kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「終着駅」(さる作)
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恥ずかしいのと格好の悪さにジタバタしていると彼が優しい笑みを浮かべながらこう言った。

「お、起きたね?どうだい、少しは気が晴れたかい?私の留守の間に大人達が随分と酷い事をしていた様だがもう安心して良いよ・・悪い大人は皆懲らしめて置いたからね。私はL、君は私の後継者として此処に来た筈なんだが、君は研究熱心な愚か者共の知的好奇心を満足させるに相応しい頭脳をお持ちの様だね。危うくモルモットとして色々される所だったよ・・・私は以前から此処の在り方に疑問を抱いていたんだ・・才能ある子供を集め、科学的に分析、その才能を伸ばす等研究者の戯言に過ぎない。子供は自然に生き、その中で必要な知識を与えて行き、才能を伸ばす事が一番大切だ・・今後は、私と私の仲間達が君達を教育して行くよ・・もう辛い事は無いんだよ・・・」

彼の声は低く、甘く響く最上の音楽の様で私を心から安心させた。その心地よさに再び眠りへと私を誘う。

「・・良い子だ、もう少しお休み。愛しているよ・・私の可愛い息子・・」

小さく、しかしはっきりと彼はそう言った・・・。その後、ハウスは以前の病院の様な陰気臭さからは抜け出したものの私の部屋の中身が何か変わった訳では無かった・・いや、変えられ無かったのだ・・私を子供に戻すには少し遅かったのだ。思えば頭痛の発作もこの頃からだった様な気がする。私の脳の成長を止める術はもう、何処にも無かったのだ。彼がその事実を知った時の悲しみと後悔の念は、彼の心を酷く痛めつけていた・・・“もっと早く救えたなら・・”囁く様に言う彼に私は、こう言った。

「遅くは有りません・・・あのままで居たなら狂うか廃人になっていたかも知れない私を救ってくれたには“L”貴方なのですから・・・私は貴方に出会えて良かった・・貴方の為に役立つ人間になりたいんです。」

彼は其の言葉を悲しそうな微笑を浮かべながら聞いていた。そして静かに、優しく私を抱きしめた・・・。其れから日々は静かで、空を眺める時間も外を自由に歩く時間も与えられたが、私は出来得る限りの時間を彼の元で過ごした。一緒に居たかった、彼と同じ空間で同じ空気を吸い目を上げれば彼が優しく微笑む・・そんな時間がとても好きだった・・彼が倒れるまでは
・・・。彼は、病に侵されていたのだ・・・進行性の悪性癌・・・もう、手の施しようが無い。医者たちは口を揃えてこう言った。信じられなかった。信じたくなかった・・折角手に入れた優しい時間を失いたくなかった・・・しかし、無常にも時は刻々と過ぎて行き大きな優しい手は、やせ細っていった。怖かった。死に向かう人間を目の当たりにした私の脳は止まる事の無い思考の螺旋にと落ちていった。今、この時目の前で眠っている人間が、何時か其の眼を永遠に閉じやがては腐り果てる存在になる・・・私のこの身体も・・其の考えに囚われ、外に行くことも眠る事も出来ない日々が続いた。何より一人に戻る事が怖かった・・・ワタリと出会ったのは丁度この頃だったな・・。彼が私の為に選んでくれた大切な人間・・・。もしも、私に家族と呼べる者が居るならば、それは彼とワタリだけだろう・・母の顔は、もう思い出せない。

・・・その事を思い出すと、この目の前に居る綺麗な顔の青年は、幸せな家族の中で幸せな生活をしていて、その子供の様な笑顔の下で“キラ”としての生活をしているのが憎くくもあり、羨ましくもあった。彼は自分のしている事に対し一片の揺るぎも無いのは、恐らくはそうする事によって自分も家族も守られると信・6ているから・・しかし、それと同時に何かを捨て人ではない“何か”になろうとしている・・家族をも犠牲にして・・・。憎くて、そして何て自由なこの天使は、何処まで行くのだろう・・・?

「?・・如何した竜崎、人の顔をじっと見つめて?」

其の美しい唇で私の名を呼ぶのは支配する為か?・・それとも・・・?どちらにせよ私はこの者に魅せられてしまっているのだ・・。狩人はどちらなのか・・・彼を手に入れる事が私の望みであり、私と言う人間の終着駅と成り得るのは確かな事だ・・家族を知らない私と家族を裏切るお前。美しく激しいお前の燃える様な瞳を私だけの物にしたい・・・正義が悪に惹かれているのか・・?私が彼に惹かれているのか・・?その答えを見つける為ならどんな無理も通そう・・お前のその裏切りも、嘘も見ない振りをしよう・・“キラ”お前を手に入れる為に・・・。
     《完》
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