京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二
□「ANGELUS - ァンジェラス - 」(さる作)
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『そのまさかだよ・・・あれが数多の戦場で恐れられた“赤い悪魔”・・・私の弟ギロロだ。ケロン軍が引いたのは我々に任務が引き継がれたからで、君達の戦艦を恐れたからでは無い・・こうなる事を予測し、避難しただけの事だ。』
『くそぉぉぉぉ!?』
『君とあそこでもがいている奴は殺さないでいてやろう・・・後で聞きたい事もある・・・ゆっくりと話をしようじゃないか・・・?』
凍り付く様な声でそう言うと、撃ち抜いた足を踏み付けた。そいつは声にならない悲鳴を上げると、あっけ無く気絶しやがった。俺は其れを後目にモニターに見入っていた・・・。
紅い花が風に舞う様に軽やかに飛び回り、光の帯が戦艦へと伸びて行く。それらが一瞬の間を置いて花火の様に輝き、其れと同時に戦艦は黒い煙を吐きながらゆっくりと傾き堕ちて行く・・・・あぁ・・綺麗だな・・。
『おぉ・・流石は“赤い悪魔”・・素晴らしい・・』
誰かがそう言った・・・“悪魔”?・・・違うだろ・・?“悪魔”があんなに踊る様に・・綺麗に飛ぶもんか・・・。
『・・・片付いた様だな・・諸君、クルル曹長を窓辺に運びたまえ。ギロロ伍長が回収し、病院に送り届ける。』
『は・・はい。』
堕ち行く戦艦を背に、そう指示するガルル・・こいつ等には最高の“悪夢”になったろうな・・良い気味だぜぇ・・クク・・。息もするのも痛みが走る俺を見たガルルは通信機で衛生兵に連絡を取っている様だった。
『敵艦撃墜及びテロリストと人質を回収、クルル曹長が怪我を負っている。ギロロ伍長が其方に連れて行く・・被害の無い左岸にて待機せよ。』
≪此方地上部隊・・左岸にて待機致します。≫
手際の良い遣り取りが終わった頃・・ガルルが俺に近付いて来て傍で膝を付いた。
『随分と酷く痛め付けられましたな?クルル曹長・・貴方の事ですから何か余計な事でも言ったのでしょう・・?』
・・・本当の事だがこいつに言われると何と無く腹が立つな・・。そう思いつつも、全てが終わり気が抜けた俺は反論する元気も無かった。其れを見て呆れた様にガルルが言う。
『そんな風だから“あれ”の気苦労が絶えないんでは?少しは自重して頂きたい物ですな。』
『クルル!?』
ガルルの言葉が終わるのと、俺の名前を呼ぶ声がほぼ同時に耳に響いた。走り寄る足音が俺に安心感を与えてるなんて・・・センパイ・・知らねぇだろ?
『クルル!大丈夫か!?』
必死の形相で話し掛けるセンパイに、辛うじて親指立てて答える俺・・・其れが限界だった。
『何て酷い事を・・・』
センパイの身体の艶やかさが増す・・・気絶している奴に殺意の篭った視線を投げるが、ガルルに静止される。
『こいつ等は私が回収する。お前はクルル曹長を下まで運ぶんだ。左岸に衛生兵が待機している。』
怒り収まらぬ風のセンパイだったが、俺の方をチラリと見てから深呼吸をし感情を落ち着かせた。
『・・・・了解した。クルル、少し痛むかも知れんが我慢出来るな?』
『・・・・出来なく・・て・も、行くん・だ・・ろ?』
俺の憎まれ口で淡い微笑を見せるセンパイ・・釣られて俺も苦笑いする。そして肩に担がれる様な形でダイビングをする俺達は、互いの体温に安心を覚えた。ゆっくりと降下して行く中、湖に微かに映るセンパイの姿に見惚れてしまった。燃え盛る戦艦の横を、花弁が舞う様に飛ぶセンパイ・・・俺の予想通り、あんたは来てくれた・・・どんなに困難な状況でも怯む事無い姿が好きだ・・ついさっき・・不覚にも囁いちまったけど、本当にセンパイは俺の“ANGELUS”なんだぜ?・・・本人にはぜってぇ言わないけどな・・クク・・こうして俺の最悪につまらねぇ日は、最高のフィナーレで幕を閉じたのだった。