小説

□紅い館のお客さん
2ページ/6ページ

「門番という仕事といいますと、やっぱり四六時中その場に居るのは大変ですね」

「そうなんですよー。私は妖怪で朝起きてるのは苦手なのに、真っ昼間に魔理沙さんが図書館に来るんですから。あ、でも今訪れたら咲夜さんに手伝わされます」

私はクスリと笑い、美鈴さんの横で本を読むパチュリーさんを見ました。
相変わらず本をずっと読んでいまして、図書館の話をしているのに聞こえないと言うことは、やっぱり熱中しているみたいですね。
もう一度美鈴さんに視線を戻して、私はいつものクッキーをつまんで割りました。

「門番なのに何回も侵入者を通したりしたら、十六夜さんやスカーレットさんには怒られません?」

「あ、それは言わないでくださいよぅ。こう見えても結構気にしているんですから」

私が少しふざけたように言うと、美鈴さんは少しだけ口を尖らせて拗ねる真似をしました。
それを見たら私も、ぷっ、と吹き出してしまって、つられたように美鈴さんも笑いました。

美鈴さんは紅魔館の門番さんです。門番と言うからには実力はかなりのもので、昔私がお初目にかかろうとお菓子を持っていったところ、一緒に食べちゃってスカーレットさんに怒られました。あれ?実力が関係ありませんね。
と、まぁ美鈴さんは妖怪の中ではとても穏やかな性格でして、私が知る中では随分珍しい方です。私の知り合いの中でも懇意な方だと思いますし。
で、こちらは…


私はすっと本から手を放して正面を見たパチュリーさんと目が合いました。

「………?……」

顔を上げて辺りの風景が変わっていたのが少しだけ驚いたようですが、すぐに何事もなく私の出した紅茶に口をつけました。
夢から目覚めたら見知らぬ場所にいた、っていう状態に近いはずなのに、素晴らしく落ち着いてますね。気がついたら霧雨さんに侵入されてた、何てことはザラのようですから、慣れてしまったんですかねぇ。

ふと横を見ると美鈴さんが居たことで、何となく状況を察したらしく、すっと目を細めました。

「あ、え、その、…パチュリー様?あの、あのですね、これには深いわけがありましてですね…」

「美鈴」

「は、はい!」

「おかわり」

冷めていたらしくあっという間に飲みきってしまったパチュリーさんは、そう言ってマグカップを置きました。

「は、はい!すぐに淹れてきます!」

と、そんなことしなくてもお客さんなんですから私が淹れますけど。
それを言う前に美鈴はさっと厨房に向かってしまいました。
どうしてこう、美鈴さんはせっかちさんなんでしょう。少しはパチュリーさんを見習ってほしいものですよ。

「こんにちは、ノーレッジさん。会うのは何回目でしたっけ?」

「…前に会ったのは紅魔館で、ここに来るのは始めてだから、多分二回目だと思うけど?」

「そうですね。ですから私としては貴女と話すのはとても楽しみなんですよ」

ふぅん、と相づちをうったパチュリーさんは、スッと手を伸ばして途中で止めました。いつもなら周りには本が有りますが、今日はここに居ますから、つい癖でやってしまったみたいです。
軽くため息をついてから、そのままその手をクッキーまで伸ばしました。

パチュリーさんと話したことはあんまりなくて、こうして相手の前に座って会話をするのは初めてです。
聞いた話だと、パチュリーさんは魔女、とのことです。
では魔法使いじゃないのでしょうか、と考えたところ、人間から魔法を使うようになったのが魔法使いで、最初から魔法使いなのが魔女…あれ?最初から魔法使いだったら魔法使いじゃないんでしょうか…?

考えても分かりませんね。最初から魔力を持ってたら魔女という事で私の思考は落ち着きました。

「ぱ、パチュリー様、紅茶を淹れてきました!」

と、良いタイミングで美鈴さんがもどってきたようです。
私はとりあえず美鈴さんが座るのを見計らってから、一言紅茶を口に含みました。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ