京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「Long Version - J.I. - 」(さる作)
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アルル博士は導く様に手前からを奥へと動かした。一瞬・・怪訝そうな顔をしながらも其の手の導きに従い中へと入るガルルの前をゆっくりと歩いて行く。中は薄暗く・・重苦しい空気に包まれていた。博士は其の廊下を奥へと向かいながら話をし始めた。

『・・此処は大切な研究施設でね・・中に入れるのは5人のスタッフと私・・それと娘だけなんですよ・・今回貴方に護衛を頼んだのは、私の特別な研究結果と“協力者”を強奪しようとしている輩がいると聞いてね・・セキュリティに抜かりは無いが・・まぁ・・万が一の時の用心ですよ。』

『普段から此処に居られるのなら、私も護衛はしやすいですが外出等する時は一言言って下さい。私の部下に車等を手配させます。外出等に限らず、行動の全てを教えて頂ければ直結構なんですが・・』

ガルルの其の言葉を聞き、立ち止まり振り向く博士は不思議そうな顔をした後に不気味に微笑んで見せた。其の顔に少々不快さを感じるガルルにお構い無しに話を続ける。

『ククク・・・おっと・・失礼した。中尉・・貴方に護衛して頂きたいのは私では無く、“協力者”の方なんです・・。紹介します・・・中へお入り下さい。』

気が付くと何時の間にか廊下の一番奥・・黒い扉の前まで来ていた。微かにあの香りがガルルの鼻を擽っていた。博士が扉の暗証コードを入力しようとした時、不意にポケットから何かを取り出しガルルの方に差し出した。鋭い目線で博士を見ながらガルルは問い掛ける。

『・・・何の薬ですかな・・?』

凍て付く様な声に怯む事無く、博士は薄笑いを浮かべながら答えた。

『・・この中は“汚染物質”に満たされているのでな・・此処のスタッフは全員飲んでおる。大丈夫じゃよ・・一度服用すれば効果は持続する・・さ、飲んで下され?』

ガルルは博士の手の上にある透明なカプセルを見詰めていた。得体の知れない薬もそうだが、この博士自体信用するに値するのか・・・そう考えていた。ある程度の毒物には耐性が付いているガルルでも躊躇う位其の薬は違和感を発していた。しかし、此れを飲まなければ先へは進まない・・ガルルは意を決した様に其の薬を取り、飲み下した。其れを満足気に見た博士は、生体コードを入力し扉を開けた。暗い廊下に明るい陽射しが降り注ぐ・・ガルルは一瞬眼が眩み顔を背けた・・其の時、低い・・しかし耳に心地良い響きを持つ声が聞こえて来た。

『・・・又来たの・・?今日の“実験”は終わりだろ・・今度は何の用?』

『何・・お前さんに友人を連れて来たんじゃよ・・中尉?・・さぁ、此方へ・・。』

まだ少し眩しさを感じながらも、ガルルは導かれる侭に其の声の主に近付いて行った。其の部屋は大きな窓から注がれる光に満たされ、心地良い空間を作り出していた。其の部屋の片隅・・観葉植物の傍に声の主は立っていた。褐色の肌に薄蒼い銀の髪のヒューマンタイプ・・・少年なのか少女なのか判断しがたい体形の持ち主は博士を嫌悪感を露にした眼で一瞥した後、ガルルの方に眼を向けた。其の眼は警戒心で満たされていた。

『最近、良からぬ噂を耳にしてな・・今日からお前の護衛をして貰うガルル中尉じゃ・・中尉、この子は“スレイヴ”・・“協力者”じゃよ。今日から寝食を共にして貰うから其のつもりでな・・』

『!? ・・その様な話は聞いていませんが・・?』

『・・中尉・・決定権は私に有る・・貴方はあの扉の奥にある仮眠室を使うと良い。スレイヴ・・中尉には薬を服用して頂いた・・大人しくしているんだぞ?では、中尉・・後は宜しくお願いしますぞ・・用がある時は其処のモニターで言ってくれたまえ・・。』

其れだけ言うと博士は足早に部屋を後にして行った。半ば幽閉の様な形の護衛に流石のガルルも困惑していた。本部との遣り取りにも支障をきたすが、信号は生きている・・何か有れば此処から出る事もガルルならば何の支障も無いだろう・・だが、この状態になる事が予測出来ない本部でもない事も承知している。真の目的と任務を理解する事が重要だった。

『・・・君も災難だね・・僕は気にしないから適当に寛いでよ。』

スレイヴはそう言うと、観葉植物の傍に有ったソファに腰掛けた。今までにヒューマンタイプに出会った事は数え切れない程有る・・戦いの場でも公式の場でも・・だがこの異質な空間において、こんなにも魅惑的な人物には出会った事は無かった・・そう思いながら長く魅入ってしまったガルルに、困惑しながらスレイヴが口を開いた。

『・・僕が珍しい?それとも何故協力しているか聞きたいの・・?』

スレイヴの言葉に疑問に思っている事を口にした。
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