kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「木蓮の涙」(さる作)
3ページ/4ページ

「・・・眠れないのは何時もの事だ・・キルシュこそどうして此処に居る・・見知らぬ土地で寝付けないのか・・?」

強がるようにそう言い放つ貴方の手は微かに震えていて、私は、少しでも其れを止めて差し上げたくておどけて見せました。

「・・ハイ、実はそうなんです・・それで、貴方が起きていらしたら話し相手になって頂こうかと思いまして・・そうしたら貴方はこの様な所にお隠れになって私を驚かせますし・・如何か此方に出て来て私の話し相手になっていただけませんか?この体勢は結構腰に来ます・・。」

月明かりの中、困った様に笑い掛ける私の様子に、くすりと笑い、パジャマの袖で顔をこすりながらごそごそと出て来た貴方は、私の目の前にちょこんと座りましたね。私は、貴方を抱き上げようとして手を伸ばしたましたが、貴方は手を払いのけこう言われました。

「!?・・すまない・・私は他人の体温が苦手なんだ・・あの方以外に触れられた事も無いし・・」

私は困ってしまいました、貴方を抱きしめて安心させて上げたいのに其れが出来ないのですから・・しかし、すぐいい手を思い付いたのです。私は、ベッドの上にある毛布を自分に引き寄せ、自分の胸から膝の上にかけて大きく広げて置きこう言いました。

「・・解りました・・ではこうしましょう。こうすれば私の体温は伝わりにくいし、貴方がゆったりとお座りになれます。大きな熊のぬいぐるみとでも思って下さい。」

貴方は暫し考えると、そっと膝の上に座り居心地の良い様に毛布を直し始めました。時折、私の顔を探るように覗き込んで来ます。その様子を見て、出来るだけ優しく微笑みかけ、“大丈夫、心配しないで下さい”と言う仕草をしてみました。其れを見て、無言のまま下を向きまた直し始める貴方・・とりあえず第一関門は突破だなと安堵する私。暫くして直すのを止め、落ち着いて座ったのを見計らって、私は声を掛けました。

「・・お聞きして宜しいですか?」

「?・・何だ?」

「さっきは本当に私を脅かそうと思ってあの様な所に入って居られたのですか?」

貴方は戸惑いながらも、何かを話そうとします。一瞬の沈黙・・・そして一度爪を強く噛むと貴方はゆっくりと話し始めました。

「・・・私は夜眠るのが怖いんだ・・昼間は、そうならないのに夜になると“死”と“眠り”が同じ物の様に感じ、一度目を閉じるとこのまま永遠に閉じたままになってしまいそうで怖いんだ・・」

「・・私より遥かにお若いのにもうその様な事をお考えなので・・・?」

「キルシュは考えた事は無いのか?今、感じてる音や見えている景色、そして自分の手が何時か消えてしまうと言う事を・・・その時、自分は何処に行くのか。其の存在は本当に在るのか。此れこそがリアルな夢で私と言う人間は本当は存在していないのではないか・・。そう考えてしまう・・・大人になりたくない。大人になると死んでしまうから・・・大人になりたくないんだ・・。しかし、あの方や皆は私が後を継いで立派にやり遂げる事を望んでいる・・・」

其処まで話されると貴方は苦しそうに肩で息をし始めました。噛んでいた爪は血が流れ始めています。私は毛布に包まれている腕にそっと力を入れ自分の胸に貴方を引き寄せました。驚かれた貴方は噛んでた指を離します。

「・・・毛布越しですが聞こえますか?・・私の心臓の音が・・・私は大人です。危険な任務も沢山してきました。実際重症も負いました。しかし、私のこうして動いています。何故だと思いますか?」

「お前が生き残る術を知っていたからだろう?」

「貴方とこうして出会う為です。」

その時の貴方の驚いた顔はこの先一生私にしか見れない物でしょうね・・・。私は、貴方の大きな瞳を見つめながらこう続けました。

「人は、人生の中で大切な人と出会う為に生きています。それは一人かも知れないし、大勢かも知れません。・・・私も今までに何人もの仲間と出会って来ました。しかし、私が求めるべき人だと思えたのは“L”、貴方以外居ませんでした。この先、私を貴方の御傍に置いて頂けますか?」

その時、貴方はようやく子供らしい顔で、黒い瞳から大粒の涙を一つこぼしながら答えてくださいましたね。

「・・・傍に居てくれるの・・・?」

私は、大きく頷き誓いました。木蓮の花が咲き乱れるあの季節に・・・。それから、夜が明けるまで二人で沢山のお話をしましたね。そして、貴方が腕の中で眠るのを待って、貴方に触れない様毛布に包んだままそっとベッドに置きました。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ