kira事件、特別捜査本部・二千五◯一号室


□「十六夜・1」(さる作)
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そこまで言うと、すっと立ち上がり割れたカップをテーブルの上に置いた。
そして、真直ぐな瞳でこう言った。

「私は貴方に対してならそう言う感情が沸き上がのだと・・・」

声が出なかった。驚きと憤りと、ほんの少しの胸の高鳴り・・・?何故!?
奴は、ゆっくりと近付いて来る。思わず後退りし窓辺に追い詰められた形になった

「・・近寄るな・・」

そう言うのが精一杯だった掌にじっとりと汗が滲み出ているのが分かる。

「恐がらないで下さい。嫌がる人を強引に―と言うのは私の趣味はありませんから安心して下さい。」

心を見透かしたかの様な物言いに、思わず殴ろうと振りかざした手を奴は流れる様に躱し、強く握り締めた。奴の顔を見ると、ただ黙ったままこちらを見つめている。至近距離で見つめ合う様な形のまま互いが目を逸らそうとしなかった。いや、逸らせなかった・・・奴の深い暗褐色の瞳がとても綺麗で目が離せなかった・・・綺麗?何を考えているんだ!?
奴は混乱している様子を見て、クスリと微笑し取った手を自分の唇へと引き寄せる。冷たく柔らかな唇が指先に触れた。首筋の辺りがゾクリと震えた。

「・・・うん、やはり貴方にはそう言う感情が沸き上がって来る・・・何故でしょうか・・?」

「そんな事解るわけないだろ・・・離せ!」

そう答えるだけで精一杯だった。奴はふと目を伏せ、こう続けた。

「・・・そうですね。自分でも理解出来ない感情を貴方に聞く方が可笑しいですね・・・貴方があまりにも可愛いのでわざと聞いてしまったのかもしれません」

か、可愛いだと・・・!?
何を言っているんだ、本当に!!・・・そう思っているにも関わらず顔が熱くなってくるのを感じた。頭に血が昇って熱いのか?それとも・・・もう、自分でも良く解らなくなってきた。ただ鼓動だけが激しい。何故・・・!?奴が視線を上げる

「戸惑っているんですね?それは私も同じです。今までに何人かの人々とお付き合いして来ました。色々な意味でね・・・しかし、此れ程胸が高鳴るのを感じた事はありませんよ・・・お茶を飲む貴方の横顔はとてもなだらかで、綺麗で・・・エロティックでしたよ」
その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、奴は中指を舐め軽く咬んだ。冷たく滑らかな舌が唇の柔らかな感触と共に痺れるような感覚を身体の中心に運んでいく。胸が熱くなり、泣きたくなる様な感覚に捕わて行く。爪の先に感じる甘い痛みに身体が震えるのは奴の暗褐色の瞳が何かを求める様に覗き込んでいるからじゃ無い・・そんなに無垢な瞳で見つめるな・・・
「!!・・・いい加減にしてくれ!」

思い切り腕を振りほどいた。が、あまりにも強く振ったせいか思わずよろめいて転びそうになる。
“やばい”とテーブルに手を付こうとした時だった。
「あぶない!」

奴が身体とテーブルの間に入り身体を支えた。

「此処に手を付こうとしては駄目ですよ。さっき、割れた破片を置いたのを忘れたんですか・・・?」

そう言いながら窓辺に身体を押し戻す、そして自分の身体をゆっくりとテーブルから離そうとした時その白い手からスーッと紅い血が流れだした。奴はたじろぎもせず傷口から流れ出る血を見ながら苦笑し、こう言った。

「一応人間だった様ですね
・・・こうなるのが貴方で無くて本当に良かった。」
衝撃が走ったー。それは、いまだかつて自分が言った事も、ましてや思った事も無い言葉だった・・・悲しくて、悔しくて、切なかった・・・人として何かが足りない自分がいる、そう思った。

「何を馬鹿な事を・・・さぁ、手を見せてみろ!」

近づこうとした時、奴は静止し首を振った。

「大丈夫です。後はワタリの仕事ですから・・それに貴方が汚れてしまう・・」
奴はそれだけ言うと携帯を取出し、ワタリを呼び出した。そして、何事も無かったかの様に穏やかな微笑みでこう言った。

「さぁ、今日はもうお帰り下さい。もうじき陽も落ちます。この程度の傷なら大丈夫ですから・・・。」

何を言っているんだ?自分の事を庇って怪我をしたのに気にせず帰れだって!?
そんな事できる訳ないだろ自分が怪我したときより痛むのは何故?・・・責任感?だったらこの胸の痛みは何なんだ!?

「何を馬鹿な!さぁ、手を見せてみろ!!」
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