kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「木蓮の涙」(さる作)
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「・・・左右で高さの違う靴と足音、僅かに右に膨らんだ上着、微かに香る火薬の匂い、瞬時に状況把握をしようとする視線、隙の無い動き・・・一線で働いていた方ですか?・・・私は“L”・・・そう聞いた筈ですが・・・?」

驚きました。確かに最近まで一線にいましたし、腰に負傷して僅かに左足を引きずっていました。しかし、今日会ったばかりの貴方にそれを見破られ思わず自分で自分の匂いを嗅いでしまったものです。先代は笑いながら貴方を抱き上げ私の方に近づいてきました。

「おやおや、早速判ってしまったのかい?紹介する楽しみが無くなってしまったよ・・・。それとキルシュ・・・此処に武器は持ち込むなと言って置いた筈だが?私は忘れる奴と不注意な奴は大嫌いなんだ・・・今回は目を瞑るが次は気を付け給え・・・」

恐ろしい目でした。私は其の目に圧倒され“はい”と答えるのが精一杯でした。あんな目をされたのは後にも先にも其の時だけでしたが・・・貴方は先代にしがみ付き横目で私を見ていましたね。そして、そっと手を差し出し照れくさそうに言いましたね。

「・・・此れから世話になる・・・宜しく・・キルシュ・・」

私は其の差し出された小さな手をそっと握り返し、出来るだけ優しく笑いながら“此方こそ宜しく”とお返事した時の貴方の微かな、可愛らしい笑顔を今でも覚えています。

「では、今日はこの位にしておこう・・・さあ、良い子だね・・・私はまた後で来て上げるよ」

先代はそう言うと貴方をベッドの上に降ろし頭を2.3度撫でられ私と共に部屋を出て行きました。部屋出て応接室に戻ると直ぐに先代は私に言われました。

「此処は子供が多い、君には当たり前の事なのだろうがホンの一瞬の油断が取り返しの付かない事故に結び付くんだ・・・不用意に武器など持ち込むな。それと、あの子似会う時は一人で、なるべくラフなスタイルで絵本は良いが雑誌や新聞は持ち込むな。・・・君は此れからあの子と一生涯付き合うんだ。此れまで以上に気を使え。そして慣れろ。良いな・・・?部屋を用意させた。此処を離れるまでの数日で、あの子を理解するんだ。・・・以上だ。お休み、キルシュ」

有無を言わせぬ命令でした。そして私は従うしか無かったのです。私に用意された部屋は貴方の部屋の隣でしたが、貴方の居た部屋とは違い、明るくTVや書籍等も置かれていて内心ほっとしました。ネクタイを緩めベッドに横たわりながら貴方の事を思い出して、考えていました。確かに瞬時に観察、推理する能力は2代目“L”に相応しいと,しかし、それは同時に貴方の心に何を見せて何を感じさせているのだろうかと・・・。子供を持った事など無い私でしたが、あの時の弱々しく握り返してきた貴方の小さな手がそう考える事が今の、そして此れからの私に必要で正しい事だと思えたのです。そして、それが正しい考えであったと認識する出来事が起きたのを貴方は覚えていらっしゃるでしょうか・・・?眠りについてどれ位足ったのか、私はほんの小さな物音で目を覚ましたのです。辺りはまだ暗く時計は真夜中を指していました。ベッド脇にあるライトに手を伸ばし、明かりを付け辺りを見回しましたが何も在りません。窓の外は風が強く木々が揺れていました。

「木擦れの音か・・?」

そう囁いた時、ふと貴方の顔を思い出したのです。何気なく貴方の部屋の方に耳をやると微かにすすり泣く様な声が聞こえて来ました。私は、今夜の音は子供にはやはり怖いのだろうと思い、ベッドを離れ、貴方の居る部屋へと向かったのです。廊下に出ると足元を照らすライトが点々と暗闇に浮かんでいました。大きな窓の外に浮かぶ月は流されてゆく雲に見え隠れしながらその柔らかな光で貴方の部屋のドアを照らします。私は何の躊躇も無くドアを開けました。暗闇の中で貴方の姿は何処にも無く、開いている窓から風が音を立てながらカーテンをゆらゆらと揺らしています。私は慌てて窓に駆け寄り、階下に目をやりました。しかし、此処は二階。子供が降りれる高さでは在りません。私は窓を閉め、一音も逃すまいと耳に神経を集中させました。目を瞑り、気配を探りその小さな悲鳴を聞き逃すまいと・・・すると微かに、だけどはっきりと貴方の鳴き声が聞こえました。私は、その音を聞き逃すまいとゆっくりと、部屋を見回しました。そして、ベッドの下に逃げ込む様に潜り込んでいる貴方を見つけたのです。小さな体を更に小さくして丸まっていた貴方は私を見て大層驚かれていましたね・・・。

「こんな所にいらしたんですね?如何したんですか?風の音が怖くて眠れないのですか?」

地面に這い蹲る様な格好で貴方に話しかけると、貴方は怯え切った子猫の様に震える声でこう答えました。
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