小説2

□堕天使の追求
3ページ/17ページ

 一方博麗神社の中

「霧雨どの、霊力の増強というものは潜在的な能力も関係するため、やはりそれ以上上げると言うことは難しいでしょう」

 神社の中側では、赤髪の魔法使いと空中に浮かんだ亀が対話をしていて、妖怪が話が終わるのを待っているという、とてもシュールな光景があった。
 片方はまだ少女の面影が少し残った魔法使いで、少しだけ尖った耳を除いたとすれば、どこから見ても普通の魔法使い。
魔法使いを普通の定義に入れるのはどこかおかしい気がするが、それがおかしくない世界だから仕方ない。
 一方の年老いたようにシワが目立つ皮膚を見せる浮かんだ亀は、かなりの年月を過ごしてきたのか、落ち着きのある雰囲気を出している。
 そしてその二人の場所から少しおいた地点では、そこの壁にもたれて瞼を閉じている妖怪がいる。肩まで伸ばした緑がかった髪に赤いチェックの服を着たその妖怪は見た目は靈夢と変わらないぐらいの年齢だろう。ただしその物差しを人間に合わせた場合だが。

「玄爺さん、それはあたいこれ以上修行しても魔力を上げることをできないってこと?」

 真剣な表情で尋ねた問いに、玄爺は頷いて肯定の仕草を見せる。
それと同じように霧雨もどこかしょんぼりとしたようにうつむいた。

「…しかし貴女は十分に周りの方々と渡り合っている。それ以上の力を求める必要が有るのでしょうか?」

玄爺は不思議そうに魔梨沙に尋ねる。

「…う〜ん、あたいは別に力が欲しいわけじゃなくてだね…、今の魔力だと試したい魔術の必要量には足りないんだよ。せっかく幽香が魔法に近いからって言って教えてくれるからさ」

 そこで魔梨沙は幽香の方を見ると、表情を若干明るくして答えた。
だが玄爺が言った言葉は一言

「…ありえん。そんなことはご主人が1ヶ月修行を続けること並みに稀ですよ。どこか頭でも強打しましたか?」

「…遠回しに私に悪口を言うなんて、相変わらず貴方は命知らずといったところかしら?」

「まぁあのご主人がいれば大抵はそうなりますな」

幽香と玄爺は苦笑しているのを見て、魔梨沙は歳をくっている者同士何か通じる者でもあるかと思ったが、絶対に口には出さない。
玄爺はともかく幽香にそんなことを言えば、
「できるだけ優しく殺してください、はぁと」
と言うようなものだ。
せっかく珍しい魔法を教えてくれると言うのに機嫌を損ねる必要はないのだから。
 まぁ教えてくれると言っても、幽香が使っていたレーザーを上手く魔法に変えたような物で、これを元々使っていたのが自称最強の妖怪だ。制御ができない今だととても魔力が足りない。二発撃って倒れてしまうぐらいだ。


そこで魔力の基となる霊力の増強を狙って、靈夢に会いに来るついでに玄爺に話を聞こうと思ったのだ……

「ふむ…、ですが毎日霊力を空にすることは、身体に負担をかけることになりますが、あなたにとって悪いことではないでしょうな。」

「えっと、それはなんで?」

霧雨は不思議そうに首をかしげる。

「確かに人間であるあなたが、これ以上霊力を増強することは難しいでございましょう。しかし霊力の総量は心筋機能と同じように鍛えられるものです。毎日自分自身を痛め付ければ、身体もそれに対応するために、総量を増やすことになるはずです。」

「ようはあたいの努力次第で少しづつ伸びていくってこと?」

「そう、わたしの主人にも見習って欲しいものでございます」

 玄爺そう言ったが笑ったのを見て、魔梨沙は思わず口元をゆるめた。

「しかし幽香が人間に自分の技を教えるなど理由が分かりませんな。最強を名乗り弱者には興味の示さない貴女がすることとは到底思えませぬ」

心底分からないといった様子で相手に聞こえるように独り言を漏らすと、こちらこそ分からないと言うように幽香は眉をひそめていた。

「…誰よその私が人間嫌いみたいな噂を広げた馬鹿者は。別に私は強者にしか興味を示さないわけじゃないくて、たまたま弱者の中に興味が示せる対象が居ないだけ。あなたたちが興味を持つ人物と持たない人物が有るように、妖怪もそれぐらいは考えるものよ」

「…う〜ん、あたいが言うのも何だけどさ、幽香って誇りとか威厳とか大切にしているように思ってたんだけど…違うかな?」

 少し前、ひょっこり出会った時に、幽香の魔砲の撃ち方教えてくれない?、ってふざけて聞いてみたら、面白そうだから良いわよ、と二つ返事で許可を貰ってしまったので、霧雨としては疑問が出てきたのだ。
人間と馴れ馴れしくするという行為は、妖怪の中では好かない者も少なくはない。
それが最強を自ら名乗る幽香なら尚更じゃないか、と。

「まさかカリスマも威厳も垂れ流しにしている祟り神の弟子が言う言葉とは思えないわね」

「…なんかここは怒るとこかもしれないけど当たりすぎてて否定できない…。最近ここの参拝客に悪戯したりしてるらしいし…カリスマが…。って、魅魔さまは関係ないよね?」

「つまり誇りや威厳を無くしたなら取り戻せばいい。人間より遥かに長い時間を生きる妖怪が、それらを無くすことを怖がって目の前の物事に手が出せないなんて滑稽でしかないでしょ?」

有限の時を生きている人間は、一度威厳を失えば余程の事が無ければ取り戻す事ができない。
だが妖怪はどうか。無限の時を生きる妖怪がそこまで意地を張って守る必要が有るのかどうか。

「中途半端にプライドの高い妖怪にはよくある話ね。一回失ったことが無いから失うのが怖い、ただの臆病者よ。だけど私は違う。一回失えばどれだけ面倒な物を抱えていたのかよく分かるのよ」

なんとなく思った。
威厳や誇りを大切にしたりするって事は、もしかしたら一番人間臭いことなのかもしれない。
だけどそれが分かるのは年齢と経験を重ねた者だけなのかもしれない。
…もしかしたら魅魔さまもそうなのかな?

…ん?なんかそれって…

「ほう、だいぶ考えがご主人に似ているように思えますなぁ」

あぁ、確かに。

「そうね。私やあなた達、外に居た祟り神と騒霊。いつの間にかあの巫女の周りには誰かが居る。カリスマという意味は″人物を惹き付ける魅力″。だとすれば多分靈夢は――」
「ちょっとー!なんか行き倒れが居たんだけどどうしたら良いと思う!?」


障子が外れそうな勢いで開けた音は見事に幽香の言った言葉をかき消していた。まぁ当然の如く会話だってストップしている。

…今ね、珍しく幽香が靈夢を誉めそうになったんだよね?
もう少しぐらい待ってくれても良かったんだよ。
分かりやすく言えば空気を読んでよいやホントに…。

「…但し、威厳は有りませんがな」

「同感。珍しく意見が合った」

 また玄爺と幽香はくっくと小さく笑った。
靈夢は首を傾げてあたいの方を向きながら、これなに?、とでも言いたげな自然を送ってきている。
んなもん聞かれても分かるわけがない。
知らん、とりあえずそう視線で返してみると、驚く事に分かったらしく、靈夢は腰に手を当ててため息をついた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ