kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「二十三夜・3」(さる作)
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剥れる奴にキスをして、裸のままでバスルームに向かう。明かりを点けドアを勢い良く開けると一瞬目が眩んだ。思わず目を閉じると何処からとも無く声が聞こえて来た。(・・・イイノカコノママデ・・オマエハカミニナルンダロウ?)嘲る様な、苛む様な声にギョッとし辺りを見回すが誰も居ない・・・掌にじっとりと汗を掻いているのが判る。如何かしている・・此処は竜崎のプライベート・ルームだ。二人以外の誰が居るって言うんだ・・?蛇口を捻ると勢い良くお湯が出てくる。奴はぬる目が好きだから水をもう少し出そう・・・ふと目線を上げると鏡の中に自分が映っていて、首や胸元にはキスマークが彼方此方にあり、背中や腕には奴の爪あとが生々しく残っている。其れをそっと指でなぞり、行為を思い出す。罪深くも艶かしい情事・・。毛穴が開くような快感が蘇る。湯気で鏡が曇り、白い闇となる頃蛇口を閉じ、奴を迎えに部屋へと戻った。薄明かりの中、近づいて行くと奴はシーツに包まったまま寝息を立てている・・・疲れさせ過ぎたのか、それとも最近キラの足取りが消え、寝る間も惜しんだ捜査が行き詰まって居るからか有り得ない位熟睡していた。・・仕方ないな・・そう思い、そっと毛布を掛け、優しく髪を撫でる。柔らかい癖の有る黒髪がサラサラと手をすり抜けて行く。・・・少し前までは人を小馬鹿にした何とも勘に障る奴だと思っていたが、今は例え様の無い気持ちで苦しくなる。ワタリからあの話を聞いたから同情したのかも知れない。逆に優越感や安心感を得たのかも知れない・・・しかし、今のこの気持ちは・・・罪悪感・・・達成感・・・そのどれとも違う・・・狂おしい気持ち。肌を重ねる度に強くなる・・時が止まれば良いのにと願うほど自分の欲望も又、首を擡げる。神となりこの世から一切の悪を無くす事、その為に邪魔になる総ての者を排除せよと・・・。今まで消えた者達に比べ、此れから制裁を加える者達は全て新世界創立の為の物、即ちサクリファイスなのだ。その事に例外は無い。必要ならば家族さえも其の対象だと思っている。なのに、何故目の前で寝息を立てている最大の障害を一気に葬ってしまわないのか・・・奴の名を知る事が出来なくても、都合の良い犯罪者の名と死に様をノートに書く時に奴と格闘の末殺害して自殺・・・最悪でも重症を負わす事でも出来たらと、出来もしない甘い考えを持つ自分が許せない、殺してしまいたい!自分を?奴を?・・・疲れた・・・。起こさぬ様にそっと横になり目を閉じる。開けっ放しのバスルームのドアから湯気が流れて来るのを感じ、身体の中心がベッドに沈んでいく様な感覚の中に落ちて行く。(コロシテヤロウカ?・・・コンナヤツカンタンダゼ?)奴の横で転寝し始めた僕の耳に聞こえて来るこの声は誰の声・・?自分の本当の心?其れとも待ち切れない死神の・・・?寝苦しさに横を向けば、奴の甘い髪の香りが鼻を擽り、優しい気持ちになって行く。此の侭でいたいと本気で思った。
・・・明くる日の朝、目を覚ますと奴は隣に居なかった。時計を見ると9時を回っていて、結構眠れた事を実感する。捜査本部にも人が集まり始めている頃だろう。部屋の中を見回すと、バスルームからシャワーの音が聞こえて来る。ベッドから起き出し音の方へと歩きドアを開ける。湯気で曇った鏡がホンの少し姿を現し、奴を映し出す。黒髪が濡れて怪しく光り、其の白い身体はほんのりと上気している。所々に浮かんでいる赤い花びらは夕べの名残だ・・・身体をなぞる様に流れ落ちて行くのをじっと見つめていたら、突然奴が声を掛けて来た。

「ライト君も如何ですか?気持ち良いですよ。」

何時の間にか此方に振り返りじっと見ている奴は妙に艶かしく、淫欲を刺激してくる。加えて夕べの余韻が頭の隅から顔を出し、又味わうべきだと唆す。奴はまるで麻薬の様だ。少しの間の後、奴が濡れたまま近寄って来たと思うといきなりキスをしてきた。奴の濡れた身体が自分の汗ばんだ身体に触れる。奴の心臓の音が肌からダイレクトに伝わって来るのを感じ、其の鼓動がゆっくりと重なってゆくのを感じた。共に生きていると思った。(チガウダロウ・・・コノコドウヲトメルヨロコビヲカンジテイルノサ・・・イイカゲンミトメロヨ オマエガアイトヨブキョウキヲサ)あの囁き声が頭を過ぎり、目を開く。奴の顔越しに鏡が見える。其処に写し出された物は奴の白い背中と其れを見ている自分・・・其の時、目の端に不気味に長く伸びた黒い指が鏡を指し、囁く。(チガウダロウ、キョゾウヲミルナ・・シンジツヲミロヨ・・アレガオマエサ)

「!!」

其処に写し出されていた物・・・其れは、背に白と黒の翼を背にし不敵に微笑む自分、そして其の腕の中には血の気を失い、その胸には僕の手により突き立てた
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