京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「REINCARNATION - 再生 -」(さる作)
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痛みに声が上がる。兄は・・・怒りとも悲しみとも言い難い眼を向けながら、震える声で我輩に言った。

『・・・・・ふざけるな・・・・・此れは・・この身体は私だけの物だ!?意識の統合?そんな物出来る訳が無い!?今の私の存在が良い証拠だ!!・・・寂しいだって?・・・・じゃあお前が慰めてくれよ・・・。』

強引に引き寄せられ、唇を塞がれ其の侭倒される。驚きと恐怖感に手足をバタつかせ抵抗する。同じ自分なのに今の自分よりも大きな身体を持つ“兄”はそんな我輩の抵抗等気にする事も無く、覆い被さる・・息が出来ない苦しさに、押さえつける腕に爪を立てる。

『・・っ!?』

喉の窪みに指を置かれる・・・起き上がろうとすると置かれた指が我輩の息を止める・・。そんな我輩を、爪で傷付けられた腕を舐めながら見下ろす“兄”の眼は、氷の様に冷たかった。

『・・・痛いなぁ・・。お前少しやんちゃが過ぎるみたいだな・・・躾が必要かな・・?』

『・・・・や・・だ・・』

動こうとする我輩を2本の指が止める・・・。敵わない悔しさで涙が出て来る。

『・・・此れはね、相手の動きを封じる基本みたいな物・・この前習っただろ?・・・私はね・・お前の中で唯大人しくしていた訳じゃないんだ・・。お前が眠っている時、さぼりたいと思っていた時・・・ありとあらゆるお前自身の意識が弱まる時に学んでいたんだよ。体術や戦闘術・・武器の扱い・・・僅かだが、2年先に生まれていた事が功を奏したよ・・・父上も良く私に武器の解体や体術を見せてくれてたしね。此処に入院してからはハッキングに凝ったね。まさか患者がやってるとは思わないだろうし、病院のセキュリティなんて軍のに比べれば簡単だしね・・。』

“兄”の手が身体を撫で回す・・・思わず立つ鳥肌にせせら笑いを浮かべながらからかう様に言う。

『あれぇ?何・・・感じちゃってんの?』

『違・・うよ・・如何して・・・こ・・・んな事・・・する・・!っ・・・・んだ・・よ?』

『自分で自分をするんだ・・・別に普通の思春期の男なら当たり前の事だろ?唯、私達は遣り方が他人とは違う・・・・其れだけだ。』

指で・・・手で良い様に扱われる恥ずかしさと、悔しさで血が出る位唇を噛み締める・・。流れる血を指先で優しく拭う“兄”は耳元で囁いた。

『お前が我慢していたら・・・私の気が変わるかも知れないよ・・・?』

其の侭首に・・耳に唇を這わせ、嬲って行く・・・我輩は心の何処かで“兄”の言葉が嘘だと知りながら、僅かな希望を捨て切れずにいた。唯、ゼロロに会いたいと言う希望の為に・・・・プライドも何もかも見ない振りをして、流されるまま落ちて行った。そんな我輩を楽しげに見る“兄”は、我輩の身体に甘い傷と痛みを刻み付け続けた。我輩は蹂躙される感覚の中で、せめて身体の反応が外に出ない事を祈っていた―――。



其の頃・・外の世界ではケロロがポッドに入ってから既に数日が経とうとしていた・・。並行して存在するポッドの中には、身を丸めて癒しを待つケロロと新しい意識を待つケロロが医療用羊水に浮かんでいた。此処数日モニターを続けていたが、時に目立った反応が現れず少なからず医師は焦り始めていた。此の侭では最悪の事態を免れない・・・そう思い始めていた時だった。心電図を見ていた助手が僅かな変化を見て取った。

『先生・・・患者の様子に変化がありました。』

『如何した?』

『・・・ほんの一瞬ですが心拍数に変化が現れたんです・・此処なんですが・・』

助手はグラフを医師に差し出しながら説明した。

『今日は未だ反応を見る為の刺激は与えていません・・彼の内側で何らかの変化があったと考えるのが妥当ではないかと・・』

グラフを見詰める医師に翳りが纏い始める。

『・・・意識が下降線を辿り始めてる・・・表に出ずに深い所に落ち始めているのかも知れない。最深部まで行ってしまうともう戻れなくなってしまうぞ・・!意識を失った身体は衰弱するだけだ・・・急いで上層部に報告!?総員全ての手を尽くして、意識回復に努めろ!!』

慌しく動き始める医療チームを、監視する様に見詰めるセキュリティ用のカメラがあった。其れはまるで好奇心に満ちた子供の眼の様に彼等を見詰めていた・・。見詰めていたのは“兄”の方だった。自分の傍で横たわる“弟”の身体を撫で擦りながら、慌てふためく医師達を嘲笑っている。

『・・・今頃慌てても遅いんだよ・・。この子は私と共に此処で揺らいで行く・・・“彼”にはもう一度会いたかったかな・・?さよなら位言いたかった・・君もそうだろう?』
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