行われたらしい・・・落ち着け・・冷静になれ。

「・・ええ、私に命令されたのは貴方と共に暫く過ごす事、貴方を私達の組織に勧誘する事・・其れだけです。」

・・・上手く答えられただろうか?彼は暫く無言だったが軽い溜息をついた後呆れた様にこう返して来た。

「信用されていないのか・・又は言わずとも理解してると思ってるのか・・・どちらにしても貴女の上司はマヌケですね。・・まぁ、良いでしょう。滞在先に着いたらご説明します。其れまでドライブでも楽しんでいて下さい。私は目を通したい書類が有るので放って置いて下さい・・・」

それだけ言うと彼は書類の中に入り込んでしまった。素晴らしい集中力だが、一方的に話を切られ少し腹が立った。しかし、上司がマヌケと言う言葉で解消できる位の事だったので其の件に関しては良しとしよう。暫くの間紙が刷れる音しかしない時間が過ぎていった。窓の外を見るのも飽きた私はそっとバックミラーで後ろを覗き見た。彼は、手元をペンライトで照らしながら書類を見ているようで其の小さな明かりがほんのりと彼の顔も暗闇の中から浮かび上がらせていた。黒髪の色の白い・・唇の紅い品の良い顔立ち・・どう見ても17〜18才位の少年だった。私はワタリの方に顔を向けた。ダークブラウンの髪に所々白い物が混じり掛けている・・やはり品の良さそうな感じがするが、此方はかなりの実戦経験が有る様に感じる。隙が見えないのだ・・・。

「見とれる程良い男ですかな?」

唇の端だけ微笑ませながらワタリがそう言った。一瞬目が丸くなったが彼なりの気遣いなのだろうと思う事にし、其の侭話を続ける事にした。

「・・!えぇ・・見とれる程隙が無くていらっしゃるのでマヌケな上司よりは興味がありますわ・・それよりも話をしても大丈夫なのかしら?彼の邪魔になるのでは・・?」

「“L”のですか?其れならご心配には及びません。彼は私といらっしゃる時は安心して集中されていますので、彼自身が気を向けない内は私達の話等耳に届きませんから。」

確かに彼は私達の存在自体忘れているかの様に身動き一つ取らなかった。しかし、其処まで安心できる存在が居るのに何故・・?

「・・私は何故貴方方と共に過ごす事を命令されたのでしょう・・?貴方が今言われた通り、彼は貴方と居る事で他の事も目に入らない位集中出来る程安心するならば私の存在等意味の無い物なのでは?」

ワタリはほんの少しの沈黙の後、こう言った。

「世の中には意味の無い存在等無いのです。私が貴女様をお呼び致したのはキチンとした理由も御座います。まず、今回の接触は“L”の教育及び組織力の向上、そして“L”の休暇も兼ねています。しかし、御存知の通り“L”の存在を暴こうとする物や拉致しようとする者等多いものですから一芝居打てる方をと協力を申し出ました所、貴女様を紹介された訳で御座います。」

「一芝居?」

「はい、今から向かう先は家族三人でリゾート・・と言う設定で予約してありますので・・そうですね・・差し詰め“L”の姉・・という事に・・」

「・・・それ自体が目を眩ます為の芝居なのでは・・?」

直感だった。何か違和感が有る・・そう感じた。ほんの少しの間の後、ワタリはバックミラー越しに私を見据えこう言った。

「・・・本当に着て頂けたのが貴女様で良かったです」

柔らかな口調とは裏腹に彼の顔からは、その表情は硬かった。今、詳しくは言えないので取り合えず滞在先に着いたら詳しく説明をする、スピードを上げるので運転に集中させて欲しいと言い彼は其の侭押し黙った。車は速度を上げ、通り過ぎる街の灯りが光のラインに変わる程のスピードを出していたが特に恐怖は感じなかった。それは次々起こる展開に感覚が麻痺してしまったからか・・それとも、後部座席で何を気にする事も無く書類から片時も目を離さない少年が気に掛かっていたからか・・・?どちらにせよ、答えが出るのはまだまだ先だろう・・そう思った。滞在場所に到着したのは其れから30分後だった。街外れの海に面した落ち着いた感じのホテルで、特に目立った場所に有る訳でも無いのに上品そうな客が絶え間なく出入りしている。恐らくは老舗の、口コミでしか知られていない隠れ屋的な・・・“L”が滞在するには理想通りの場所なのだと感じた。ワタリがチェックインの手続きをしにフロントへと向かう。私は“L”の後ろに添う様に立ち周りを警戒しながらロビーへと移動を始めた。
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