小説

□都会派のお客さん
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「一応聞きますけど、霧雨さんに言ったことあります?」

「べつに。まぁ、本当に魔法使いになりたいと思うなら、私は止めることもしないし勧めもしない。ただ、私はなってほしくはない。それだけよ」

ふぅ、相変わらずクールですね、アリスさんは。
ですが、私は最後の言葉に引っかかり、こう尋ねました。
まぁ、だからお節介と言われるのですよ。

「後悔していますか?」

私がそう訪ねると、アリスさんはため息混じりに答えてくれました。

「それこそ愚問って言うの。刹菜さんは私がこう言うって分かってて聞いてない?」

「あは、ばれてましたか」

彼女は不老不死ではありません。不老長寿なだけです。ですから死ぬこともできます。
そして、本当に後悔したのなら、元々人間だった彼女が自殺しない理由がありませんよ。
そう、おそらく彼女が友人を魔法使いにしたくない理由はそれでしょうね。

「魔法使いになるなら全てを一度捨てろ。たしかあの祟り神の言ってた事。私は魔理沙にそうなって欲しくはないわね」

私はただ、軽く頷きました。




魔法使いになる。それは簡単そうな響きに聞こえて、凄く重い言葉でもあります。
魔法使いになる、つまりそれは人間であることをやめると言うこと。
それは決して逃れることができない道。例えそう有り続けたいと思っても、変わることのない真実だから。

人間は通常二百年以上生きることはできません。それは肉体的なモノではなく、脳を司る精神がそれ以上生きる事ができるように造られていないからです。
人の最大のストレスは逃れようのない死。
つまり、それ以上に長い時を生きるというのは、友人、家族、知人、幾つもの死を見て生き続けなければならないということです。
その時点で『人間』で有り続けてその悲しみという情報を圧縮できなければ、その『人間』は精神を壊すか死を選ぶでしょう。
考えてもみてください。兄弟のように過ごしてきた友人が一人ずついなくなってしまったら、貴方は胸に残る悲しみなどで潰されてしまうとは思いませんか?
一人でいる人間なんて居ません。必ず生きていれば誰かと繋がりを持つのですから。
精神の崩壊から免れるには、『人間』であることを止めなければならない。
仕方ないという諦めと割りきり。それができなければならない。
…これは稀に持っている人間も存在しますが…ね。
悲しみという精神を圧縮して『人外』と呼ばれる者になれなければ、その人は魔法使いにはなれないのでしょう。



「だいたい、それは刹菜さんにも言えることよ」

「はて、何の事です?」

「貴女が他の人を名前で呼ばない理由。名前で呼んだら深入りしてしまうから、わざと名字で呼んでいるんでしょ?」

ちょっと見ないうちにキツいことを言うようになりましたね。
確かにそれは有るかもしれません。そうしたことで心への負担を軽くして、いるのですから。
ですが、私は人間で有りたいと思っています。
割りきる事ができなくても、ずっと変わらない視点で様々な人の笑顔を見たい。
それができれば私は幸せですから。
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