京都市左京区吉田新町一の□□□の一の一千◯二十二


□「月光 - Solo Piano - 」(さる作)
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被害者は何れも若い女性、動機も関連性も無い“無差別殺人”と言っても良い位の現場に何度も立ち会った。必ず残して行く“O”と言うアルファベットの血文字は、被害者の血ではなく犯人の物と推定されていた。隠そうとしない靴跡・・・ワザと残していく髪の毛や指紋・・・だが今までの犯罪者リストに一致する者は無く、目撃者が全くいない事件に自分達は翻弄されていたのは事実だった。男はなおも言葉を続ける。

『色んな物を証拠に残して来たのに、リストに上がってないだけでこんなにも時間が掛かるなんて思わなかったよ・・・世界に誇る日本警察も地に堕ちたもんだねぇ・・・!?』

ライトは其の言葉に怒りを感じた・・・。
尊敬する大好きな父が、寝る間を惜しみ・・・家族との交流も諦めやってきた捜査をたった一言で終わらそうとするこの男が憎らしかった。しかも其の憎い男の手の内にあり、父を困らせている自分が悔しかった・・・。

『もう・・待ち草臥れちまったからさぁ・・どうせ自首するならでかい事やってからにしようと思ってさぁ・・・・な、死んでよ?』

『な・・・!?』

『!?』

男の其の言葉に父もライトも驚愕した。そんな2人をしりめに男は楽しそうに言葉を続ける。

『そうしたら俺、自首するよ?なんだったら今直ぐに応援呼んで良いぜ?・・・あんたはぁ・・・二階級特進?だっけ??・・・新聞の見出しはこうだ・・・“夜神警部、犯人ともみ合いの末死亡!?”・・いや・・・“息子を守った警部 犯人の凶行に散る!”の方が格好良いかぁ?なあ、なあ!?』

『何故そんな・・・君は私に何か恨みでもあるのか?』

男の顔から笑みが消え失せる。

『・・・無いよ・・・そんなもん。世の中が退屈なだけさ。良い成績取っても、真面目に働いても、遊んでてもつまんない・・・友達面して傍に居るくせに足の引っ張り合いだけは一丁前で、何にも出来ない奴ばかりがのさばるなんておかしくない?其の退屈な日常を変えるにはさ、やっぱり刺激が必要でしょ?だ、か、ら、刺激を与えてやったんだぁ・・・次はお前かもよ〜ってメッセージ添えてね。そうしたらさぁ、そいつ勝手に死んじゃってさぁ・・・ずるいだろ?』

男はライトの顔を覗き込みながら話を続けた。

『お前みたいな良い子も、きっとつまらなくなるぜ?だから・・・刺激を与えといてやるよ。』

狂気じみた笑いに、非力な自分は何も出来ない・・・父にこの男の狂気が向けられているのに、助ける術が見つからない・・・ライトは悔しそうに男を睨み付けるしか出来なかった。だが、そんなライトの目は男を喜ばせるだけでしかなかった・・―――。

そんな時・・・ライトの耳元で何かが囁いた―――。

《なぁ・・そいつが憎いか・・?》

驚き回りを見回すライトだったが、声の主は見当たらず自分達の置かれた立場にも変化は無かった。だが、再び声はライトに囁き掛ける・・・。

《お前にしか聞こえてないぜ・・・お前が望むなら、俺がこいつを殺してやるよ・・・》

ライトは其の声に驚いた。此れは自分の内側からの声なのか・・・其れとも別の何かの・・・・?

《ククク・・・悪魔じゃないぜ・・天使でも無いけどな・・・お前が思った事は全部俺様に筒抜けさ・・》

《ほんとう?なら僕をたすけてよ、おとうさんをたすけてよ!?》

男が父に刃物を向けながら、答えを要求する。

『如何するんだぁ?夜神さん・・・其れとも、息子をやっちゃうかぁ!?』

『止めろ!?・・・・其の・・君の要求に応えれば、息子を放してくれるんだな・・・?』

『あぁ!!さっきからそう言ってんだろ?信用しないならさ、車のキー貸しなよ。息子中に入れてやるからさ。』

そのやり取りを聞きながら、ライトは葛藤していた。

《ねぇ、どうすれば良いの?》

《簡単さぁ・・・魔法の本にこいつの名前を書けばいいのさ・・・》

《名前・・・?僕、こいつの名前知らないよ!?》

《其れも大丈夫・・・魔法の目があればな・・・》

『・・・分かった。此れが其の車の鍵だ・・・応援も呼んで良いな?』

『お、OK、OK!大丈夫・・・俺、子供には優しいからさ・・・放ってよこしな・・・。』

父は上着のポケットから車のキーを取り出し、男に向けて放り投げた。男は其れを受け取ると、意気揚々と車に差込み鍵を開ける。
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