京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「REINCARNATION - 再生 -」(さる作)
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そして・・手が離され我輩の身体は沈んで行った・・。戸惑いは有ったが思い切って深呼吸すると、何かゾロッとした感触の物が肺に入って行くのを感じ思わずぞっとした。2〜3度仰け反る様に咽るが、直ぐに呼吸が出来る事を感じ少しづつ落ち着きを取り戻した。そっと眼を開いてみる・・・歪んだ景色の向こうで先生が我輩の様子を覗き込みながらモニターの調整をしている様だ。我輩の体を包み込む水は熱くも無く、冷たくも無い・・まるで母親に抱かれている様な感覚に陥ってしまう・・・自然に身体が丸くなる・・眠い・・・・・。

『・・・患者は眠った様だ。心拍数や体温に異常は?』

『ありません。全て順調です。』

『良し。ではもう1つのポッドを隣に並べてくれ。リンク出来次第、意識の統合及び素体の入れ替えを行う。』

・・・・遠くで聞こえた先生の声・・・・・暗闇に落ちて行く意識・・・・聞こえて来る水音が懐かしい・・そんな感覚に身を任せていた我輩は、小さな子供の笑い声でふと眼を開いた・・。其れは見た事も無い家の中の2階、父上が子供を抱き上げ・・その子の歓喜の声が辺りを満たしている・・・幸せそうな声・・・そんな時、突然窓ガラスが割れ父上と子供が衝撃に吹き飛ばされる・・・頭に傷を負いながらも起き上がる父上・・・手の中にいる筈の子供がいない事に気付き、必死になって周辺を探す・・・ふと、嫌な光景が眼に飛び込んで来る・・・粉塵が風に流れた時、地面に横たわる小さな・・・・緑色の・・・・父上が悲鳴の様な声で叫ぶ。

『!? ケロロ!!』

驚きで声も出ないでいる我輩の背後から、頭の中で響いていた声が聞こえて来た。

『如何だ・・?自分が死にそうな場面を見るのは・・』

我輩よりも大人びた、でも怒りに満ちた声・・。眼を見開きながら振り返る我輩に、更に追い討ちをかける様に話し出した。

『此れが真実って奴さ・・私はあの日・・父上と共に家で過ごしていた・・柔らかい日差しの中、抱き上げられ・・大好きな父上に遊んで貰える喜びと幸福感で満ち足りていた・・・。そんな時さ、父上を狙ったテロリストが家に手榴弾を投げ込もうとしたのさ・・!だが寸前で父上を尋ねて来た友人・・・ギロロの父親に見つかり、一瞬投げ込むのが遅れた・・・手榴弾は窓の少し下で爆発、其の爆風で私は吹き飛ばされ・・・気が付いたら地面とキスをしていたよ・・。父上も破片で傷を負って仲良く入院・・・父上は全治2ヶ月だったのに対し、私は何時死んでもおかしくない状態だった・・・・だって・・・そうだろう?吹き飛ばされ、地面に叩き付けられたんだ!?2才の子供がだぞ!!・・其処から先はお前も知ってるだろう・・・?』

冷笑を浮かべながら、語尾を強く話す“兄”はジリジリと我輩に近付いて来た・・。我輩は蛇に睨まれた蛙の様に動く事も出来ず、其の手が絡みつくのを感じるしかなかった。ひんやりとした感触に思わず身を硬くする。小刻みに震える我輩に微笑みながら詰め寄る“兄”は何処か泣きそうな顔に見えた。

『私は・・・将来を期待されていた。最高の教育を受け、軍の中枢になるべく・・・父上の誇れる息子になる為に・・・だがあの事故で変わってしまった。“私”と言う存在は無くなり、代わりに“お前”が生きていた・・・父上もあの事故の事は記憶処理され、“私は階段から落ちて重傷、クローン処理された”と・・・・』

『・・・・何で・・・そんな事・・?』

ようやく出た言葉を嘲笑しながら“兄”は答える。

『何故?そんな事も分からないのか?息子を殺しかける原因の自分を責めない父上だと?・・・・苦しむ姿に耐え切れず、母親が望んだのさ・・・愛する夫の記憶処理と愛しい息子の再生を・・ね。如何だ・・?滑稽だろぅ・・?』

苦しそうに言う“兄”は、我輩を抱き締める・・・。我輩は如何してあげれば良いのか・・如何したら楽にさせてあげられるか分かっていた・・だが、此れだけは譲れない事も分かっていた。微かに震える“兄”の背中におずおずと腕を廻し、あやす様にそっと背中を叩く。

『・・・・一緒に帰ろう?どうなるか分からないけど・・・此処にいても寂しいよ・・・ね・・?』

其の言葉に“兄”は答えなかった・・・唯、一度だけピクリと身体を震わせ抱き締める手を緩めた。沈黙が2人を包む・・・我輩がもう一度声を掛け様とした時、“兄”が我輩腕を軋む位の強さで握り締めた。

『っあぁ・・!?』
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