kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「モ-ニングム-ン・2」(さる作)
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「お待たせ致しました。こちらのCD-Rを局長殿に御渡し下さいませ。次の指示と資料が入っています。」

「判りました。他に何か伝言などは有りますか?無ければこれで失礼をしたいのですが・・・」

一瞬の間、そして次の瞬間彼の鋭い眼光がこちらを見据える。

「・・少し、私めとお話して下さいませんか?」

始めから断らせる気など無いくせに・・・良いだろう受けて立ってやる。いつものように、しかし少し驚いた様に答えた。

「え、ええ、良いですけど・・・」

ワタリは、表情ひとつ変えずしかし威圧的な声で言う

「有難う御座います。では、そちらにお掛けになってお待ち下さい。只今、お茶をお入れいたします。」

「あ、有難う御座います。」

ワタリは、足早に続き部屋へと消えて行った。その後ろ姿を見送り、今度は深く椅子に腰掛ける。奴の指示なのかそうでないのか、何れにせよ絶対に尻尾など掴ませてやるものか・・・。ふと、目の前にあるパソコン画面に目をやると、いつものアルファベットの文字がその存在を主張している。いつ何時、奴がここを通して語り始めるのか・・いや、逆にこちらの話を一言一句逃すまいと聞いているか判らない。油断は禁物だ。そうこうしているうちに、奥の方から良い匂いと共にワタリが戻ってきた。品の良いカップとポット、この香りはセイロンだろうか・・?彼は、テーブルの上のパソコンを少しずらす。そして、慣れた手つきでティーセットを下ろし、砂時計を横に沿える。彼は何年もの間、奴の為だけにこの動作を繰り返してきたのだろう。まったく無駄が無い。

「失礼致します。」

そう言うと、彼はやや浅めに椅子に腰掛けた。そしてこちらでは無く、砂時計を見ながらゆっくりと語り始めた。

「・・砂が落ちて行きますね・・何か欠陥があったとしてももう、この砂は戻ることが出来ません。」

「え?」

意外な話の切り出し方に、思わず声が出てしまった。しかし、気に留める事も無く、彼は語り続ける。

「人の人生をこの砂に例えるならば、この砂が下へと流れ終わればそれで終わり・・死を迎える訳です。例え逆さにしてまた流れ始めても、それは、私の知る者では無い・・・。」

そこまで語ると、彼は目線をこちらに上げた。その目に思わずギョッとした。憎しみとも、怒りとも取れる今まで見せた事の無い物だった。

「・・何を言いたいのか判りません・・。」

そう言うと、同時に砂が最後の一粒を下へと流れ落とした。しばし、双方共無言のまま向き合っていた。ワタリはカップにお茶を注ぎ、次の言葉を捜している様だった。話の意図が見えないまま進められても困ると思い、先に話し掛けて様子を伺う事にした。

「今日は、皆さんの姿が見えませんが何か進展でもあってそちらにでも出向いているんですか?」

その言葉と同時に、彼の周りの空気が変わった様に感じた・・これは・・殺気・・?何故!?

「・・竜崎は・・」

驚いたのも束の間で、次に彼が語り始めた時にはもういつもの彼に戻っていた。

「竜崎は、今まで物や人に執着を持ったことが有りませんでした。小さい頃から面倒を見てきた私だけを除いて触られたり、必要以上に話したりするのを嫌っていたのはキチンとした理由が合っての事です・・・貴方もご存知の通り、彼の推理力や洞察力は人並み以上に優れています。言動、行動、視線、癖等全てを理解し、その情報を蓄積します。」

「ええ、彼には何度も驚かされていますし、その能力は尊敬に値すると思います・・・それに何か問題が?」

彼は、一口紅茶を啜り溜息をついた。

「問題・・ですか?・・それに答える前に確認しておきたい事が御座います。貴方様は、竜崎の事をどう思っていらっしゃいますか?」

突然の質問が自分に投げかけられた。胸がドキリと音を立てる。

「どうって・・友達だと思っていますし・・憧れの‘L'と居られて幸福だと感じていますが・・?」

そつ無い答えだと思ったが、彼にとってはお気に召さない答えだった様だ。冷静さを保っているが拳が白くなるほど強く握り締めている。何事にも表情を崩さず至って動じない彼が何故こんなにも露に乱れるのか?彼と‘L'の繋がりがそうさせるのか・・・?気持ちを落ち着けるかのように深く息をし、再び語りだした彼の言葉は思い掛けない物だった。

「・・竜崎は今、自分以外にとても大切な物ができてしまったのです。しかし、その気持ちは彼にとって致命傷を負わせる物と成るでしょう。」

「! 何故そんな事に?別に普通の人間なら当たり前の事では?」

「・・普通の人ならば・・そう、何の問題も有りません。しかし、彼は‘L'です。」
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