京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「ESCAPE - Moon Child -」(さる作)
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迷いの無い、真っ直ぐな瞳がスローモーションの様に近付いて来る・・少し湿った・・形の良い薄めの唇が僕の唇に重なり、吐息さえも付けない程の熱を発し始めた。頬に当てられた手は首筋を過ぎり、髪を撫で上げる・・背中に回された腕に力が入る・・僕は抗えない・・・今まで触れ合った人間の中で竜崎が・・竜崎だけが僕の予想や期待を裏切り続けて来た。退屈な日常からの脱出・・居るだけで心が満たされ、触れる度に絡みつく心が僕を深く深く捕らえて行く・・。離さない・・・離れられない・・・竜崎にしがみ付き、唇が離され耳元で囁かれる言葉に酔いしれる。



オマエノガンボウハ・・コンナモノジャナイダロウ?カイラクニオボレテイルダケノボウヤ・・・ソコヲドキナ・・ソイツカラカイホウシテヤルヨ



驚き、伏せていた眼を開くと・・・・・・・・・・腕の中に倒れ、眼を閉じている竜崎の顔があった・・。

『 !? 』

僕に触れ様としたのか・・上げられた手は力無く床に沈み、重みを増す身体に僕は叫び声を上げていた。

『・・ぁぁああああああああああ!?』

『お、落ち着け!ライト!?』

父さんの声・・・そうだ、確かにあれは現実の出来事だった。僕達は逃避行し・・戻って来たんだ。竜崎と過ごしたのは二日間・・・互いが互いを求めていたのに、何かが足りなくて・・・何かを求めて・・・“キラ”を捕まえたら、今度こそ・・もっと遠くへ行きましょうと言った竜崎・・・必ず何処までも付いて行くと答えた僕・・・なのに・・・・・・今、この時この瞬間を受け入れられず、其の夢に逃げた僕の腕に眠る竜崎の身体を父さんが連れ去り、二度と触れる事も出来なくなった僕は再び狂った世界の中に身を置いた。
再び訪れた退屈な日常に耐え切れず、何かを求め流離い僕は進んで行った。そして竜崎だけを求めた僕と、竜崎だけを拒絶した僕はこの世界の神になった・・・―――。やがては訪れる破滅の足音を聞きながら、止まる事の出来ない僕はあの夢を求め・・竜崎の面影を求めて今日も浅い眠りの中に落ちて行く。  《完》
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