小説

□都会派のお客さん
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「まぁ立場の問題です。悲しいモノは悲しいし、嬉しいことは嬉しい。それを平等に受けられるのは人間が最も長けています。そんな人達の視点で居るから、私はみんなが笑顔になるようなお菓子を作れるのです」

そう、長寿の者が悲しみを感じないと言っているわけではありません。多少希薄ではあるとは言えますが。
短い時を生きる人間はどんな種族よりも、他の人物との関わりを大切にして、だからこそ悲しみ、喜ぶことができるのです。
そんな種族だからこそ、私は好きなんですから。
勿論他の種族の方々も嫌いな方は居ませんよ。なにも知らない方を嫌いになることは有りませんから。

ふと、私は黙って紅茶を飲みました。
そんなことを考えていたら、ちょっと昔の事を思い出したからです。
私は少し顔をあげて、紅茶を頂いているアリスさんを見ました。


そう、そしてアリスさんにもその時期はありました。


考えてみれば当たり前ですね。だって彼女は魔法使い、少なくとも人間という精神は持っていないと思いますから。

「何?」

そんな風にアリスさんを見ていた私に、少し気になったようでそんな言葉を貰いました。

「あ、いえね、ちょっとだけ昔を思い出していたんですよ。アリスちゃんも子供っぽくて、やんちゃな頃もあったのになぁって思い出しましてね」

くすりと笑ってそう言うと、アリスさんは少しムッとしたようにこちらを見て、軽くため息をつきました。
あ、今私は凄く年寄りくさいことを言ってましたね。母性本能というか老婆心というか。

「刹菜さんって外見は普通の女の子のくせに、母親みたいなことを言うわね」

「いいえ、女性はみんな少女だった頃の心は忘れません。そして、どうせアリスちゃんは里帰りもしてないないんでしょうから、私のこの胸へお母さんの代わりにダイブしても構いませんよ?」

「………………」

「あ、ちょっと無視しないでください。泣きたくなります」

アリスさんはやれやれとでも言うかのようにため息をついて、マグカップに紅茶をそそぎ、私の冗談を軽くスルーしました。
ツッコミ待ちで黙られると本気で泣きたくなります。
あ、そうだ、補足させてもらいますと、アリスさんは魔界人です。そういえば魔界の人間ですから多少は長生きできるんですよね。妖怪ほとではありませんけど。
そして魔界の神様が彼女のお母さんに当たります。言い方を帰れば創造主とも言えます。
そういえば最近見てませんから生きていますかねぇ。

「あ、でもアリスさんも考えようによってはお母さんですよね?まぁ人形ですけど、アリスさんが造ってますし」

「その考えだと私のお母さんの孫が人形ってことになるわね」

普通の方にとっては製作者と作品という立場ではありますが、私の知人曰く、その道のプロの方は作品を子供のように扱います。
つまり、アリスさんにとって人形とは子も当然!人形を爆弾代わりにしてしまったりすることも有りますが、そこは軽くスルーします。実は後でしっかり繕ってますし。

「まぁ良いじゃないですか。アリスちゃんが人形を大切にしているのは本当なんですからね。実は一度も人形を捨てたことがないんでしょう?」

私は少しだけ紅茶を口に含んで、マグカップを置いたアリスさんと目が合いました。
すっと口に手を起き、私の質問に対して真剣に悩んでいるように見えます。
はて、私の質問はそんなに難しかったのでしょうか?

「あるわよ。一度」

やがてそう言ったアリスさんの言葉が簡単に納得できてしまいました。

うーん、また私は墓穴を掘ったようですね。

「あの時、ですね」

「…………」

アリスさんは何も答えません。ただ軽く目を瞑り、何かを思い出しているようにも見えます。




あの時、とは私の恩人が死んだ日でもあります。

その人は人間でした。
ですけど様々な方達がその人に惹かれ、幼いころのアリスさんもその中の一人でした。
私はアリスさんが何を求めて魔法使いになったかは知りません。魔法使いは昔から無を求める者とも言いますから、私が考えることはできないんですね。

さて、そんな中私の恩人は寿命からか重い病気にかかってしまいます。それも治ることはなく、確実に死が訪れる病。
ですが、その頃はまだ″幼い人間″であったアリスさんが、自分の惹かれていた人間が死ぬ、ということを受け入れられたでしょうか?
答えはNO、その時にアリスさんは始めてその病気が治るように祈って人形を創りました。
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