京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「〓White Breath〓」(月夜野さる著)
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上半身裸のまま自室に戻り、着替えを始める。余りお洒落に興味が無い灯華は、何時も似た様なGパンに白シャツに身を包むとコーヒーを淹れ始めた。一人暮らしを始めてから半年・・・始めのうちはきちんととっていた食事にも手を抜く様になっていた。昨日のうちに買っておいたパンとハムで簡単にサンドウィッチを作り、コーヒーで流し込む。目の前には先程から同じニュースが流れている・・繰り返される名前と事件の概要を灯華は何と無く聞いていた。一人暮らしの女性の変死・・・此の東京と言う街では良くある事だと心の中で感じていた。自分も東京に来る時、散々親に用心する様に言われた・・きっと此のニュースを見て心配した親が今夜にも電話をして来るに違いないと、ホンの少し嫌な気がしている。もう子供では無いのに・・そんな風にも思っていた。ふと・・テレビの時刻に目をやると、時間は既に8時半を回っていた。そろそろ出なければ間に合わないなと考えながらリモコンに手を伸ばした時だった。灯華はたった今聞こえた大学名に耳を疑った。それは灯華が通う大学名だったからだ。慌ててボリュームを上げて、内容に聞き入る・・・。

『・・・・さんは東京女子〇〇大学の3年生で、3月に死亡した田代さんと同じサークルに所属していました。此の事から犯人は此のサークルに関係する人間・・若しくは活動を把握している人間の犯行と推測されています。』

画面には友人らしき女性との泣き叫ぶ姿が映し出され、インタビュアーが向けるマイクに意味の分からない事を吐き出していた。

『連れて行かれたのよ!ゲームに負けて、連れて行かれちゃったのよ!?・・次はあたしかも知れない・・・怖い・・・』

『君!それ、どう言う意味!?犯人を知ってるの!!』

『だから・・・!?』

そこまで言うと急に女生徒は怯え始めた・・インタビュアーが不思議そうに辺りを見回し、カメラも後を追う様にその方向に向く。映し出されるのは興味本位で集まったの野次馬ばかりで、女生徒が怯える程恐ろしい者等いない様に見えた。カメラが女生徒の方に戻ると、彼女はそこから逃げ出そうとしていた。

『いゃ・・・来ないで・・・来ないでぇぇ!』

『あ、君!?』

インタビュアーが引き止めるのも聞かず、女生徒は必死の形相で人波を掻き分けその場から逃げ去って行った。

灯華は驚いた表情でそれを観ていた。何が彼女達に起きて、何に怯えたのか・・・好奇心が灯華の心に芽生えたが、それと同時に“何か”に対しての恐れの様な物が浮かんだ。何とも表現しにくいこの感情を、灯華は振り切ろうと持ったままになっていたリモコンでテレビを消した。黒く塗り潰された画面を見ながら、自分に言い聞かせる様に呟く。

『・・・馬鹿みたい・・きっとすぐに捕まるわ。』

そう・・・きっとすぐに・・そう呟いてみた物の、確信等無かった。だがそう言う事で自分の中に生まれた負の感情を消したかったのだ。灯華はリモコンをテーブルの上に放り投げ、家を後にした。

その頃・・・大学内では先程の女生徒が警察に事情を聞かれていた。

『落ち着いたかな?・・じゃあ君の知っている事を、全部話して貰える?どんな些細な事でも良い・・死んだ彼女は誰かに付きまとわれてたとか、何がトラブルに巻き込まれていたとか・・・どうかな?』

グレーのスーツに身を包んだ刑事らしい若い男が優しく諭す様に問い掛ける物の、女生徒は落ち着き無く辺りを警戒する様に見回しているだけだった。その若い刑事・・葉月(はげつ)は、困った様に小さく溜息を付くと再び女生徒に話し掛けた。

『ねぇ・・・君がそんなに怯える原因と彼女が死んだ理由が知りたいんだ。何があったのか教えてくれないか?』

女生徒の怯えた目が葉月を捉える・・半ば狂喜に満ちた眼をした女生徒は、震える声で話し始めた。

『・・笑わない?』

葉月は微笑みながら頷いた。

『あぁ!笑ったりしない・・どうした?何があった?』

『あたし達・・・同じサークルで、あの娘もあたし達が始めたゲームに参加してて・・』

『ゲーム?どんな?』

『丸い鏡を円になったあたし達の中心に置いてある呪文を唱えるの、そしてジャンケンに負けた娘が・・・あの時は彼女だったんだけど・・鏡を覗き込みながらこう言うの・・・“蒼き世界の王よ・・真実の愛を求める私の元に現れたまえ”って・・』

『それって良くある“恋のおまじない”ってやつ?』

『あたし達もそう思ってた!何処にでもある・・・普通の・・・ほら、良くあるでしょ?月夜の晩に水に浮かんだ自分を見ながら何かすると恋の相手が浮かぶって・・・でも・・あれは違ってた!?』
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