小説2

□堕天使の追求
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 あらゆる天使は光を操る程度の能力を所持して、神々しい者として天界では祀られていた。
 そうだ、自分が小さかった時、全てを守り、照らし続けいるその存在に自分も憧れ続けていた。
あそこには自分ができないことがたくさんある。
助けを求めている者達に光を与えて、自分自身も自分が見ていたように周りに見られるのだろう。
自分が天使になった理由はそれだけだった。

 だが、薄々気がつき始めていた。天使は人間たちには悪いイメージを与えることはない。
なぜならそこには対立する悪魔がいるからだ。
だけど実際は関わる事など無い。悪魔は悪魔。天使は天使。本来天使は魂の守護者、転生を待つ魂を守り、死神達の仕事をサポートすることが仕事である。
…そう、扱いで言えば死神も天使も大きな違いはない。だから対になるべきは悪魔ではなく死神なのだ。魂を狩ることを手助けしているわけだし、自らもしなければならないこともある。
それでも自分は天使として誇りを持っていた。白く輝くその羽は天使としての一番の誇り。そして自分が幼児期から憧れていたことだった。


―――なら、なぜ、自分はこうして刑を受けているのだろうか。

 その背中には真っ黒な羽と真っ白な羽があり、両方とも血で固められているのにも関わらず、自分では汚れているふうには感じられない。
 大罪を犯したはずの自分の身体は生を求めて、それだけの一心で身体を動かしていた。
ここで自分を意識のある存在だということは、もう一人も興味はない。
ただ女ならば最低限の憂いにはなりうるという最悪な理由によって生かされているのであって、未だに自分は消えていくことができないのだから――

…自分にとってここは地獄なんて生易しいものではない。地獄では罪を償えば出ることはできるが、自分は誰とも感情を交じあわせられるわけでもなく、罪も償うことさえできないのだから

 もう自分の居場所など、世界のどこにもない。
頭で考えてもやはり身体だけは正直で、壊れかけた羽を動かして自分は逃げた。
どこへ逃げたかも分からない。
天界から脱走して、地上に来て、懸命に動かしている身体が動かなくなった時、自分の意識は真っ黒な沼に落ちるように、ゆっくりと消えていた。


堕天使の追求



「………さぶっ!!」

ある時の冬、博麗神社にて。

「…靈夢、なんでこんな寒い時期にまで朝早くから掃除なんてするの?似合わないわよ」

「なんでこんなに早く起きたのは、あんたが朝から食器をガタガタ鳴らしていたからでしょうが。それに巫女に掃除が似合わないってどういうことよ。大工に金槌が似合わないって言ってるのと同じじゃないの」

 そう返すと靈夢は後ろから毛布にくるまってこちらを見ていた騒霊を睨む。
くるまっている毛布から見えているにブロンドの髪の毛と、正直自分と同じぐらいのそれ以下にも見える顔立ちの騒霊――カナ・アナベラルを見て靈夢は景気付けに大きくため息をついた。

カナ…なぜか知らんがある宝探しの一件で勝手に住み着いた騒霊である。
以前の家で相手にされなくなったから引っ越して来たんだと。ふざけんなと言って殴りたいが相手は霊体だ。残念ながらできない。
なんでこんな厄介者を抱えているかと言えば、
労働力−生活費=プラス
になるから。
なんか面倒な事をしているとは思っているが、なぜか追い出せないのが靈夢の悩みだ。

「ふ〜ん、てっきり人里にある巫女様バーの制服かと思ってたのに。お祓いで男の欲望でも追い払ってたのかと」

「バー…居酒屋は見逃そう。だけどそんな罰当たりな職業を私がするわけないでしょう?」

「罰当たり…だと…?そんな単語が靈夢から出るなんて思わなかった。祟り神しか居ないような神社を誰かが崇拝するわけでもないのに…」

「それ結構気にしてんだけど。そしてどれだけずぼらだと思われているのよ私は?」

 かなりだよ、と口から漏れそうだったのをカナは自嘲した。いい加減にしないと本気で除霊されかなねない。
 この神社の主である博麗靈夢は、とりあえず巫女なら掃除でもするだろう、という適当な考えで箒を持って掃除をしていた。もちろん理由はそれだけではないが。
 年中変わらないように見える普通の巫女服だけども、冬は何気に生地が厚い。
だからどうと言うわけでもない。寒いものは寒いのだ。
多少の布の厚みなど朝の凍るような寒さに対する防壁にしたら薄すぎて話にならない。

これで腋のところの布が修行とか言って無かったら、凍えて死ぬ自信がある。
どうするよ、玄爺がこれ以上修行とか言って色々されたら。…やっぱり鍋にする?

そんな靈夢の思想にも関わらず、落ち葉はまとまる気配など見せる様子はない。
まて、冷静になれ。COOLになるんだ博麗靈夢。どうやって考えてもおかしい。何がって言ったら掃いた所の上から落ち葉が落ちてくるのだから、結局は綺麗になるわけがないではないか。
ただえさえ寒いのにこれ以上冷静になれるわけでもない。
しかし掃除をしなければ落ち葉の層が地面にできることになるために、靈夢は掃き続けているのだ。実に割りに合わない。
カナは二度寝に入っている。もういっそのこと毛布を剥ぎ取って着たくなってきたんですけど…。
 どこかの世界の貧乏巫女と違って、近辺(神社へ向かう道)の妖怪退治は基本的に欠かしていない。
つまり参拝客は少なからずや来るために、掃除をしないで汚くしておくというわけにはいかないのだ。
ただし今年の冬もよく冷えるため、人里でも外に出たがる人間はいないのではないか。

「そしてこんな日には参拝客は来そうにない…って所だろう?調子はどうだい靈夢〜?」

「帰れ」

靈夢が声のする方へと視線を移すと、先ほど言っていたこの神社の祟り神がいる。
緑髪で足がないけど、悪霊なんだから当たり前だろうと、本人も自分も気にしていない。そしてその悪霊、魅魔がニヤニヤしながら訪ねてきたのを、靈夢はとりあえず一言で切り捨てた。

魅魔。以前、博麗に伝わる力だかを取ろうとして狙われたが、返り討ちにして封印した…はずだがすぐに逃げられた。長い間悪霊をしている内に、毒気が抜けたらしい。
今ではたまに来てはちょっかいを出していく参拝客…賽銭に金を入れることはないけど、よく訪れる悪霊ではある。
はた迷惑なことこの上ないが、靈夢もまんざらでもないようで、来るたびに適当に相手をしている。

「だいたいアンタがいたらせっかくの参拝客様が逃げちゃうでしょ。茶を飲みたかったら働きなさい」

「遠慮するわ〜。それにカナだって来てるしねぇ。今日はお酒を持参してきたから。一緒に飲む〜?」

「…酒…だと…?」

よく見ると片手には透明な一升瓶があり、屑(魅魔)がネギ(酒)をしょってきた現象に、靈夢は少し手を止めて考える。

魅魔(屑)は帰ってもいいが、酒(ネギ)が帰られると宛もない喪失感が生まれてくる。特に問題が無いのならいつもの通りに放っとこうか。
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