京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯一十二


□「予期せぬ出来事」(さる作)
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そしてワタリは振り返らずに部屋を出て行った。僕は以前竜崎が言っていた事を思い出していた。“ワタリはもう一人の“L”なんです。”・・確かにそうだと感じた。彼のあの鋭い眼光や推理力、行動力は賞賛に値する。其の彼に育てられた竜崎・・・彼以上の頭脳を持ち、“キラ”を追い詰める男・・・。

『・・・取り合えず竜崎にの顔でも見ておくか・・。』

僕は竜崎のベッドルームへと移動した。起こさない様に・・最大の気を使いドアを開ける。室内はカーテンが締め切られ、灯りさえ消されていた・・完全なる闇・・僕はほんの少しだけドアを開けたまま中へと入って行った。シーツがなだらかな形を作り出しているのが微かに確認出来る。気配には気が付いているのか、少し蠢いた其の物に近付きながら声を掛けた。

『竜崎?・・・僕だ。月だよ・・具合が悪いって聞いたけど・・・大丈夫なのか?』

『・・・ライト君・・ですか?』

微かに・・弱々しい声が聞こえて来た。僕は其の竜崎らしくない声に動揺した・・。何時ものふてぶてしい・・物の本質を突く様な言い方をする竜崎。腹立たしくも彼との遣り取りは、僕の退屈な日常に色を添えていたのだと改めて感じる。自分の心臓の辺りが鈍い痛みを感じている・・・。

『如何した・・?そんなに具合が悪いのか・・?』

暗闇の中、手探りをする様に進んで行くと膝の辺りに柔らかい感触が触れた・・如何やらベッドの端に辿り着いたらしい。僕は其の侭ベッドの上に乗り、なだらかなスロープを作り出している竜崎の身体に触れた。急に触れたからなのか・・竜崎の身体はビクリと震えた。

『・・?ご免・・驚かしたのか・・?如何してこんなに暗くしてるんだ?・・竜崎?』

竜崎は答えなかった・・それどころかどんどん身体を丸め小さくなって行く。ふと・・以前・・話していた事を思い出し、僕は話し掛けるのを止めた。変わりに彼の隣に横たわり、シーツの上からそっと抱き締め竜崎から話し掛けてくるのを待った。・・ほんの少しの間を置き・・小さな声で竜崎が話を始めた・・。

『・・・・すみません・・頭痛が・・酷くて・・灯りが眼に痛いし・・話し掛けられるのも苦痛だったんですが・・ライト君のお蔭で多少楽になりました・・。』

『ん・・・そうか・・。ケーキ買ってきたけど・・・食べられる?』

『・・・今は・・要らないです。でも、治ったら頂きます・・ね。』

それだけ言うと抱き締める僕の手に自分の手を重ね、強く握り締めた。まるで痛みから逃れる様に強く・・しかし、僕が痛がらない様に最大限の気を使っているのも分かった。こんな竜崎も可愛くて良いかも知れないなと不謹慎にも思ってしまった僕は、彼の耳元に唇を落とした。

『・・・!?・・っふぅ・・・』

思わず漏らしたであろう彼の声は、今まで聞いた事も無い位甘い物だった。其の声に僕は顔を赤らめてしまった・・。其れは竜崎も同じらしく微かに触れている唇に熱が伝わって来る程だった。何と無く恥ずかしい・・今更ながらだと思う・・何度も求め合いながら・・其れに答えて来たのに・・まるでお互いが初めて感じ合う様な感覚・・。急に竜崎が抱き締めている僕の腕に軽く噛み付いた。拗ねた様な甘い噛み方が愛しかった。

『・・・頭痛の日は身体の感覚も鋭敏になってしまうんです・・・不意打ちは・・ずるいですよ・・。』

恥ずかしそうに言う竜崎・・つい意地悪をしたくなる・・。

『ふぅん・・じゃあ・・こんな事をしたら如何なるの?』

小さな耳朶に歯を立てる・・舌を這わせる・・軽く吸う・・其の度に身体を震わせ甘い声を上げる竜崎・・彼が痛みに耐えてるのか快楽に耐えてるのか分からなくなって来た。心の何処かが訴え始める。

“此の侭で良いのか・・?姦るのは簡単だが信頼関係は・・?此処で自分をアピールしとけば後々面倒じゃないぜ・・。”

竜崎に勝つ事ばかり考えているもう一人の自分・・愛しくて抱きたい衝動に駆られる自分・・どれも同じ自分・・“夜神月”であり“キラ”である僕が愛してるのは・・・・。隣室からドアが開く音が聞こえて来た。ワタリが戻って来たらしい・・。

『残念・・ワタリさんだ。竜崎・・薬が来たらしいよ?・・・竜崎?』

竜崎は一度だけ小さく震えると、甘い溜息を付いき・・再び僕の腕に噛み付いた。今度は思い切り強く・・。

『!? 痛っ・・』
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