京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「Saudade - サゥダ-ジ - 」(さる作)
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『・・・私を受け入れよ・・・』

母様の声で母様では無い“何か”が私にそう言うと、それは母様の口から白い発光体として姿を現した―――。

『・・・!?・・・や・・・』

静かに・・・だけど確実に自分の方に向かって来る“其れ”は、私の唇へと其の身を近づけて来る。逃げる事も避ける事も出来ない様に力強く拘束された私に出来たのは悲鳴を上げる事だけだった。

『いやだ・・・・いや―――っ!?母様、母様!!』

必死にもがく私を嘲笑うかのように其の発光体は私の中に侵入して行った・・・熱い感覚が喉を通り、胸の真ん中で留まる・・。息が付けない苦しみに身体が痺れて行く・・・・朦朧として行く意識の中で確実に残ったのは、胸に紅く咲いた花の焼け付く様な熱さと・・・・何処か悲しげで・・・何処か安心した様な母様の微笑だった。



『気を失ったか・・・』

何処か冷酷な響きの声に心が冷えて行く・・・此の言葉を発しているのは本当に私なのだろうか―――?

『我が君!間も無く敵兵が此処に来ます!?早くお逃げ下さい!!』

私の部下達が慌てながら私にそう語り掛ける・・・少しも心が動かない・・・私は床に倒れ込む我が子を指し示しながら彼等に命令した。

『お前達、此の子と此の子と同じ時期に産まれた子供達を安全な場所に連れて行け!私は逃げはしない・・・戦いに出るぞ。』

驚きながらも頭を下げ、命令に従う彼等・・・“力の源”を我が子に渡した以上、私も彼等と同じ者だ・・・これも定めの内・・・運命の輪は巡り、あの子も何時か其の定めに振り回され苦悩する事だろう・・・ミアス・・・我が子よ・・・私が亡き後・・少しでも定めに抗い、生き延びる手立てを探しなさい・・・・そして・・・もしも・・・見付からなければ、我が一族全ての者を無に帰すのです・・・全ては私達の定め・・命の理・・・私達はもう此の宇宙には不要の存在、淘汰される種族・・・・。
私は部下の腕に抱かれ、移動を始めた我が子の額に別れのキスをした。

『少しでも時間を稼ぐぞ!戦える者は男でも女でも良い、“変化”して敵を迎え撃て!?』

最後にもう一度だけ我が子を見る。もう会う事は無い頬に軽く触れ、私は戦いの場に出て行った。少しだけでも運命に抗えれば・・・そう思っていた―――。




遠くで何かが弾ける様な音がする・・・小さな子達の泣き声が近くに聞こえる・・・柔らかい草の感触がする・・・・。

『父さん、何時まで此処に隠れていれば良いの?』

何処かで聞いた声・・・薄く眼を開け、辺りに視線を流すと見慣れた数人の大人達と子供達が私を取り囲む様にして話をしていた。

『私達が良いと言うまで、此処で静かにしていなさい。』

『でも遠くで大きな音が沢山しているよ?怖いよ・・・僕達此れからどうなるの?』

『其れは・・・』

私はゆっくりと起き上がり、話に加わろうとした。だが、頭と身体が酷く痛んで言葉を発する事が出来なかった。

『父さん!ミム様が・・・!?』

双子のセルとシムが私の肩を支えながら父親に声を掛けた。

『新しき王よ・・・お母上より伝言でございます。
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