小説

□紅い館のお客さん
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「本当に紅さんはせっかちですねぇ。少しは落ち着きとゆとりをもって行動しないと色々失敗しますよ?ノーレッジさんもそう思いません?」

いそいそと椅子に座った美鈴さんを見て私はそう言うと、パチュリーさんは少しだけ考えたようにマグカップから手を離すと、結論が出たようで軽く頷きました。

「確かに美鈴は緊張しすぎ。いくら私が居るといっても、ここは紅魔館じゃないんだから、少しは肩の力を抜いてもいいんじゃない?」

「そ、そうですか?私は…結構普通にしているつもりなんですけど…」

ふーむ、やっぱり落ち着かせるためにはココアよりもお茶でしたか。
しばらくたてば落ち着くと思いますし、ここには私とパチュリーさんぐらいしか居ませんから…
あ、成る程。いつもはパチュリーさんは図書館に居ますから、常に周りに誰か居ますけど、今日は何かあったら美鈴さんが動かなければなりませんからね。責任重大というわけですか。

「やれやれ、気を緩める方法を知らないと、働くことなんてできませんよ。たまーに気を抜くのも悪くありません」

「…門番が気を抜くのは致命的だと私は思うけど。まぁ美鈴はいつも寝ているからあまり関係ないか」

「そ、そんなことはありませんよ!夜中はきちんと不審者一人入らないように見張ってます!」

夜中は、ですか。
昼は苦手だと言ってましたから仕方ないですね。

ですが昼間も夜中も門番をしているということは、一日中働くということになります。つまり、24時間フル出勤というわけですか。

「よくそんな辛い仕事をやってますね。自分から言い出したんですか?」

私がそう聞きますと、美鈴さんは慌てて首をふりました。

「あ、いやそういう訳じゃなくて、私は元々メイド長を希望していたんですけど、咲夜さんがいますから。こう見えても、私だって料理は咲夜さんにだって負けませんよ!」

美鈴さんは、えっへん、と胸をはって自信満々に答えました。

いや、どちらかと言えば見た目通り、といいたくなります。どう見ても門番というよりは、保護者、保母さん系の仕事が似合うと思います。
何よりスタイルが中々どころか素晴らしい。豊満な胸やキュッとしまった腰。
思わずパチュリーさんの方を見て比べてしまいました。

…………ニヤニヤ。ハッ!?

危ない危ない。まぁですが美鈴さんは綺麗ですし、どちらかと言えば女性といえます。
紅魔館の少女たちは見た目結構若いですし。


それにしても…

「良い人材。どうです紅さん、持ち場を放棄して甘味処に再就職しちゃいません?私は大歓迎ですよ〜」

私がそう聞きますと、少しだけ困ったような表情をしてから首を振りました。
はて?なんででしょう。やっぱりスカウトの仕方が間違っているんでしょうか?。
私も首を傾げますと、パチュリーさんはため息をついて、私にこう言いました。

「レミィに殺されるわよ」

軽々しく恐ろしいことを言われました。
半分呆れながらそういったパチュリーさんの言葉は、確かに考えられなくもないことです。

むぅ、ですが殺されるだなんて不吉なことを言われると不安になりますよ。


「えーと…私は紅魔館が好きですから。だから刹菜さんの気持ちは嬉しいですけど、断らせてもらいます」


美鈴さんはふっと表情を緩めてそう言いました。

成る程、またしても私は従業員のスカウトに失敗したようです。
美鈴さんにとって紅魔館がどういう所か、私には分かりません。
ですが、彼女がそこに縛られていないのなら、私が口を出す必要はありませんね。
そこに確かに幸せがあるとすれば、彼女自身がそこにいたいと思ったことでしょう。
まったく、惜しいですねぇ。
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