小説

□博麗のお客さん
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「終わった〜。あーもう疲れた。刹菜さん何かお菓子頂戴」

「お疲れさまです博麗さん。クッキーが余りましたから、今日は紅茶を入れますね」

夕方。
最後のお客さんをようやく見送った後に、1つのテーブルを使って私と霊夢さんは軽い談笑をしていました。

今日は注文が集中していた日でしたから、あっちへこっちへ霊夢さんは動いていたからか、やっぱり疲れたみたいですね。
お皿に簡単にクッキーを盛り、急須で紅茶を入れるという変わったことをした私は、席で待っているであろう霊夢さんの元に行きました。

「…なんで急須から紅い液体が?」

「紅茶です。そんなに身構えないでください。あ、クッキーはお持ち帰りしてもかまいませんよ。今日の余り物ですから」

「うーむ、魔理沙たちに食べられると思うから、少しここで食べてくわね」

そう言うとクッキーを一枚摘まむと、それを口に運んでいました。

ちなみにクッキーは『ゆっくりしていってね!』という言葉が勝手に浮かぶような、霊夢さんの顔をモチーフにした形なんですが、気がつかないみたいでどんどん食べていきます。
色も香料などでしっかり着色した自信作だったんですけど、何故かみなさん叩き割りたくなるようなんです。ムカつく顔ですからねぇ。

「今日でようやく博麗さんのツケも払い終えましたね。いやはや大変でしたか?」

「大変に決まっているじゃない。なんで妖精とか妖怪とか幽霊とかまで注文を取るのよ?行くことより渡すことの方が苦労したみたい」

「まぁ誰にでも平等なのが私のモットーです。人間だけを対象にしてお菓子を売ってるわけではないですからね」

確かに妖怪の山やら地底やらから注文が来たときにはため息をつきたくなりますが、自分のお菓子を食べてもらえるという喜びにはかないません。
ですから輸送料は何処でも定額。まぁお金はあまり興味は無いので適度に生活できるほど有れば良いんですよ。

適度に生活していれば、こんな風に話し相手になってくれる方が訪れるんですからね。

「どうですか博麗さん。神社の神主なんてプータローみたいなことをしてないで、本格的にここに勤めませんか?」

「あんたは全国にいる神主に謝れぇぇ!!って、そう言うわけにもいかないのよ。紫が言うには結構私は幻想郷で重要な役割をしているみたいだし」

「いいじゃないですか博麗さん。私は脱巫女して腋一直線で生きていきます!って高らかに宣言すれば。私も暇なんですよ話す相手が居ないと」

「私って何なのよいったい…。まぁそんな冗談はさておき、寂しいなら私以外に友達でもつくったらどう?」

友達…ですか。

私は湯飲みをコトリとテーブルに置くと、ふと頬杖をついて考えてみることにしました。

「うーん、別に私は博麗さんを友達っていうカテゴリーには入れてませんよ?お客さんです」

「…あのねぇ、そう言うことは本人の前で言うもんじゃないわよまったく…」

「と言うか…どうも私は友達だとか友人というのがよく分からないのですよ」

私の言葉が意味が分からないとでも言うように、霊夢さんは怪訝そうに私を見ています。
どう話すべきか考えながら、私は急須から紅茶を注いで、湯飲みを両手で持って口元に運びました。
…うん香りが素晴らしいです。

「なにそれ?単語の意味が分からないとかそう言う意味?」

「ん〜、まぁそれもあります。じゃあ聞きますけど、霊夢さんにとって霧雨さんやアリス…さんは友達ですよね?じゃあ八雲さんとか西行寺さんとかはどういう関係ですか?」

「どんなって………そうね…何回も宴会はしてるし…」

霊夢さんが本気であれこれ悩んでいる間に、私はクッキーを一枚割って口に含みました。
甘さがしつこくなくて良い。
しばらくたっても悩む霊夢さんに対して、私は軽くため息をつきました。

「まぁそんな感じです。少しでも繋がりがある人を私はお客さんということにしているんです。ですからここに来るお客様とはまた違いますけどね」

なるほど、と納得した霊夢さんは紅茶を一口飲みました。

「…なるほど、だから私の名前を呼ぶときは『博麗さん』なわけね」

「うーんとですね、私にとっては苗字で呼ぶのは普通に信頼しているお客さんぐらいですよ?」

これでも一応人道ぐらいは心得ているつもりです。人間じゃありませんけどね。
普通に友達ともはっきり呼べない人に対して、呼び捨てにするようなことはできませんから。
まぁ呼べないのは私がですから。相手の人格がどうこうとかそれ以前の問題ですよ。

「まぁ…普通の人はお客さんって呼んで、ちょっと苛ついているときは相手の種族を名指しで呼びます」

「…一応聞くけど例えば?」

「そうですね、私が相手に対して『人間』とか『妖怪』とか言い出したら、それはけっこう苛ついてますね」

にっこりと笑って霊夢に言うと、少しだけ顔をひきつらせたのが分かりました。
当然と言えば当然です。そうなるように言ってみたんですから。
笑顔とは時には素晴らしい威嚇になりますね。
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