京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「愛の言霊 - Spiritual -」(さる作)
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そう言うと同時に大佐の後方の壁が開き、研究施設の様な装置が現れた。振り向きもせずに歩いて行く大佐の後を走る様に追いかけて行く俺は、其の長い冷えた通路に存在する機器達に眼をやった。其れは俺の居る研究施設に存在していたクローン装置の何倍もの大きさで最新機器らしかった。此れが軍最高指揮官だけに与えられている“特権”に使用されている物だと理解するのにそう時間は掛からなかった。其の奥・・冷え切った室内の突き当たりに其れは存在していた。膝を抱え込む様に身体を丸めて浮かんでいる緑色のケロン人の少年・・・其の隣に新しいそいつの身体らしき物が浮かんでいる。室内灯の反射で顔が見えないが、まだ幼いこいつのクローンなんて有り得るのか?

『紹介しよう。彼が君の受け持つ“患者”・・k−66だ。』

『k−66・・・』

『彼は先日不慮の事故によって身体を損傷・・一命は取り留めたが各所に機能不全・・及び“汚染”が見られ、此処に運ばれ“治療”を受ける事となった。』

まるで“この機械は調子が悪いからメンテナンスを受けている”と聞こえる様な物言いが俺の勘に触った。

『・・・へえ・・こいつが所謂“特権”を持っている軍人には見えないけど・・実験道具な訳?』

俺はワザと嫌味ったらしく言った・・だが大佐は顔色一つ変えずに俺に視線を投げながら言い退けた。

『とんでもない!?・・・彼は貴重な“隊長の資質”を持っているんだ・・・其の彼をこうして“治療”するのは当たり前だろう?・・・身体の方は至って順調に回復しているんだが・・・・・・』

俺に近付き・・・目の前で膝を着いて語り掛ける大佐の眼は獲物を狩る獣の様に鋭かった・・。思わず萎縮した俺の肩を抱き、耳元で低い声で囁く。

『心の方に問題が起きてね・・・元々の彼はもっと幼い頃にクローン化され、今まで何の問題も無く生きて来たのだが思春期を境に“以前の記憶”・・・と言っても2年間なんだが出現して来たらしい。』

『・・・そんな記憶・・何も問題がある訳な・・・』

『そう!・・・問題等ある筈も無かった・・計算上では・・。此れは推測でしかないが、新しい彼の中で其の記憶も同時に成長してしまったらしい。担当した医師に聞いたが、オリジナルの彼はとても利発で知能も高い子供だった・・そう、君に負けない位にね・・・。其の人物が新しい身体の中で新しい知識と経験を積んで行き、更なる進化を遂げた・・・そしてある日自覚する・・“自分の存在”を・・。』

『オリジナルが目覚めバランスが崩れた・・・?』

俺がそう呟くと大佐は嫌な笑い方をし、立ち上がった。そしてポッドの前まで行くと振り向き、俺に言った。

『君の仕事は二つの精神を“統合”し新たなる身体に移し変える事!・・・記憶の移し変えは父親の希望でもあるので変更は出来ない・・・作業は何時から入る?・・・クルル・・・?』

恐ろしかった・・其の眼が・・言葉が恐ろしかった・・。だが目の前に居るこの存在が、俺の人生を変えてくれる事に間違いは無かった。

『・・・・治療の為の器具を用意する・・・2〜3日時間をくれ。』

『良いだろう、此処にある機材は全て君の物だ。好きに使いたまえ。あちらの研究所には人を行かせる。・・君は帰りたくないだろう?部屋は奥にある。彼に関する資料も其処だ。では、健闘を祈る・・』

大佐は反論させる余地を与えずに一気に話し終えると、俺を置いて出て行った。冷徹な足音も聞こえなくなった頃、俺は振り返り其の中に眠る人物に話し掛けた。

『あんたも俺と同じ“造られた”奴なんだな・・・。』

俺の其の言葉にまるで返事をしているかの様に、ゴボリ・・と水音が辺りに鳴り響いた。俺は隣接する部屋へと入って行った。其処は暖かく心地良い音楽が微かに流れていて、小さな窓からは近くの公園が見える囲居心地の良い部屋だった。備え付けのPCが存在する机の上には、k−66に関する資料が山積みに置いてある・・俺は手始めに其の資料全てに眼を通す事にした。―――そいつは俺が想像するよりも厄介な症状が記載されていた。

『・・・無意識下における自覚無い行動や言動・・自覚後にも意識を乗っ取る・・・k−66本人との会話らしき物・・・性格に差が有るのか?・・こいつは厄介だな・・一つ間違えば二人とも消えちまう可能性が有るってこった・・・さて如何する・・薬物・・・無理だな・・・記憶の移行が条件だから完全なる“初期化”も出来ない・・・・統合・・・正反対の性格・・意識の現われ・・・・・・・』

俺はある物の設計に取り掛かった。
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