京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「ZANTEN - 残天 - 」(さる作)
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ワタリは部屋の外で全ての準備を整え、Lが来るのを待っていた。外へ出る時・・・ワタリが最も気を使う行動である。正体を知られている訳ではないが、“L”と言う名の持つ意味を知る者ならば選択は二つしかない。“欲する”か“死”だけだ。手に入れる事が出来れば最強の武器になるが、出来なければ最強の敵になる・・まして継いで間も無い子供の“L”の存在は、どんな人間が見ても容易いと思う事だろう・・・彼の中に眠る獅子に気付かず、其の身を堕とした者は少なくない。嘆かわしい事に、其の殆どが身内・・・つまり警察関係者なのだ。“L”の正体を知る僅かな上層部の人間が、一番腐っている事を身をもって知ったワタリは其れ以来Lを表に出さない様に努めた。L自身の希望でもあったし、何よりあらゆる危険から回避する為でもある。そんな事を考えながら最後の鞄の鍵を閉めた時、部屋のドアが開きLが大き目の封筒を片手に出て来た。

『ワタリ、出るぞ!行き先は分かっているな?』

『はい、L・・全て用意は整っております。』

『今回の件は時間が無い、何時もの様な手段では間に合わなくなるかも知れない危険性が有る。強硬手段で行くぞ。だが、正体を知られる事の無い様にフォローをしてくれ。』

ワタリは不敵に微笑みながら頭を垂れ、軽やかに答えた。

『お任せ下さいL・・貴方は何も気に為さらず何時もの様に自由に行動して下さい。』

Lも又無邪気な微笑を一つワタリに返し、勢い良くドアを開け外へと出て行った。目的地は遥か遠いK国・・・だがLは其の前に行く所が有ると、空港とは反対の方向に車を走らせる様ワタリに指示した。車を走らせる事2時間・・・其処は人間が住んでいる事が意外な程荒廃した建物だった。入り口のドアは壊れ、窓ガラスも割れている其の建物の中にLを待つ人物が居る。

『・・・間も無く彼が現れる。ワタリ、私は車内から変声機を使って彼と話をする。お前は外で待機し彼から“箱”を受け取ってくれ。』

チョコレートを頬張りながら言うLの言葉に従い、車から降り立ったワタリは“彼”と呼ばれる人物が現れるのを待った。ワタリは辺りに人の気配を探ったが、何も感じる事は無かった・・。辺りは林の梢が風に揺れる音だけが存在している。だが油断は禁物と腰に着けている拳銃のホルダーは開け、“彼”が現れるのを待った。一瞬・・・無音の空間がワタリを包み込み、再び梢が風に激しく煽られた時、廃墟の奥から“彼”が現れた。一見・・森の番人の様に見える其の大男は、其の容貌にそぐわない程の小さな箱を手に歩み寄って来た。“彼”はワタリの前まで歩み寄ると、癖のあるロシア語で話し掛けて来た。

【・・・お前が“依頼者”か?】

ワタリはゆっくりと首を振る。顔を顰める“彼”にLが話し掛けた。

【そいつは私のボディガードだ。私は車の中に居る。彼に依頼した“箱”を渡せ。】

変声機で声を変え、流暢なロシア語を話すLの言葉に訝しげにしながらも“箱”をワタリに手渡した。其の“箱”を指差しながら“彼”は重みのある声で言った。

【そいつの扱いには十分注意しろ・・報酬は何時もの様に振り込んでくれ。】

【分かった。W・・目的地に向かう、車を出せ。】

ワタリは“彼”から視線を外さずに一礼すると、“彼”は其れを鼻で笑い背中を向け廃墟の奥へと去って行った。其れを確認し、“箱”に視線を向けるワタリにLが言った。

『安心しろ。“彼”は此処に潜み続ける事を条件に、エラルド・コイルに協力している“ゴースト”だ。“彼”は誰の味方もしなければ、敵にも成らない。・・行くぞ。』

Lの言葉に促され乗り込むと、空港へと車を走らせた。Lの言う“ゴースト”を見るのはワタリは初めてだった。犯罪者故に祖国に戻る事が出来ず、他国に住む為に必要な全てを持たぬ者・・・先代が好んで集めた選りすぐりの技能を持つ異邦人・・其の“ゴースト”を使わなければ成らない状況にある事事体にある種の震えが走る。バックミラーを覗き込むと、Lは受け取った“箱”を手に取り嬉しそうに微笑んでいる。恐らくはあれが切り札として使われる“何か”なのだろうが今のワタリには其れが何なのか想像も付かないでいた。辺りは夕暮れ時を迎え、擦れ違う車にヘッドライトが灯る頃・・・Lを乗せた車は空港へと到着した。予め連絡し用意しておいた自家用ジェットでK国へと飛び立った。其の機内・・自動操縦に切り替えたワタリがLの元に行くと大人しく事件の概要を頭に叩き込んでいた。辺りにはチョコレートの包み紙が散乱している・・。

『L・・お腹が空いたのですか?でしたら直ぐにお食事をご用意致しますから・・』
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